#06 成立
「コラ、ハウ。お父様が、とても大事な話をしているのですから茶々は控えなさい」
とホワイが謳うような声で、ピシャリとたしなめる。
まるで花をくわえた小鳥がさえずり大空を飛ぶよう。
ただし、
その目つきは全てを射抜くように鋭く、とても怖い。
「はぁい」
ハウはホワイの目つきなど、どこ吹く風で後ろ頭に手を回して口笛を吹き始める。
「フム。どうにも、この2人にかかると話が前に進まなくなります。そろそろ大人になって欲しいのですがね。まあ、ともかく30万円の話に戻り、続けましょう」
ぐぎぎ。
と威嚇するよう歯をむき出しにしてから睨みつける。
「あの会計での30万円は正当な請求なのですよ。なぜだかお分かりになりますか」
せ、正当だと。正当と言ったのか? あり得んッ!!
「まあ、そう怒らないで冷静に聞いて下さい。落ち着いて下さいな。……あの30万円は事件解決を請け負う為の依頼料なのです。もちろん珈琲はサービスとなります」
珈琲はサービスだとッ!
依頼料が30万円だと?
くそが。
僕の薄っぺらい財布から乾いた雑巾の残り水を絞るようにカネをむしる気なのか?
って……、依頼料ぅ??
依頼料?
「だから落ち着いて下さい。もう一度、ゆっくりと言いますから、よく聞いて下さいね。あの30万円請求は事件解決を請け負う為の依頼料だったわけです。フム」
とフーが天使のような天真爛漫な笑みで右肘を左手に乗せ右手のひらを上にする。
その顔つきは、イタズラが成功して喜ぶ子供のよう。
ああっ。
嗚呼ッ!
唖々ッ!
ああ、そうか。そうか。また騙されたわけだ、僕は。
もう笑うしかない段階は、とっくに過ぎていて、困った顔つきになり、そののち笑みが溢れてきて、もう自分の心がぐちゃぐちゃで、なんと言い表せばいいのかも分からなくなっていた。それでも最後には笑ってしまうのは僕が人間だからだろうな。
アハハ。
「フム。本当に居心地の悪いお店で馬鹿にされても、ずっと我慢して、お待ち頂けましたね。しかっと覚悟を確認致しましたよ。それに君の謎には大事なものもある」
すなわち、灰色領域が。
とフーが改めて恭しく頭を下げてからお辞儀をした。
「まあ、でも推理に対しては素人の域を出てないけど」
それでも大丈夫? 最後まで、走り抜けられるかな?
と口笛を吹き続けるハウの口笛がクラッシク調に変わり荘厳なる奏でを体現した。
運命だ。
天佑か?
「フフフ」
とだけホワイは笑った。
「まあ、とにかく、これで君の依頼交渉は成立致しました。ではヒントの件を含めて色々、お話致します。もちろん、お話も聞きたいので、お店を閉めましょうか」
とフーが言ったのが合図になったのか、3人は散開してから閉店の準備を始めた。
僕は依頼が成立した喜びでホクホク顔になっていた。
「あ、間抜けな顔。アハ」
「コラ、ハウ、真面目に」
と聞こえたが、気にする気にもならずに笑い続けた。
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