#04 始まる

「フフフ。分かっていますよ。お腹が空いているのですね。フム。ゲームを存分に愉しむ為にも精力をつけて下さい。味は、わたくしが保証致します。どうぞ、山口君」


 フーが、にっこりと、あの温和な笑顔で言う。


 今更、言うまでもないが小憎らしく嫌味に思える、あの笑顔で。


 また、妙な感じがする。


 いや、彼の笑顔に違和感を感じたのではない。


 なにかを期待するような、……お笑い芸人が生み出す笑いを期待しているような。


 そんな妙なものに、だ。


 なんだ?


 とっさに、そこはかとなく違和感が漂ってくる方に視線を移す。そこには白い歯を魅せて笑う元気っ子なハウと薄い茶色のタレ目を細めるホワイ。相変わらずといえば相も変わらずで、不思議な感じなどしない。気のせいかと思い直す。


 ふうぅ。


 そして、


 起きてから格好ばかり気にして食べる事を忘れていた僕は、フーが振る舞ってくれたモーニングへと口をつける。ほどよく焼かれた目玉焼きの黄身が半熟でトロリと中身が飛び出す。絶妙な焼き加減。フォークを使い、そのまま口に運ぶ。むほっ。


 美味い。


 目玉焼きも、焼き方一つだけで、こうも味が変わるものなのか。


 そう思わされるほど絶妙。口内が幸せで満たされて頬が緩るむ。


 美味すぎると次々に目玉焼きを切って食する。


 うまうまうま、美味い。


 最後まで目玉焼きを愉しんだあと、主菜であろうカリカリに焼かれたベーコンを口に運ぶ。ぱっと見た感じでは焼きすぎだろうとさえ思わせられたが、咀嚼してみて感想を変えざるを得ない。こちらも焼き加減が絶妙。絶対的。至高と最高。


 カリッとした香ばしい食感が楽しめながらも、ジューシーで、絶品なるべっぴん。


 ベーコン本来の旨味が舌にじわっと染み込む。


 この味を例えるならば、そうだな。


 まだ青い少女が食べごろの熟れた果実へと成長する過程で得た相反する色気と貞淑さとでも言うべきか。つまり、恥ずかしがりながら顔を真っ赤にして、ちらちらと自分に視線が送られたあと目があった瞬間に匂い立つフェロモンにやられる。


 そんな、なんとも言えない不思議なエロスか。


 ベーコンを食べて興奮するなんて背徳感が半端なく胸が高鳴る。


 嗚呼、朝食を食べ、こんなに幸せな気持ちになるなんて生まれて初めての経験だ。


 言葉がないからこそ、せめて言わせて欲しい。……幸せですと。


 唐突ッ!


 始まる。始まる。あの悲壮な曲が。


 ぐるる。


 ぎゃる。


 がるっ。


 無論、エロスで興奮した獣の鳴き声ではない。


 ぎゅるるっと、お腹が絶叫をあげ始めたのだ。


「……ト、ト、トイレはどこだッ?」


 そして、ようやく7時43分へと戻るわけだ。

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