#03 導火線
…――午前7時43分。
また信じられない事が目の前で起こっている。
超巨大なロケット花火を、腹の中に仕込まれて導火線が刻一刻と燃え、短くなる。
その時が、迫ってくる。
じりじりと一歩一歩だ。
「フム。ではヒントの請求で、よろしいですね」
お腹が、愛車のエキゾースト音をポップ調に編曲した感じで、ぎゅるるっと鳴る。
違う、むしろドリフト時のタイヤが削れる音。
アスファルトがタイヤを焦がす音。
そんな切羽詰まったフレーズが下腹部から断続的に発し続けられている。腹が、泣きわめく。叫ぶ。シャウト。下痢気味の腹模様が悲鳴をあげているわけなのだが、こんな状況になったのには理由がある。それこそが信じられない事なわけだ。
……さかのぼる事、10分ほど前。
約束通り、7時30分きっかりに、ふわふわへと到着した、僕。
お店は閉まっていたのだが、店内で待っていたフーが出迎えてくれる。そうして導かれるまま入店。当然のごとくなのか、ふわふわの中では、ハウとホワイの2人も待機していた。にこやかに。僕は、挨拶代わりにと、軽く右手をあげてみせた。
「おはよう、ケンダマン」
僕と同じく右手をあげて、そののち、あげた右手のひらで僕の右手のひらを叩く。
パチン。
うん。相変わらずで、逆に安心感すら覚える。
対して、
ホワイは静かに微笑む。
「おはようございます、ヤマケンさん。ガーベラでも、お一つ、いかかでしょうか」
とおおよそ自然の法則からかけ離れた小さな菊のようなオレンジの花を差し出す。
可愛らしく愛らしい花。
ホワイにはよく似合う。
ただし、毒がなければ。
「フフフ。菊ですか。なかなかの慧眼ですね。そうですわ。ガーベラはキク科の多年草。南アフリカや熱帯アジアなどに自生している、お花ですの。ですから……」
うおっ。
これだよ。これが毒だ。
心を読まれた。まあ、でもこれも通常運転だ。
てか、聞いてもいない花うんちくを語りだす。
こちらも相変わらずの安定感で、微笑ましい。
こうして見ると二人とも可愛いんだよなとか、思ってしまった。
不覚にも。不覚にもだ。
そして、
窓際の席へと案内されて紅茶を振る舞われる。
カルダモンが入ったミルクティー。ふわふわ自慢の珈琲も良かったが、こちらも、また。香りだけでも絶品としか思えない。ふわっと薫る、甘くも爽やかで高貴な香りを愉しんだ。ふっと、いささか妙な期待に満ちた視線を感じたりもしたが……、
薫りの魅力にやられてしまって、気にしているヒマがなかった。
そして、
紅茶に口をつけて喉をコクリと小さく鳴らす。
コトリ。
眼前に目玉焼きとカリカリに焼いたベーコンが乗った食欲をそそる皿が置かれる。
思わず、
ぐううっっと、お腹が食を欲する音を立てる。
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