第2話 卵の可能性
「卵の素晴らしさについて、もはや語る必要はないと思っていたが、どうやら貴様には一から卵の奥深さについて享受してやらねばならんようだな、まったく」
「いいか、卵とは、その存在自体が至高なのである。食糧として、我々の体を作りあげてくれる。貴様は、そこが分かっていない。戦ってみてわかったが、貴様、卵を十分に摂取していないな? 至高の食品を侮っている!」
「目を見張るべきはやはりそのタンパク質。含有量は卵一つ辺り約7グラム。そのまま食べることも、調理して食べることも可能なお手軽食品で、ここまで高いたんぱく質含有量を誇る食品はそう多くはない。卵一つに含まれる脂質は約5グラムであるが、その問題は白身だけを食べれば解決する。白身はほとんどが良質なたんぱく質だ。まあ、俺は脂質など気にすることもなく何個も食べているがな」
「そしてただたんぱく質の含有量に目を向けるだけでは、凡人だ。卵の最も素晴らしい点は必須アミノ酸の完璧な含有にある。たんぱく質がいくらあっても筋肉を合成するための栄養素が不足していては意味がない。必須アミノ酸を十二分に含み、尚且つ自身のたんぱく質含有量も高いとなれば、卵がどうしてこれほどまで評価されているか、よくわかるだろう」
「私はマヨネーズが好きだ。タルタルソースが好きだ。揚げ物の黄色い衣が好きだ。卵が使われる全ての食べ物が好きだ。
美味しいから、だけではない。
至高だから、好きなのだ。卵という至高を纏った食品は全て、すべからく至高であるに違いないのだ。
私の身体は、卵で出来ている。至高の卵によって形作られている。
ならば! なればこそ!
私は! 至高の存在に他ならないのだ!
人生とは、人間の価値とは!
卵を何個食べたかで決まる!
数が少ないものは弱く、脆く、はかない。
多ければ多いほど、強く! 逞しく! 美しいのだ!
貴様は!
どこにいる! 生天目影!」
割れそうなくらいに大きな声が、俺の名を呼ぶ声が、頭上で響く。
全身は鉛のように重く、冷たい土の感触だけが、体を包む。
呼吸は浅く、思考は鈍い。
頭上で喚く男の声が、どこまでも理解できないまま、頭の中をぐるぐるとめぐっている。
認識する間もなく、俺は剛虎に叩き潰された。〈影の刃〉をいとも簡単に握りつぶされ、大木のような腕で頭を地面に向けて軽く、ほんとうに軽く、それこそ埃をはらうかのように叩いた。それだけで、瞬く間に俺の身体は地面にめりこみ、立ち上がる気力も失う程に、文字通り叩きのめされたのだった。
「いやなに、タルタルソースが好きだと言ったがな。私はチキン南蛮が好きなんだ。あの油と旨味のコンビネーション。タンパク質と並んで、体を大きくするためには欠かせない炭水化物の白米を掻きこむにはやはりチキン南蛮が、いや、もはや呼び捨てするのも恐れ多い。チキン南蛮様と呼ぶべきだろうか・・・まあ、なにはともあれ、貴様もチキン南蛮を食べる所から始めると良い。至高の卵を摂取しなければ、貴様は俺には敵わんよ」
延々と卵について語る剛虎の声をどこか遠くに聞きながら、俺は意識を保つことすら叶わず、眠りに落ちたのだった。
チキン南蛮が・・・なんぼのもんじゃい・・・
筋肉雑談(仮) そこらへんの社会人 @cider_mituo
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