#02 顛末、後編
逃げて市境である現場までくる。そこで奈緒子は降りて帰ると言い出す。これは一正の推論なのだが、このまま車に乗って逃げていると、いずれ捕まる。そういった身の危険を感じたからこそ歩いて帰った方が安全だと考えたのだろうという事だ。
無論、12月の時雨れた夜であるから一正は無謀だと必死になって止めたらしい。
が、歩いた方が安全だと判断したであろう彼女は耳をかさなかった。
そうして車を降りて事故にあった。
トラックに轢かれて死んでしまう。
事故の一報を聞いて一正は泣いた。
死んでしまうと分っていれば強引にでも引き留めたと悲しんだのだ。一方、秀也は憮然とした表情で一正がやったんだろうと言い放ったそうだ。警察は、どうやら秀也には思う所があり、一正を信じていないような印象を受けたと及び聞いている。
川村一正と野々村秀也は、つまり、
奈緒子の死に直結するような、かつ、死の直前まで一緒にいた2人であるから警察は最重要人物としてマークし徹底的に洗い出した。確かに一つ二つ不可解な点は認められた。アリバイもない。それでも全ては状況証拠であり、決定打はなにもない。
加えて、
奈緒子の死因が頭部強打の脳挫傷であった上にトラックが彼女を轢いたという事実が在ったからこそ事故だと判断せざるを得なかったわけだ。しかも一正と秀也の周辺からは血液反応(※ルミノール反応)は一切出なかったという事情もある。
無論、奈緒子が同乗していた一正の車からも血液反応は出なかった。
この事実は、奈緒子が車の中で、何らかの暴行を受けた、あるいは殺害されたという可能性を完全に否定している。もちろん車周りですら、どこにも血液反応は出ていない。人を轢いたあともない。こうなってしまうと警察は、お手上げ。
しかも、
一正と秀也のどちらにも共通する証言なのだが、奈緒子が死んだ時、秀也は抜け道を使って先回りをして一正の車を停車させていたという。時間は、おおよそ午後11時58分頃だったらしい。つまり、秀也が一正の車へと追いついたという事だ。
はからずも奈緒子の不安が的中した形となったのだ。
しかし、
その時点で既に彼女はいなかった。
一正が証言した通りに、身の危険を感じた彼女が車を降りたあと秀也が一正を捕まえていたわけだ。これより、一正が、奈緒子が車を降りて帰った言ったという証言が裏付けられてしまった。しかも敵対する秀也の口からも出た証言であるからこそ、
強固な信用に足るものなのである。
そして2人に対しての警察の態度は一気に軟化する。
一正と秀也の2人をシロだと断定してしまうわけだ。
更に追い打ちをかけるように追跡調査の結果が出る。
午前0時24分の時点で一正が隣町のコンビニに立ち寄ったのが確認されている。目撃者いわく、その時点でも奈緒子は乗っていなかったのだそうだ。だとするならば秀也が待ち伏せして停車させた時点でも乗っていなかったと考えるのが自然である。
以上を以て、警察は奈緒子を事故死として処理した。
つまり、
現状、出揃った証拠や証言では、やはりトラックに轢かれて即死したのだとしか考えられなかったわけである。そうして捜査は打ち切られ、そののち奈緒子は事故死したと公式的に決定づけられる。それでも奈緒子の父親は納得しなかった。
秀也が怪しいと、僕に再調査を願い出てきたわけだ。
これが、
今回、依頼する事件の顛末である。
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