#02 領分

「今日は暑かったですね。汗が止まらなくて困りましたよ」


 軽口から入ってみる。


「フムッ」


 怪訝そうな顔のフー。


「てか、真冬に暑いって……、ケンダマンって変態なの?」


 とハウが大笑いする。


 僕は、また狼狽える。


 し、しまった。そうだ。さっきまで寒空の下、現場検証をしていたんだ。暑いなんて言ってしまった。いきなりのミステイク。確かにホワイからの一言で体温が急激に上がったのは間違いない。加えて、暖房がガンガンと効いている部屋に入った。


 だから暑くなった。でも、今は真冬だったぁ。しまった。


 クソが。


 また額に汗が浮かんできて慌てて、おしぼりを手に取る。


 クソッ。


 クソッ。


 クソッ。


「フムッ」


 フーが真面目な目つきで見つめる。


「どうやら山口君には思惑があるようですね。ただ、わたくし達に計算勝負を挑むのは、いささか無理がありますが。まあ、でも、少しだけ付き合ってあげましょう」


 というか、なんとも言えない屈辱。


 思惑があるとバラされ、その上、付き合ってあげるだと?


 グギギ。


 ……でも、ごめん。お願いします。


 へたれと笑うがいいさ。だがな。僕が立てた計算がバレたのだ。このままではカツ丼並を4人前の代金である3200円が水泡に帰する。つまり文字単価1円で3000文字超えの記事を書く労力が泡のように消えてしまうのだ。それは避けたい。


 だったら、ここは安っぽいプライドなど捨て去るべきだ。


 そして、


 なんの気まぐれなのかは知らないが、思惑に付き合ってもらう方が100倍良い。


「フム。まあ、そんなに力まないで下さい。付き合いますから。ただ芝居くさく回りくどいのは勘弁して下さいよ。単刀直入に本題に入って頂ければと思います」


 ああ、なんだかフーがありがたい神様にも見えてきたぞ。


 今のフーには後光さえも射しているような気にもなってくる。これで草葉の陰で白い歯を魅せ、ほくそ笑む孫悟空さえいなければ完璧なのだが。そうだ。もう臭い三文芝居などやめだ。やめ。男らしく直球勝負。とにかくと意を決し本題に入る。


「先ほどのパチンコ玉の話なんですが……、アレはダミーで布石との事ですが、直接的な死因には関係していないと考えてもいいのですか? 僕はそうとりましたが」


 机に置かれた湯飲みを手に取って温かい緑茶を一口、口に含み、喉を鳴らすフー。


「トリックに関してはハウの領分なのですがね。まあ、いいでしょう。わたくしが答えましょう。そうですね。パチンコ玉は直接的な死因には関係していません」


 そののちフゥっと大きな息を吐く。


「てかッ」


 ハウが御手元の袋を口で膨らまして不満そうに口を開く。


 また、こいつは、いらない茶々を。


「パパ。ハウちゃん大活躍の舞台を奪わないでよ。ここからは、あたしが答えるよ。トリックは、このあたしに全て任せなさ~いだわさ。OK、なんでも聞いてちょ」


 フーは、やれやれだと苦笑いしながらも、黙ってしまう。


 そして、


 ハウが笑いながらも二の句を繋ぐ。


「あの木の話、覚えてる? 見てる所が違うのさって話したやつ。忘れちゃった?」


 ああ、あの水たまりがどうのとか言っていたやつだろう?

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