#08 難事件だけ
「不遜だぞって顔をしていますわ。オレンジのユリと言っておきましょうか。少なくとも私達は、事件を前に、依頼者を前に、いつでも真摯な心で向き合っています」
ホワイは、思いつめた目つきでオレンジティーのグラスを見つめる。
どうやら、なにか深い事情があり思う所があるようだ。
豪放磊落(ごうほうらいらく)を絵に描いたようなハウはやれやれと腕を広げる。
「フム。わたくしのセリフを取られてしまいましたね。まあ、推理ゲームが人生の愉しみである、わたくし達は常に偏見の目がつきまとっていますからね。ご容赦を」
とフーが先ほど言っていた軽食であるサンドイッチを乗せた皿をそっと机に置く。
「どうぞ」
「ああ、ハムサンドですか、ありがたい」
件のホワイを不可思議にも思ったが、腹が減っていた為、敢えて突っ込む事もないと、静かに頭を下げる。まあ、現金だと言われれば、なにも言えなくなるのだが、それでも長い時間、珈琲だけで粘っていたのだから、ここは勘弁してくれ。
リスが餌を頬に蓄えるようにハムサンドをほおばりながら口を開く。
「あの、依頼料の前に聞きたいのですが」
「なんでしょうか。どうぞ、なんなりと」
フーが、穏やかに笑む。
「依頼を受ける前に依頼する事件の難易度を知りたいとは思わないのですか。仮にフーさん達にも手に負えない事件だったら、一体、どうするのですか。もぐもぐ」
食べながら話すのはマナー違反だが、僕のお腹はペコペコ過ぎマナー上等だった。
いや、マナーを持ち出すほど僕は上品ではないのだが、一応言い訳。
「フムッ」
穏やかな笑みを崩さず、いや、逆に張り付いた笑みと言える笑顔で二の句を繋ぐ。
「受けた依頼の解決率は、96.32%」
ああ、それはフー・ダニットを紹介してくれた知人から聞いている。
もぐもぐ、美味い、このサンドイッチ。
「もちろん難事件だけを受けるのではなく、どんな事件でも依頼が成立すれば受けての数字となります。君には、これが、どんな意味を持つか、お分かりですか?」
ううん。
やっぱり、この人達は推理力に不遜とも傲慢とも言える自信を持っているようだ。
例え、どんな事件だろうとも解決して魅せるって事か?
ゴクリ。
僕はサンドイッチで乾いてしまった喉を潤す為に珈琲を手に取り、一口流し込む。
「フム。その顔は、何やら勘違いをしているようですね。そうですよね、ホワイ?」
フーがホワイに視線を移して見つめる。
「やっぱりオレンジのユリですわ。そうです、お父様。ヤマケンさんは何も分かっていないようです。難事件だけを受けるのではないとハッキリと言ってるのに」
「フムッ」
ほへっ?
難事件だけを受けるのではないのだと?
何となく違和感を感じない事もないが、それがなんだ?
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