#04 自動書記?

「なんでしょうか、お父様。……もうお分かりになったのですか?」


 と、ホワイは満面の笑み。


 まるで、


 草原で揺れるモンステラ。


 ホワイ、彼女の言葉を借りるならば、だ。


 ようやく僕にも分かったんだ。あの暗号めいたものの正体が、だ。


「フム。どうやら今回の件、少々、手の込んだものですが、それでも単純明快な解が隠されているようです。動機の解明で、わたくしの推理の裏付けをしたいのです」


「フフフ。さすがはお父様ですわ。ハウからの解を聞いてから1分も経っていませんわよ。では、お父様の解を聞いたあと、少しばかりのお時間を頂けますか?」


 とフーとホワイがお互いに笑い合ったあと今度はホワイの耳にフーの口が近づく。


 と、その前にと、なにかに気づいたように僕を一瞥して笑むフー。


「フムッ。ホワイ・ダニット。動機の解明」


 と、また聞こえるか、聞こえないかのような声で静かにつぶやく。


 そののち伝言ゲームのようにフーが、なにやらホワイへと伝える。


 それを聞いたホワイは、ゆっくりと目を閉じて恣意の海へと身を投げる。穏やかに凪いだ大海の波は心地よいゆりかごにも思えるのか、彼女の顔つきも穏やかになってゆく。瞑想しているかのようにも見える。沈黙が、ゆっくりと入場してくる。


 僕らはクラシックコンサートでの観客のように彼女を見つめて、静かに場を繋ぐ。


 今にも、さざなみの気持ちがいい音が、降ってきそうにも思える。


「見えます、犯人の心が。そういう事ですの。ツクシ。ツクシとしか思えませんわ」


 うおっ。


 なんだ。


 今度は。


 今のホワイは、なにやら新興宗教の教祖が神から神託を受けたようさえも見える。


 もしかして、このあと壺や印鑑なんか売りつけられないだろうな。


「お父様」


 僕が下らない事を考えていた間にホワイの瞑想というか、思索は終わったようだ。


 フーを見つめて、微笑む。


 目で答え、うなづくフー。


「フム。終わったようですね。さて、心の深淵でも覗きましょうか」


 ホワイは紙を取り出してボールペンを手にとる。さらさらと流れるような手つきで何かを書き始める。文字のせせらぎを見つめてフーは唇と鼻の中間辺りを撫で続ける。なるほど、と。書き終えたホワイは紙を掴んで、しずしずと手渡す。


 フーは、


 受け取った紙に書かれた文章を一通り、改めて読み返したあと、よつ折りにする。


 胸のポケットに、しまう。


 そののち、彼らの行動の意味が分からずに唖然としていた僕を見つめてから笑む。


「ハウ・ダニットにホワイ・ダニット。そして、わたくしがフー・ダニット。犯人は誰なのかですね。フム。全てが明らかになりました。推理と推論での段階ですが」


 へぇっ?


 くるっと背を向けてから右手を挙げ右人差し指を天に向けるフー。


「さてと」


 ちょっと待て。待ってッ!


 今の短い時間で全ての謎が解けたのかッ!


 もちろん推理での真相でしかないが、それでもだ。あり得んだろ。


 僕が、どんなに考えても答えが出なかった事件を、あの時間でか。


 あの短い時間でなのかッ!


 マジか。

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