#03 ルーティン
…――フム。とても興味深い事件ですね。
解は、とても単純ですが、しかし、複雑怪奇なる灰色領域が在る。
フムッ。
確かなる灰色領域が、そこにあるのです。
今は、まだ推理にも及ばない推論ですが。
フーは、なにかを思案するように顎を右手で軽く撫でながらキッチンへと向かう。
そののちシンクに水を落として多分だが〔※ここから見えない〕野菜を洗い出す。
トントンと包丁が踊る音が聞こえてくる。
軽やかなリズムを刻み、また、なにやら洗うような音が聞こえてくる。冷蔵庫を開けて一通り眺めたあとサラミとハッシュドポテトを取り出すのが、ちらっと見える。ポテトは冷凍食品なのか、レンジに入れる。なにを始めたのか分からない。
いや、料理を始めたのは分かるのだが、なぜ、今、この瞬間に料理を始めたのか。
それが分からずに少々、混乱気味になる。
この間、約10分足らず。
と……。
「パパ、OKッ。こっちに来て耳を貸して」
隣のテーブルでホワイと目で会話をしていたハウが目を見開き笑んで指を鳴らす。
ぱっちんっと胸のすく音が聞こえてくる。
「もう解いたのですか、いつもの事ですが仕事が早いですね、ハウ」
「えへへ」
……ハウちゃんって偉い?
顔がにやけて崩れるハウ。
と、いきなり僕を、じっと見つめるフー。
「フム。ハウ・ダニット。トリックの解明」
僕に言ったのか、独り言なのかの声量で発しタオルで手を拭いてからハウに寄る。
多分、今のは、わざとだ。わざと聞かせるように目配せをしたあと違和感満載な香りをプンプンとさせていたから。だったら考えろという事か。フーという名の性悪探偵は、ハッキリとした言動で分からせるのではなく、違和感で分からせる。
いや、分からせるというよりも分からなくてもいいぐらいの心持ちで気づかせる。
気づかなければ、それでも構わない位で。
それぐらいの厭らしいやり口と気持ちで。
気づかなかったら僕の負けだと言わぬがばかりにしれっとその場を流してしまう。
だからこそ、違和感に気を配り、気づかねばならないのだ。負けない為にも、だ。
それは今までの短い間でだが、僕が学んだフーとの付き合い方だ。
「なるほど。小さな玉のようなもの。フム」
とハウの唇に耳を寄せていたフーが言う。
「うん。乾電池でもいいんだけど重いからさ。で、多分だけど……」
「なるほど。興味深い。被害者である奈緒子君が、派手めであるからこそ持ち慣れていると。フム。ただ、そういう趣味がない場合、他のものの可能性もありますね」
「そうだね。ただ、あんまりにも重くない方がベストかな。だって、女の子だしね」
「フムッ」
そして、
ハウから、なにやら聞いたあと視線を右上に投げたあと静かに佇みながら微笑む。
相変わらず、フーの笑顔は穏やかで、それが逆に嫌味にも思える。
「そういえば、山口君、わたくしが料理を始めたのを不思議そうに見ていましたね」
とフーが、僕を見つめる。
「あ、はい。なんでだろうって思いました」
「単なる暇つぶしを兼ねた推理での思索ルーティンのようなものですよ。あまりお気になさらず。もし良かったら、その暇つぶしに付き合ってもらえますか?」
「つ、付き合うって。なにをしろと言うんですか。僕にできる事なんてないですよ」
僕は焦ってしまい、両手のひらを晒して拒否のジェスチャー。両手を力強く振る。
「いえいえ、単に料理を食べて頂ければと、そう思っただけですよ」
と、フーが静かに微笑む。
フムッ。
「ああ、そっちですか。てっきり、僕が推理をとか、そういった事を考えてしまいましたよ。僕なんかが推理しても意味がないですからね。アハハ。杞憂でした」
苦笑い。
「フフフ」
フーが、また笑んだ。その笑みが怪しさ満点だったのは敢えて見ないふりをした。
その後、
優しくもフーは口を開く。
「ホワイ」
左の人差し指の周りを右人差し指で回して一人遊びをしていたホワイを見つめる。
ホワイは自分の出番だと目を輝かせてフーを見つめた。
「はいッ」
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