#05 爆発

 し、し、信じられない。マジでか。


「ト、トイレは、どこにあるんだ?」


 そう。眼前で信じられない事が起こっている。


「フム。ではヒントの請求で、よろしいですね」


 と繰り返す凶悪犯も真っ青な悪党。


 いやいや、別にヒントの請求なんてしてない。


 まだ推理ゲームは始まってないぞ。


 単にトイレはどこなのかと聞いただけだ。限界寸前までの便意が脳を侵略し尽くしおり、どこにも安全地帯などない。腰が引けて前へと上半身が倒れ、右手を前に手のひらをパクパクと開いたり閉じたり。冷や汗が玉汗になり、額から頬に伝う。


「だからトイレ。頼む。トイレはどこなんだ?」


 フムッ!


「5万円を頂けますか?」


 だから、


 そんなヒマはない。漏らすぞ、ここで。コラ。


 と思ってみても、さすがに漏らすのは大人としてはあり得ない。いや、大人というよりは人間としてない。だから、ずいっと店内を見渡してケツの穴に力を込める。もう少しだけ我慢してくれ、肛門様、と心の中から印籠を探し出て晒してみる。


 きゅっと閉まったケツから、ぷすぷすとガスが漏れる。うおお。臨界ドライブッ!


 T、T、Toilet。


 うおっ。


 あれは、


 あれは、


 あれこそはトイレだ。トイレがあったぁッ!!


 一目散に駆け出す。そこへと。天国へとだッ!


 ズバンッやドッバンとか、聞こえても構わない。むしろ聞かせてやる、この野郎。


 などと思いつつ、ようやく見つけたトイレに駆け込み、洋式の便座に腰を下ろす。


 腰を下ろす動作さえ、もどかしかった。が、下ろさない事にはどうしようもない。せかせかとズボンを脱いで座る。実際には、〔自主規制〕などという、お下品な水音フレーズを、お腹というギターで、かき鳴らしたわけだが。でも助かったぁ。


 ふうッ。


 と大きなため息を吐く。


 今、冷静になって思う。


 改めて、思うのだ……。


 あの違和感の正体……。


 それは、


 これだ。


 ハウとホワイの期待に満ちた目は、これを意味していたわけだ。


 間違いなくやられた。あり得ない。


 あのモーニングには下剤が入っていたんだッ!


 信じられない事に、また遊ばれたのだ。僕は。


 無論、推理ゲームとは、まったく関係ない茶番とも思えるような、ひゅるりらで。


「アハハ」


 また唐突にもハウが、大声で豪快に笑い出す。


「ケンダマン、面白かったよ。笑わせてもらった。でも、これも姉貴の指示なのさ。その意味は、もう少し先になったら分かるわさ。今は騙された自分を恨みな」


「フフフ」


 かたや、


 ホワイは意味深な笑いを浮かべた。


 そうして視線を窓から外へと移す。


 その先にはブラウン・マジェスカ。


 昨日も外に停まっていた、あの車。


 フフフ。


「さて、では、どうでもいい寸劇は終わりにしまして推理ゲームを始めましょうか」


 とフーが皿を片付けながら言った。


 その冷静さが、余計に腹が立った。


 クソッタレ。やっぱり、ここで漏らしてやれば良かったと悔しくも舌打ちをした。

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