#03 アレとそれ

「うん。覚えてるっぽいね。そそ。水たまりの話。アレはトリックの補助として機能していたかもなんだけど、それはないっぽい。だから、それよりかは重要なんだ」


 それそれ言われて、少し混乱した。


 ただ適当に言葉を吐いているように見えて、その実、上手い事、分かりやすく話していた。アレとそれそれを駆使して僕にもパチンコ玉の意義を十全に理解しやすく解説してくれていたのだ。それは、この後に続くハウの言葉で思い知る事となる。


「つまりパチンコ玉はアレとかそれとかで形容できない位にはトリックに対して重要なんだわさ。物語の中での名前のないモブと名前のある主要人物くらいの差かな」


 おおう?


 ああ、そうか。うん。分かったぞ。


 水たまりはモブでパチンコ玉は主要な人物というわけか。


 だから、


 トリックに対して主要な役割を持つパチンコ玉はアレやそれでは表現できないと。


 そういう事か。……、つまりパチンコ玉がないとトリックは成り立たない。それ位には重要。けども直接的な死因には関係がない。そこまでは分かったぞ。ただ同時に新たな疑問が浮かんできた。パチンコ玉がないとトリックが成り立たないのに……、


 なぜ、直接的には関係がないんだ?


 両手のひらを開き天に向けるハウ。


「……ふぅ。また、分からないって顔してるね。分かった。もう少しだけ突っ込んだヒントをあげる。パチンコ玉があれば、より確実に殺せるって事。これでいい?」


「こ、こけさせるとか? 奈緒子を」


 自分でも間抜けな物言いだと思う。


 それでも、ハウに、これでお終いと言われてしまったような気になり、焦って言葉を吐く。なんでもいい、これで、お終いではなく続きが聞きたいとだ。そんな僕の必死な形相が面白かったのか、ハウは腹を抱えて笑い、大丈夫と答えを提示する。


「それはないわ。ないね。あり得ん」


 ないを三回も言うな。言葉を換え。


 僕だって猛烈に恥ずかしいだから。


「あれだけの数が揃っていてもパチンコ玉で、こけさせられる可能性は30%にも満たないよ。そんな方法で殺すなんて負け戦が確実の博打を打つより愚かだわさ」


 あたしだったら絶対にやらないね。


 などと馬鹿にされた気にもなった。


 それは僕だって考えたさ。だからこそ聞いたんだよ。確認の為だ。……などとも思うが、これは間違いなく悔し紛れだな。僕自身の中でもないと結論づけた事を改めて確認する必要など、どこにもないのだから。天を仰ぎ、大きく一つ息を吐く。


「とにかく、あたしが犯人だったら相手が確実に死ぬ方法を選ぶ。だって死ななかったら、その足で警察に駆け込まれて、殺人未遂で逮捕されてハイホーだからね」


 まあ、そうだろうな。間違いない。


「じゃ、パチンコ玉には、一体どんな意味があったんだ?」


 ダメ元で答えてくれないだろうと思いながらも、素直に疑問を形にして吐き出す。


 ハウは、


 また御手元の袋を膨らまして言う。


「まあ、出血大サービスだわさ。カツ丼を奢ってもらったしね。そそ。パチンコ玉は奈緒子を罠にかけ、殺す為の前準備を行う為に使われたんだわさ。OKかな?」


 これにてお終いなり。これ以上は、


 追加でヒント料を払ってちょうせ。


 といった感じで、また腹を抱えた。


 もう少しだけ聞きたい事もあったが、これ以上は、やぶ蛇だと僕も静かに黙った。

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