#02 親衛隊
どんな答えが返ってくるのか、或いは、恫喝されるのか、と、また一つ息をのむ。
こいつと対峙していると緊張が半端ない。
額には冷や汗さえも浮かぶ。
「おん?」
素っ頓狂な声で応える秀也。
肩すかしを喰らって前のめりにもなる僕。
「そんな事か。まあ、警察にも嫌っちゅうほど聞かれた事だな。繰り返すのも面倒くせぇが、しゃないわな。あんたらも仕事だしな。分かった。教えてやんよ」
秀也は、
後ろ頭を乱暴にかきしだく。
いやいや、別に仕事などではない。まあ、でも、ここは勘違いさせておくべきだ。
また秀也は天に向かって抗う紫煙を吐く。
「奈緒子ってのは小悪魔よ。いや、いい女ってのは例外なく小悪魔なんだが、奈緒子は、それに輪をかけた悪女でよ。でも、まあ、俺ッちはそんな所に惚れたんだが」
とタバコを挟んだ人差し指で僕を指さす。
むむむ。
いい女が小悪魔で悪女なんて意見に一概には賛成できないけども、黙っておこう。
「だからって言うのか。奈緒子は男遊びも激しかった。修羅場も一回や二回なんてもんじゃねぇ。でな。危なっかしくて見てられなくなったってわけよ。俺としては」
ほうっ。
「だからな。あの悪女の親衛隊みたいなもんになったってわけだ」
秀也は間を置くようタバコに口をつける。
もったいぶっているようにも思える。いや、間違いなく、もったいぶってる。うぜぇ。さっさと続きを話せよ。開店時間が迫ってるんだろうが。案の定、仰々しくもタバコの煙を吐き出してから、またタバコを挟んだ指で、ビッシッと僕を指さす。
つまり、
「俺以外の男を近づけないようにしたわけだ。もちろん奈緒子が遭遇する修羅場を減らす為にな。これが愛ってもんよ。真実の愛ってやつだ。そうは思わねぇか?」
……トゥルースってやつだ。
なんて、また間を置き付け加えやがった。
しかも同時にタバコを指で弾き飛ばして。
というか、寿司屋の開店準備はいいのか?
ただ、同時に疑問も覚えた。
親衛隊として修羅場を減らしていたのが秀也だとするならば、その事を奈緒子自身はどう思っていたのか。奈緒子と秀也の関係は、ある程度の秩序があり、均衡が保たれていたと聞いているからこそ、奈緒子は、秀也を、どう思っていたのか? と。
親衛隊などと、のたまって男を排除する秀也を疎ましく思ってはいなかったのか?
秀也のソレは通常感覚で言えば疎ましいと考えられても仕方がない行動だからだ。
しかも、
もし、奈緒子が疎ましいと考えていたという話が聞ければ犯人が秀也である可能性は高まる。無論、灰色探偵ダニットの事件解決率は驚異的な数値であるから、犯人は川村一正というものの方が、正解なのだろう。それでも、僕にも思いは在る。
無論、感情だって在るんだ。
それらが、どうにもフーの推理を邪魔立てして、犯人は野々村秀也だと言い張る。
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