#02 ホワイ
ハウが顔を真っ赤にして二の句を繋ぐ。
相変わらず燃ゆる拳。
「行動力だって姉貴よりあるし、度胸だってさ。姉貴なんて部屋に篭って、ウフフ、アハハするだけでしょ。その点、あたしは現場で大活躍するもん。するんだいッ!」
ぶんぶんと両拳を振って駄々をこね始めて蒼い気が残念ながらも霧散してしまう。
いくらアホの子、ハウでも、さすがに鉄拳制裁は気が引けたんだろう。
それを見て安心したのか、例によって右口角に左手を添え高笑いを始めるホワイ。
「オホホ。好きなように言っておきなさいな。実際に現場に出て、どちらが有用かなんて一目瞭然になるのですからね。ナスタチウムは私の頭上に輝くのです」
「ナスタチウムなんて言われても意味が分かんないもん」
精一杯、頬を膨らませてからイィと歯をむき出しにして威嚇するハウ。
「いつもの事ですが、やれやれ、ですね」
フーは間に割ってから入って2人を離してたしなめる。
「どちらが上などという事はないのですよ。むしろ自分が上だと言い放つ人間は格が低い。敢えて下に甘んじる事ができる人間こそが人間性が高いと言えるのです」
などと講釈をたれているが、当の2人は聞いていない。
つかみ合いの喧嘩すら誘発しそうな一触触発で、逆に、こんな下らない事で喧嘩ができるなんて仲がいいんだろうなとさえ思えた。それでも、今、ここで姉妹のキャットファイトが始まってしまえば面倒くさい。そう思ってフーを見つめる。
困った事がバレバレの苦々しい顔でだ。
「姉貴のバーカ。死ね、死ね、死ねッ!」
「本当に語彙力がないですわね。死になさいだけでも、逝きなさいとか、黄泉へと堕ちなさいとか、屍を晒しなさいとか言えますのに。ホホホ。程度が知れますわ」
と……。
じゃれついているのか本気で諍っているのか分からない喧嘩に大きな雷が落ちる。
「馬鹿者」
まるで、大地が震えんが如くの大声で2人をいさめる。
ようやく、満を持してのご登場なフー。
喧嘩がどんどんエスカレートしそうでヒヤヒヤだった。
「……どうしよもない」
呆れ顔で、言い放つ。
途端にハウとホワイの背筋がピーンと伸びて直立不動。
ビクッとという擬音が似合うような顔つきになる2人。
「死ねとか、逝きなさいとか、そんな言葉を使ってもいいと思っているのですか。言葉には力があります。言霊というやつです。加えて人を呪わば穴2つなのですよ」
フーは仁王を体現したような顔つきと態度で強く叱る。
ハウは、ぎゅっと力を込めて目を閉じて首をすぼめる。
静かに目を閉じて反省の意を示して頭を下げるホワイ。
さしものの2人もフーには敵わないようで、恐縮して縮こまっている。
「無論、すべからく死ねとか逝きなさいとかを使ってはいけないとは言いません。ただ軽々しく使ってもいい言葉ではないのですよ。それを履き違えてはいけない」
おずおずとハウが小声で言葉を発する。
「ごめん、パパ。ちょっと調子に乗りすぎちゃったかも」
悪ふざけなしにゆっくりと頭を下げる。
続いて改めて静かに頭を下げるホワイ。
こちらは終始無言だ。
それでも反省している気持ちは痛いほど伝わってくる。
この灰色探偵ダニットという組織は親と子で構成されているのは周知の事実だが、子供の性根は素直で父親を尊敬しているのだろう。だからこそ間違いを指摘され、それが間違いだと納得すれば真っ正直にも謝る事ができるのだ。
僕に家庭はなく子供もないが、少々、羨ましくもある。
無論、僕がこれから依頼する事件解決にもこの家族の関係性はとても重要だろう。
家長であるフーが、全てを取り仕切っているのだと分かったからこそ。
その事実を心して胸の前でぎゅっと力強く拳を握った。
「なんてね。アハッ。驚いた? えっと」
とハウが言っていきなり笑い出す3人。
残念でしたとでも言い出しそうな感じで、笑い転げる。
ええっ?
なにが?
なんだか、おいてきぼり感が半端ないんですけど……。
「えっと」
えっと?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます