灰色探偵ダニット

星埜銀杏

Chapter00 プロローグ

#00 プロローグ

 …――真実は一つとは限らないのです。


 フムッ。


 さてと。


 推理や推論というものは常に灰色領域を持つもの。


 真実を見つめる角度によって人それぞれの複雑怪奇な灰色が生まれるわけです。


 今回の事件も灰色が色濃いもので、片親の元で育った女子高生が不可解な殺されかたをされる所から始まります。依頼人は被害者の父親の友人を名乗るフリーライター。ここに灰色がある。わたくしの興味が尽きない灰色領域があるのです。


 フム。灰色領域の意味が、いまいち分からないと?


 よろしい。一つ分かりやすい例を挙げましょうか。


 鋼鉄の玉と真鍮の釘。


 鋼鉄の玉は小さく真円。真鍮の釘は黄金色をしているが普通のものとなります。


 上記の2つは、お互いが、お互いを必要とする関係にあります。


 数式で表すと鋼鉄の玉×真鍮の釘と表現できます。もちろん、この関係性上、加算〔足し算〕ではなく乗算〔※かけ算〕でしか表せません。と言った時、このお話を読み始めた君は、どんな答えを導き出しますか? フム。そうですね。


 君が、たとえ、どんな解を導き出すとしても、それら全ては正解となるのです。


 推理においての真相という意味での正解〔灰色〕へと昇華するのです。フムッ。


 例えば、


 けん玉であったり、また例えばで、芸術的な、何らかのオブジェであったりと。


 少々、いびつで答えとしてはピッタリとハマらないピースであったとしても解としては十分に、あり得るのです。つまり推理は数学ではない。ゆえに、1×1=1のよう決まった唯一の解がない。そう。推理においては1×1の解が……、


 3になったり5になったりするのです。


 それらの不可解な解を客観的に分析した時、グレーゾーンが生まれるわけです。


 それこそが灰色。灰色領域なのですね。


 フムッ。


 しかしながら、実は、その灰色領域こそが事件の真相であったりもするもので。


 だからこそ、推理は興味が尽きず、とても面白い。


 決まった答えがないからこそ、複雑怪奇で知的な好奇心を揺さぶられるのです。


 フムッ。


 少々、退屈で、つまらない話でしたね。


 よろしい。では、最後に、今回に限っての玉と釘の数学的公式と解法を開示してから始めましょうか。今回のお話を。実は、答えは、とても簡単なもの。どこにもでも在る。玉があるからこそ釘がある。釘があるからこそ玉も生きるなのです。


 そうです。そうなのです。……パチンコなのです。


 フム。


 いくからですが興奮してしまったようですね。このわたくしが。


 兎に角。


 玉はパチンコ玉。釘はパチンコ台に打たれたもの。


 どちらも、どちらの為にはなくてはならないもの。


 それは、


 互いを足し合わせる加算ではなく互いが互いを生かす乗算でしか言い表せない。


 そして、


 今回の事件でも、玉と釘、この2つは、なくてはならないファクトなわけです。


 では、真実の一つを明るみに出すとしましょうか。


 灰色領域を愉しむ為。


 私の人生においての命題を明るみに出すが為にも。


 しばしの間のご清聴を願えればと……。


 フムッ。

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