#04 イン・ゴー
へいッ、お待ちッ! カツ丼、特上、三つと並を一つ。
今時、へいなんて言う人いるんだな。
違うッ!
違うわ。うっさい。うっさいぞ、僕。
というか、なんだよッ! 特上って。
並が四つだったはずだ。それがいつの間にか特上が三つに並が一つになっている。
これは、まるで進化論こそ正義だと信じ切っていたら眼前に右手をあげたフレンドリーなアダムとイブが現れたってところか。灰色ダニットの面々が、どこかからタイムマシーンを強奪し、過去から無理矢理、始祖を連れてきたかのような現況。
「お、待ってましたぞッ!! 腹ペコ」
とハウが右手を挙げてフレンドリー。
クソッ。
舌打つ。
店員は、不満な顔つきの僕など知らぬとばかり、机に特上を三つと並を一つ置く。
特上は、こっちだわさとハウが言い、続けて、わたくしもですとフーがのたまう。
まあ、でも並が一つならば、この場合、僕が並なのか?
なのか?
それでいいのか? 本当にいいのか?
僕の奢りで代金は僕が支払うんだぞ?
ちくしょうッ! なんなんだよ、この意味不明な状況。
顔を真っ赤にして、怒りというか、遙かなる哀しみというか、そんなものが入り交じった言葉では表せない謎表情になってしまう。歯がみをしたら奥歯が欠けてしまう。舌打ちをすれば舌をかみ切ってしまうやもしれぬ。そこに戻ってくるホワイ嬢。
しずしずとしながらも芯が強そうに。
「お待たせしました。少しお化粧直しをしておりました」
「アハハ」
とハウが割り箸を割って特上のカツ丼に手を付けながら鋭く突っ込む。
「隠語は使わないんじゃなかったの? お化粧直しってバリ隠語だよね」
隠語、だと? 今のお化粧直しがか?
「ほほほ」
ホワイは、ひらがな笑いで答えてから、二の句を繋ぐ。
「そもそも、おトイレが、すでに隠語ですの。潔く隠語を使ったわけです。花言葉を愛する私が隠語を使わないなんて、ちゃんちゃらおかしいですわ。よろしくて?」
「だよね」
などとハウは、カツ丼をかき込み、豪快に、がっつく。
カツの切れ端が挟まった箸で、ホワイを指さして笑う。
いつの間にか、フーも静かにカツ丼を食し始めている。
席についたホワイも当然なのだと言わぬがばかり、最後に残った特上カツ丼を自分の前に引き寄せる。ゆっくりと割った割り箸を両人差し指と両中指の間に挟んで両手を合わせる。小さな声で頂きますと。やはり一つ残った並は僕のだったッ!!
ちくしょう。やられた。マジでかッ!
「あのぅ、ホワイさん?」
いまだに眼前で起こった事が信じられず、また間抜けな問いかけをしてしまった。
「もごもご。はい。なんでしょうか?」
心を読まないのが、逆に憎らしいぞ。
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