Chapter09 定食屋にて
#01 策士、策に溺れる
12月20日 午後12時17分。
「……ホオズキですわ」
ドキッ。
僕の心臓が、一つ、大きく脈打つ。
僕の、スーパーコンピュータが弾きだした計算がバレたのか。そんな不安が頭をよぎった。ただスーパーコンピュータとはいえど本棚のよう大きく記憶媒体が紙テープという恐ろしいほどに旧式なソレなのだが。でも僕の脳はそんなもんだよ。ケッ。
兎に角、
カツ丼が美味いと評判の定食屋でホワイに言われた一言。
無論、ホオズキとは花であり、その花言葉には意味がある。多分、いい意味じゃない。欺瞞や誤魔化しといったものではないだろうか。いやいや、厭らしい計算を実行しているからこその後ろめたさで、そんな卑下した思いが巡るのだろうか。
焦りで浮ぶ玉汗を、配られた、おしぼりで必死にも拭う。
手から滑り落ちた汗がぽたり……。
ぽたり。
「残念ですが、正解ですわ。フフフ」
せ、正解ってなにが?
どうしてもドキドキが止まらない。
次々に額に浮かんでは垂れてくる汗を必死で拭い続ける。
「まあ、でも奢ってもらえるのですから文句はいいません」
うんっ。
そうしてもらえると、ありがたい。
とにかく僕は店に入って席につくと、すぐに注文をした。
カツ丼の並を四つと。
そののち、ホワイがホオズキと言い出して驚かせたのだ。
無論、この時、すでに灰色探偵ダニットの面々は僕の計算数式から答えまでを解き明かしており、その上で自分達の計算を上書きしていた。言うまでもないが、僕は、上書きされた事実にさえ気づかず、おしぼりで汗を拭い続けていたわけだ。
下手の考え休むに似たりだな……、
いや、僕の場合、休むどころか、悪化させていたのだが。
とにかく僕が注文をしてホワイから暗喩で釘を刺されたあと件の彼女は席を立つ。
「ごめんなさい。少々、席を外します。おトイレに行ってきます。……済みません」
「アハハ。お花を摘みに行くわけね」
と、ハウが合いの手を差し伸べる。
「フフフ。ハウ、あなたのような、がさつな子がお花を摘みに行くなんて言葉を知っていたのですね。でも隠語なんて使いません。潔く、おトイレでいいのです」
てか、花言葉は隠語じゃないのか?
などという疑問は遙か彼方へと置いてきたかのようホワイは微笑みつつ歩き出す。
まあ、でも今はそんな事はどうでもいい。果てしなくな。
それよりも僕の思惑としてはカツ丼並を奢り、彼らの気分を良くさせる事が肝要。
その上で、パチンコ玉の真意と、この先、どう捜査してゆくべきなのかという事を雑談を交えて聞き出す。気分が良くなっている分、彼らとて、少なからず油断するだろうと踏んでいたわけだ。案の定、合気道よろしく、軽く、いなされるのだが。
とにかく、僕は、ようやく止まった汗を更に清めるように、おしぼりで顔を拭く。
「アハハッ。おっさん丸出しだわさ」
とハウが笑ったが気にするもんか。
「さてと」
顔を拭き終わったおしぼりを四つ折りして机の端に置く。
戦闘開始。目に物を見せてくれる。
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