#05 己で動き、考える

 僕は目を皿のように丸くしてポカーンという音が聞こえてきそうな大口を開ける。


 まるで、漫画のような表現だが、そうとしか言えない状況なのだ。


 今はな。


 対して、


 フーは落ち着き払った態度で、音も立てずにキッチンへと向かう。


「さてと」


 ……ッ。


「これはサービスです。被害者である奈緒子君を殺した犯人だけは先に申し上げておきましょうか。ただし、もし、知りたくないのであれば拒否も受け付けますが」


 拒否ッ?


「山口君、どう致します?」


 おおぃ。


 拒否ってなんだよ、拒否ってッ。解決を依頼して拒否するわけがないだろうがッ!


 犯人が誰かという事を聞きたくないなんて、そんなやついるわけがないだろうが。


「拒否ってなんてするわけがないでしょう。一刻も早く真相が知りたいんです。だから、あなた達のような性悪でも解決依頼をしたんですから。とっと答えて下さい」


 フーは、一旦、間を置く。


 一つ大きなため息を吐く。


 くそっ。


 もったいぶっていやがる。


 おもむろに緩やかな口調で二の句を繋ぐ。


「フム。解決を望みますか。でも、それは山口君、君、次第ですよ」


 一切こちらも見ずにキッチンへと消える。


 解決は、ぼ、僕次第だと?


「ここからは灰色探偵ダニットと山口君、君との推理ゲームが始まるのです。事件の解決を望むのであれば、己が行動し、己で考え、己が事件を解決に導いて下さい」


 レンジからハッシュドポテトを取り出して、切った野菜と一緒に盛り付けている。


 多分、だが、そう思える。


 また料理の続きかよ。なんで今なんだよ。


 真っ赤なプチトマトを右人差し指と右親指でつまんで僕に見せる。


 そのあと、先ほど盛り付けたであろうサラダに赤い彩りを加える。


 そして右手のひらで皿を持ち帰ってくる。


 僕の前にサラダを置く。またキッチンに戻ってサラミを持ってくる。仕上げにと薄く切ったサラミを、すらすらと皿の右端で円を描くように並べる。左手の人差し指と中指、薬指の間には、ごまとしそのドレッシンの瓶が、それぞれ挟まる。


 コトリと机へと置かれる。


「推理ゲームでの駆け引きだからこそ君が難易度を上げるのを望むのであれば、わたくしどもの発言に対して拒否権を発動できるというわけです。拒否、致しますか?」


「だから拒否なんてしませんって。あり得ない。また、からかっているんですか?」


 てかっ。


 す、推理ゲームだってッ?


 いや、一旦、ゲームの件は置いておこう。


 それよりも性悪でも腕利きの探偵が考える犯人が知れるのだ。聞くしかないッ!!


「まあ、いいです。あなた達との付き合い方にはなれるしかない。それよりも犯人が知りたい。聞きたいんだ。それを早く。だって僕には推理なんてできないから」


 フムッ。


「そうですか。よろしいッ」


「やっぱり乱暴ものの秀也なのか? それとも意外にも一正?」


 僕は思わず机を叩いてしまい、机上でサラダが乗った皿が跳ねてステップを踏む。


 まるで、


 片足をあげてヘッドバンキングするパンクロッカーのように。


 その様子をみたフーは苦笑いをして佇む。


「し、失敬」


 乱暴者は僕だと自重する。


「よろしい。拒否権は発動させないわけですね。では申し上げましょうか、この事件での犯人は誰なのかを。灰色探偵ダニットのフー・ダニットが申し上げましょうか」


 あれッ?


 ちょっと待て。灰色探偵ダニットのフー・ダニットが申し上げましょうかだって?


 また僕は彼の言い回しに違和感を覚えた。


 てかっ。


 よろしいを2回も言いやがって、ぐぎぎ。


 また、もったいぶってる。


 しかし、


 今は、一刻も早く犯人を知りたいからこそ黙っている事を選んだ。

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