#03 新事実

 人間性を見ても川村一正の方が一枚上手で野々村秀也をまくる。


 無論、色眼鏡だとは分かっている。うむ。


 ある種の人種差別だと言われても仕方がない。それでも目の前にいる秀也の方が犯人として相応しいとしか思えないのだ。だからこそ意を決してズバリと聞く。奈緒子が秀也の事をどう思っていたのかを。疎ましく思っていなかったのかとだ。


「奈緒子が俺の事をどう思ってたかって?」


 応ッ。そうだ。答えてくれ。


 ここまでくると秀也からの圧にも慣れた。


 というか、改めて知ったが、僕の順応力は高いのかもしれない。


 灰色探偵ダニットとの付き合い方に慣れるのも、あまり時がかからなかったしな。


 対して、


 秀也は、


 また乱暴にも後ろ頭をかく。


「けっ。そんなもん知らねぇ。どうでもいい。ただ俺を利用していたかもな。一正以外の男を追っ払ってたからよ。まあ、その一正にも、色々、やっちまったけどな」


 それが、どうしたってのよ?


 と秀也は不思議な顔をして僕を見つめる。


 そうか。


 残念だ。


 やはり奈緒子と秀也の間には、ある程度の秩序が在ったのか。だからこそ奈緒子は秀也を利用していたのだし、秀也と喧嘩になる事もなかった。これで犯人が秀也である可能性は、かなり下がった。やはり、フーの言う通りに犯人は一正なのだろうか。


「てかよ」


 なんだ?


 まだ何かあるのか、秀也よ。


「一正を誤解してたらいけねぇから言っておくけどよ。あいつはヤベぇぞ。マジ。俺なんかよりも、数段、ハイレベルにヤベぇやつだ。一度、会ってみれば分かる」


 ほへっ?


 秀也よりヤバいやつだって?


 僕は両眉尻を下げて訝しむ。


 てかっ。


 一正とはもう会っているし。


「あいつのヤバさは対峙した俺だからこそ痛いほど分かる。サイコパスって言葉知ってっか? アレよ。アレ。喧嘩が強いんだとかいったもんじゃ測れねぇヤバさだ」


 サイコパスだって? それは本当なのか?


 僕は慌ててメモをとる。推理に、加える。


 眉唾な情報かもしれないが、新事実をだ。


「普段は温厚で礼儀正しい。けど、ソレが逆にヤバいのよ。キレたら何すっか分かんねぇ。俺もな……、まあ、この話はいっか。ソレよりも一正には気ぃをつけろよ」


 本当にマジでヤベぇからよ。


 なんて顔で苦笑いする秀也。


 うむむ。


 今は、まだ確定とはいかないような事実。


 無論、秀也自身が自分は犯人ではないとさえ言っているようにも聞こえるからだ。


 一正と会った時には、そんな素振りはなかったし、そうとも思えなかった。無論、秀也が言うよう敢えて自分を作っているのかもしれない。だったらそれこそサイコパスとも言える。しかし、作っていなかったら、秀也のウソであったら……、


 どっちが、サイコパスなのか分からない。


 一正が、自分を作っているのか、それとも秀也が一正を貶めようとしているのか?


 どっちだ。……一体どっちが真実なんだ?


 フー達に視線を移してみるが彼らは静かに佇んで微笑むだけだ。


 まあ、ここで解を問えば、ヒント請求ですか? と言われるんだろうなと思った。

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