#10 四つ葉のCV

 まあ、どちらにしろだ。


 今は、まだ、その確固たる理由というものは分からない。ならば、自分自身で推理するしかない。フーたちに訪ねれば、それはヒントの請求となるからだ。要約すれば、そう言っているわけだ、フーは。無論、僕の推理など素人の手習いだろう。


 それでも、これだけ、一切、動かない彼らを前にしてしまえば動かざるをえない。


 重い腰をあげ口を開く。


「じゃ、行きましょう。一正のところへ」


「フムッ」


 と言ってから黒いハットを被る、フー。


 恭しくも上品な所作で。


 その動作が様になっていて紳士然としているから、小憎らしい。


 続いて、


 ハウも例のHowと描かれた青いキャップにひねりをくわえて中空へと放り投げて頭でナイスキャッチ。それを見たホワイが,しずしずと立ち上がり、小首を傾げて微笑む。これにて、ようやくも灰色探偵ダニットと僕の捜査は開始された。


 そののち、僕はお店を出て愛車のフーレアワゴンへと乗り込む。


「どうぞ」


 と彼らを車中へと誘う。


「大変申し訳ないですが結構です。自分たちの車を出しますから」


 と、フーが困ったような顔つきで言う。


 捜査は僕主導であるから、てっきり僕の車に乗り込んでくるものだとばかり考えていた。しかしながら意外にも車を出してきた。そんな彼らの車はヴィアッド500ツインエアー。自由な空をイメージしたような透き通った水色のそれ。


 丸く、いくらか吊り上がったライトが、おしゃまな女の子を想起させる自動車だ。


「今日はこれ。ワオッ!」


 と、車が出てきた時、文字通り飛び上がって喜んだハウを見た。


 ヴィアッド500……。


 彼女の趣味にも感じる。


 ただ、昨日、ずっと待たされていた時、アメ車が好きだと言っていた。イタリア車も好きなんだろうか。そういえば僕らの世代はイタリア車をイタ車と呼んでいた。しかし、今は痛車というものがあるから、イタ車とは言わないんだろうか。


 ふっとだがそう思った。


 どうでもいい事だけど。


「さてと」


 とフーレアワゴンの逆、左ハンドルの窓を開けて、フーが言う。


「先行して頂けますか?」


 これは決して断れない。


 確認するまでもないが、


 ここで、フーたちに先行させれば、つまりはヒントの請求という事になるからだ。


 なんとなく推理ゲームに慣れてきた僕は、にこやかに微笑み、静かにもうなづく。


 そして、


 ロックロールなエキゾースト音を響かせて僕の愛車であるフーレアワゴンが、ふわふわの駐車場を出る。そのうしろを一歩下がってついてくるのが大和撫子のような静かなるヴィアッド500。だからこそ思うのだ。彼らの性根を。性悪さをだ。


 今し方のヴィアッドのよう慎ましく奥ゆかしい様とは裏腹で完全に真っ黒だとだ。


「さてさて、山口君は、どういった推理を魅せてくれるのか。とても楽しみですね」


「ううん? やっぱり素人じゃん。ハウちゃんには、そうとしか見えない。ただ一つだけプラス材料があるとしたら、それはネットの協力者の存在だろうじゃんよ」


「フフフ」


「おや? どうかしましたか? ホワイ」


「四つ葉のCVという方を知っていますか? お父様」


「まあ、知っていますが、それがどうかしましたか?」


「ネットでのヤマケンさんの行動を追跡して分かった事ですが、その方も、また協力を申し出たそうです。もちろん灰色探偵ダニットとの敵役としてですわ。フフフ」


「フム。ホワイ、花言葉がありませんよ」


「あら、私とした事が、失態ですわ。ハクサンチドリとでも言っておきましょうか」


「フムッ」


 すでに、もう遅いのですがね。フフフ。


 といった会話が漏れて聞こえてきたような気もしたが、あまり気にはしなかった。


 僕にとってどうでもいい事のような気がしたからだ。


 そして、


 一行は川村一正の住む家へと向かった。

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