#09 ペコーニョ
パチンコ玉で人が殺せるのか?
また、そこに戻ってしまう。それは無為な思索なのだと、どれだけ言い聞かせようとも、その思考が脳内に充満してくる。まるで、必死な消火活動にも拘わらず、火事になった家が空しくも徐々に全焼していく様を見つめているのにも似ていた。
「てかさ」
僕の思考が現実に引き戻される。ハウの大声によって。
「お腹減ったよね。ハラペーニョでござるよ」
これ幸いと間髪入れずにハラペーニョについて解説し始めるホワイ。
「ハラペーニョはナス目ナス科トウガラシ属でタバスコの緑ソースの原料とし……」
と、そこまで言った時、ハウが両手のひらを天に向けてからワニワニと蠢かせる。
「てか、今は解説ナッシング。それこそ簡潔にだわさ。てか、てか、てか、てか、てか、ハウちゃん、ハラペコーニョ。背中の皮とお腹の皮がくっつきそうだわさ」
「そうですわね。私もお腹が減りました。……トレニアといったところでしょうか」
トレニアだと? 花言葉は、お腹減ったか?
さすがにないか。そんなに都合のいい花言葉などない。
黙って懐から金の懐中時計を取り出すフー。
というか今時、懐中時計なんて、どんなオサレ紳士だ?
いや、正直、悔しいのだ。その実、懐中時計が様になってしまっているからだ。憎まれ口でも叩かなくては口惜しいというのが本音だ。密かに思っていた事なのだが、フーは、なにもかもが似合ってしまうロマンスグレーなのだから。クソったれが。
ハンカチがあったら口にくわえてキィーと言いたいぞ。
数多のおっさん代表としてな。
「そうですね。そろそろお昼ご飯の時間に頃合いでしょうか。どうします。山口君」
そう言われてしまい僕も己の腕時計で時間を確認する。
ふむむ。
そうだな。お昼には、ちょうどいい時間か。
そう思ったらグーっとお腹がタイムリーな音を立てる。
「そうですね、僕も、お腹が減ってきました」
次の瞬間、言葉が僕へと襲いかかってくる。
「OKッ! 満場一致で、お昼ご飯を食べるに決定。じゃ、なに食べる? なににする? ハウちゃん、カツ丼一択。チキンカツ丼ですら却下だわさ。カツ丼、カツ丼」
カツ丼!
その攻撃的な発言、よっぽどお腹が減っていたんだな。
というかだ。ハウよ。お前の好みなど聞いていないぞ。
でもカツ丼か、うん。がっつりしたものは良さそうだ。この後の展開を考えても。
ここでガチに栄養補給しておかないと持たないからな。
財布を取り出し中を確認する。
決して誇れるような金額は入っていない。が、それでも、この場の全員がカツ丼を食べられるだけのお金はある。だからこそ思った。ここで奢るべきだと。無論、なんの思惑もなく奢るわけではない。そこには僕なりの計算があったわけだ。
ただ、そんな小学生の算数にも劣る計算では彼らには全く以て通用しないのだが。
計算の達人である彼らにはだ。
しかし、
……今の僕に知るよしもない。
だからこそ、うかつにも軽率に意気揚々とこう言った。
「お昼にしましょう。奢ります」
と……。
だから言っただろうが、お釈迦様の手のひらの上で踊っているにすぎないんだよ。
とどこかから生意気な孫悟空の声が聞こえた気がした。
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