Chapter01 対面

#01 著者不明

***** 以下は僕、山口堅太(やまぐち・けんた)の手記である。


12月19日 午後5時55分。


 …――本を閉じる。


 ぱたんという軽い音が静かな辺り一面に響き渡る。


 著者は不明だが、今回の事件解決を依頼する探偵に関係があると渡されたものだ。


 ミステリー小説だ。


 ライトな感じで話は進む上に、ロジック構築も単純明快でエンタメ感が濃いもの。


 推理に対しての答えは一つではあってはならないと言い切る探偵が活躍する。彼いわく、推理とは捜査などで分かった事柄を基にして真相を推し量る事であると言う。つまり答えを一つに絞ってしまえば推理が間違っていた場合、真実から遠ざかる。


 ゆえに推理に対しての解は灰色領域を持つくらいの方が、ちょうどいいのだ、と。


 無論、どんな事件にでも必ず原因と結果があって原因は結果に対して一つだけだ。


 つまり過去に何らかの出来事(※原因)があり、現在(※事件が起こった後。つまり結果)が在るのだから、過去に起こった出来事こそが事件の原因なのだ。だからこそ事件に対しての真相は一つだとも言える。しかし、彼は、こう言い放つ。


 その一つを知る為に推理があり、推理が固まった時、初めて真実が明らかになる。


 ゆえに推理が固まるまでは解を一つに定めるべきではないのだ、と。


 風で本のページが翻弄されているかのようぺらぺらとめくってゆく。


 一つだけ大きなため息を吐く。


 分かるような分からないような、そんな不可思議な思いに駆られる。


「でも面白い小説だったな。時間を潰すには、ちょうど良かった。……というか、遅いな。まだか? 約束の時間を間違ったか? それとも日にちを聞き違えたか?」


 などと独り言が出てしまう程に僕はソワソワと心が急き焦っていた。


 それにしても遅い。遅すぎる。


 辺りをぐるっと一通り見回す。


 ここは洒落た、とある喫茶店。


 お店の名は、ふわふわと言う。


 女子高生や結婚前のOLなどが使いそうな作りからしてファンシーな店だ。無論、僕は42歳の中年親父だから(※結婚はしていないが)、どうにも背中が、むず痒くなってきて居心地が悪い。珈琲のお代わりを頼むのも、はばかれている。


 入店した時に頼んだ珈琲の残りが白いカップの底に張り付いている。


 ともすれば干からびて固まるような勢いで冷え切ってしまっている。


 今の僕の心、そのものだろう。


 もう一度だけ店内を確認する。


 客は僕を含め二人。僕を含めるのだから僕以外に、もう一人だけいるという事だ。


 その一人は、僕から少々離れた店の奥まった窓際の席に座る高校生らしき女の子。


 白文字でHowと大きく描かれた青いキャップを被っているのが特徴だろうか。緑色をしたクリームソーダーをストローで、もてあそんでいる。とても暇そうな感じをうける。彼女も、また待ち合わせで待ち人が遅れているのであろうか。


 そう思えてしまう。


 僕は机の上に人差し指を忙しなくコツコツと押しつけてから、またため息を吐く。

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