#09 灯台下暗し
「消せない理由が在るからこそ誰がなにを買ったという履歴が絶対的に売った側のデーターとして残ってしまうわけさ。だからネットでってのは悪手なわけよ」
つまり、
将棋で王手をされて王が動かない位の悪手だね。
なんて顔をするハウ。
「トリックに使われたものだったら余計にだわさ」
僕は、ゴクリと重苦しい音を立てて、息をのむ。
息をのんだあと喉が渇き、ハウを見習い、緑茶を喉へと流し込む。
ふうっ。
そうか。
まとめると、ネット上での取引では売った側に履歴が残ってしまう。加えて匿名性も砂上の楼閣。少し調べるだけでも、誰が、いつ、なにを買ったのかは一目瞭然となる。だからこそトリックに使うものをネット上で買うのは悪手というわけか。
てかッ!
お前、ハウ、お前ッ!
いつの間にあんみつパフェなんて頼んだんだッ!
「うまうま、うめぇ~」
満面の笑みで、今にもほっぺが落ちそうなハウ。
そうなのだ。今、彼女は美味しそうに白玉とソフトクリーム、そして、生チョコソースのハーモニーが織りなす魅惑を頬張って神秘体験中なわけだ。慌ててフーとホワイも確認してみる。彼らも、また美味しそうに、それぞれなデザートを食している。
それってッ、僕の奢りなんスよね?
いや、それもッスね?
涙が止まらない。哀しみと侘しさが止まらない。
というか、なんで、僕のだけ、ないんですかね?
なんで無いの、僕のだけさ。ねぇ?
ねぇ、ねぇってばさ。
ハウはパフェのアイスが付いたスプーンで僕を指さしてから言う。
「補足しておくわさ。売った側が履歴を消さないわけをね。単純に税金の申告に必要だからだよ。売った履歴ってのは売り上げ伝票や領収書の代わりなわけなのさ」
クソッ。
一旦、パフェの事は忘れよう。果てしないほどの悲しみだけどな。
それよりも、今は履歴についでだ。
うんッ?
ああ、そうか。なるほど理解した。
僕とてフリーランスのライターだ。
年度末には、きちんと確定申告をしている。その時、必要となる伝票なわけだな。
無論、ネット上での取引は実際に紙としての伝票ではないけどもといった感じか。
ハウの隣でホワイは桃色のアイスクリームを口へと運んで微笑む。
微笑みながら、その愛らしい瞳で語る彼女。……このあと、もっと驚きの展開が待っていますわ。つまりカツ丼の特上とデザートは始まりに過ぎないのです。その為の注文変更なのですからね、と笑む。なにが言いたいのかは、さっぱりだけども。
それでも僕にとって決して良い事ではないというのだけは分かる。
続けて、
抹茶ムースを食べ終えフーが言う。
ふむっ。
「とても美味しかったです。この味であったら、毎日、食べても飽きませんね。よろしい。では、ハウ、確認のあとヒントを続けて下さい。より分かりやすくです」
おしぼりで、口の端を静かに拭う。
その所作が、怖くて身震いがした。
妙な雰囲気を醸し出していたのだ。
暖房が効いた部屋にあっても僕の周りだけ温度が数度も下がったような気がした。
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