#05 例題
ハウが目を細めて口を弓なりに顎を突き出して笑う。
嗤った。
あれれぇ、知りたいって顔してるね。
フフフ。推理の帰納と演繹の渦まかれて、死ねぇッ!
帰納と演繹の意味、正確に知らないけども。アハッ。
「まあまあ、フレームレートとサンプリングレートを使った簡単なお遊びでぇす。ハウちゃんお得意のトリック。ただ姉貴の心理誘導監修がないとね、だけどもさ」
フ、フレームレート、と、サ、サンプリングレート?
「フフフ。ヤマケンさんの動きは先読めましたので、その動きに合うよう遅れてハウにセリフを言わせたのが、私なのです。その動画で音が遅れただけですわ。フフフ」
いやいや、ホワイの先読みは痛いほどに知ってるさ。
けども、音の遅れがトリックだって?
「まあ、アプリを自作しても同じ事ができるからトリックとしては三流どころか四流ペテンなんだけどさ。だからお遊び。てか、トリックのタネを知りたいのか?」
ううん? ケンダマン?
フフ。オッケー、ヒントの請求だな。
毎度ッ。
とハウが右手を前に出して手のひらを上にわにわに。
「フム。だまし討ちは卑怯ですよ、ハウ。推理ゲームはルールに則り公正にやるから面白いのです。よろしい。では、山口君、先に言っておきましょうか」
なにを?
「ヒントの請求には5万円を頂きます」
へぇっ?
とフーの唐突なる発言に間抜けな声が漏れてしまう。
「フム。なにから、お話しましょうか。そうですね。まず、ヒントの件は、一旦、頭の片隅にでも置いておいて下さい。それよりも会計で請求した30万円の件から」
フーは右手のひらで顎を撫で視線を左上へと動かす。
そういえば、そうだッ!
そうだった。僕は珈琲一杯で30万円も請求されていたんだったッ!
現実逃避なのだろう、いつの間にか30万円の請求が頭の中から消え失せていた。
てか、珈琲一杯で30万円って、あり得んだろうッ!
なんだかどんどんと頭に血が上って、ふつふつと怒りが湧いてきた。
「ちょっと待って下さいよ。30万円は、あり得んでしょう。それともなんですか? あの珈琲には隠し味として金塊でも溶かしてあるんですか? 42gも?」
顔を真っ赤にして、必死で抗議する。
そりゃ、そうだろうが。
30万円と言えば、僕が1万文字の記事を10本ほど書いて、ようやく稼げる金額だぞ。しかも1万文字が10本って事は10万文字。つまり文庫本での小説を一本書けるだけの文字数だ。無論、原稿料は取材費込み。あり得んだろうがッ!
まるで頭から湯気が出ているようにも錯覚するほどに怒り心頭の僕。
「アハッ。42gって。よく、そんなに細かい数字が、するっと口から出るよね。トリックが得意なハウちゃんでも金塊の時価なんて覚えてないよ。頭が下がるわ」
その一点だけだけども。
とハウが茶々を入れて、腹を抱え、大声で笑い出す。
それが、また豪快だからこそ余計に腹が立って頭から立ち上る湯気が蒸気になる。
ぐぎぎ。
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