Chapter06 川村一正
#01 警戒
12月20日 午前9時16分。
「失礼ですが、警察関係の方ですか?」
目の前には、優男と表現するのが適確とさえ思われる男がいる。
川村一正、本人だ。
話し方、見た目から判断するに、とても誠実な人間にも思える。
今更なのだが、本当に彼が犯人なのか? という疑問を覚える。
そんな彼に対して、
まるでドッキリ番組のそれのよう突撃で訪問。質問を浴びる。だからこそ、彼は、いぶかしみ、眉尻を下げ、真っ直ぐに睨み付ける。こうなる事は、あらかじめ予測できていたが、捜査など初心者でしかない僕には他に手がなかったわけだ。うぬぬ。
手にしていたメモ帳とボールペンを落としそうになりながらも敵意の視線に抗う。
「いやいや、警察とは関係ないです。ただ奈緒子さんの親御さんから頼まれて事件の真相を追っている次第で、よろしければ、ご協力頂ければと思いまして……」
なるったけの丁寧な言葉を選び、協力を要請する。
だたし、語気も弱く、たどたどしさはいなめない。
「奈緒子の家族から頼まれた、そういうわけですか」
被害者の名を出し、
家族からの依頼でと言った事で、ある程度だが警戒心が解けた。
後ろに隠れて佇んでいたフーが微笑む。まるで、それでいいのですよ、とでも言わぬがごとくの優しい笑み。かたやハウとホワイは、いまだヴィアッドの中に居る。というか、ハウが僕を指さして笑っている。応えるよう目を細めて微笑むホワイ。
くそっ。
確かに、
一正の警戒心は、いくらかは解けた。
しかし、それでも不審者を見るような目つきには変わりがない。
とりあえず、名刺を取り出してみる。
一正は、
じろっと睨み付けて名刺を受け取る。
名刺を一瞥して、くぐもった声で言葉を紡ぎ出す。
「ライターさんですか。もしかして真相を追うなんて言って、なにかのネタを探しているじゃないでしょうね? というか、ボクのゴシップネタなんか売れませんよ?」
「いえいえ、今回はライター業とは関係ないです。単に奈緒子さんの親御さんと知り合いでして、その関係で事件を解決したいと願っている次第なのです。本当に」
慌てて、否定する。
それでも、一正が完全に心を許す事はなく、むしろ、また警戒心が高まりつつある。額に浮かぶ玉汗。咄嗟にフーに視線を移して助けを求める。……が、ヒントの請求ですか、という言葉が脳裏をかすめてしまい、また慌てて一正へと視線を戻す。
目の端でヴィアッドを捉えると、ハウとホワイが、静かに降りてくるのが見えた。
フーは、
「フムッ」
と笑う。
膠着した場を崩すよう二の句を繋ぐ。
「ワポンRの赤というのも、またオツなものですね。一正君、君の車なのですか?」
まるで事件と関係ない事を言い出す。
唐突にも一正の愛車であるツズキのワポンRを褒め始めたのだ。
「国産も捨てたもんじゃないね。そうは思わないかい、ホワイ?」
いつの間にかフーの隣に来ていたホワイが、無言で、うなづく。
「ハウちゃんは、やっぱアメ車。イタ車も好きだけど、アメ車最高な人間だからさ」
聞かれてもないのに元気一杯に右手を挙手しながら応えるハウ。
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