#10 ゼロ距離

 てか、ヒントを続けてくれるのか?


 どんな気まぐれな風の吹き回しだ?


 いきなり親切になって逆に怖いぞ。


 もしかして、デザート効果なのか?


 先ほどの感じた異様な空気感に背中を押されて無性に怖くもなる。


 どこかに落とし穴はないか、罠ではないのかと身構えてしまってから唖然となる。


 それでも、願ってもない申し出だ。


 ただし、


 まあ、でも、これも、それも、あれも全て俺のお金からだからな。


 トホホ。


 くどいようだが、ヒントを続けてくれるならば願ったり叶ったり。様子をうかがう。言葉を待つ。無論、このあとフーが言った、毎日、食べても飽きないという言葉の真の意味を知る事となる。そして、またしても、やられたと思う僕なわけなのだが。


 ともかくハウが笑ってから続ける。


「パチンコ玉の出所の話。ネットじゃないなら、じゃ、……どこでって思ってる?」


 ズイッと僕を下から、のぞき込む。


 あの距離感がゼロなる急接近でだ。


 もう慣れたが、ハウの馴れ馴れしさは、それこそ距離感ゼロだな。


 ともかく両肩を掴んで、押し戻す。


「ああ。分からない。けどパチンコ玉を売ってるお店から直接買ったって事は分かる。ネットで買ったんじゃなかったら、当たり前に、そうなるからさ。でも……」


 でもな。


「そのパチンコ玉を売っているお店ってのが、どこかは分からない」


 と、湯飲みを力強くも握りしめる。


 またグイッと一気に茶を流し込む。


 落ち着きを取り戻す為、ふぅと一つ大きく抜けるような息を吐く。


 その様を見たハウがまた笑い言う。


「それを調べるのがコレなんだわさ」


 と、黄色いタウンページを掲げる。


 タウンページ、だと?


 そうか。


 なるほど、ここでか。


 あれは、その為にか。


「そそ。パチンコ玉を売ってるお店の特定に使うわけ。どう使うかは、とりあえず会計を済ましてから話すよ。そうしないといけないわけがあるからさ。OK?」


 会計を済ましてから?


「じゃ、行こっかッ!」


 僕の手を握ってレジへと引っ張る。


 ちょっと待て。待て。


 そうしないといけない理由がある?


 益々以て意味が分からなくなった。


 なぜ、ここの会計が関係あるんだ?


 とも思うが、それでもパチンコ玉が、どこで買われたのか分からない。その店を特定する手も持ち合わせていない。だったら促されるまま会計を済ますしか道は残されていない。だからこそハウに伴われてレジに向かって、のろのろと歩を進める。


 そして、


 レジに着いて、いくらかの時間が過ぎたあと……、茫然自失な僕。


 無論、会計を済ませようとして、その時、またやられてしまったと思ったわけだ。


「5万円だと。会計が5万円だと?」


 あり得ない金額を請求されたのだ。


 マジかと固まってしまったわけだ。

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