第29話
創造神見習いが提示してきた、『
ようは橋を建造するための見積もりは、なんと……。
橋ひとつにつき10億
ルシエロは川の多い地域なので、大小あわせてかなりの数の橋が存在する。
そのひとつに10億など、とても払うことはできない。
しかし、天使相手に交渉することもできない。
神にもっとも近い彼らのすることは、すべてが正義……。
その力を享受できるだけでも有り難いというのに、値引きなどはもってのほかだったのである。
ブリッヂレイカーは悩んだ挙句、その金額を受け入れることにした。
しかし、すべての橋の建造を頼んでいては、財政が破綻してしまう。
そこで、一部の橋だけに限定することにした。
選ばれたのは、領内でいちばんの街。
領主の館もあり、人が大勢利用するおおきな街に必要な橋、その3基の建造を依頼した。
それでも30億
この領内で始まって以来の、一大プロジェクトである。
費用を捻出するため、ブリッヂレイカーは領民たちに対し、臨時の特別増税を行なった。
まさか自分たちの懐が痛むとは思っておらず、領民たちは不満を露わにする。
しかし天使様の橋があれば、見返りも大きいだろうと、やむなく従った。
そして賓客……いや、まさしく神のような歓待で迎えられた、天使『ダメルシアン』。
彼はワックスで撫でつけた黒髪に、ワンポイントの前髪をチョロンと垂らしている。
目つきは無愛想なのに、口だけは歯茎が剥き出しになるほどにニッカリ笑っていた。
パリッとしたキトンはシミひとつなく、まばゆいほどの白さを放っている
歳の頃はヘルロウと同じ中学生くらいなのだが、なんだか世の中をナメている金持ちの坊ちゃんのような風体であった。
そんな彼でも、領内いちばんの街の広場に降臨するなり、待ち構えていた人々がわっと集まってくる。
しかし彼は開口一番、民衆に対してこう言い放った。
「ダメだよ、僕のまわりには近づかないでくれるかな? 汚れが移るから」
この日のために祭壇が用意されていたのだが、彼は翼をはためかせて浮いたまま、その上に降りようともしなかった。
のっけから嫌みったらしさ全開であったが、民衆のほとんどは、天使というのはそんなものなのかと思ってしまう。
しかし、年老いた者たちは違った。
「あれが、天使のダメルシアン様か……」
「同じ創造神見習いでも、むかしこの地に来てくださったヘルロウ様とは大違いじゃのう……」
「ああ、ヘルロウ様はペンキまみれの服を着てなすった。我らよりもずっと働き者服じゃった……」
「でもあの天使様のお召し物は、ずいぶんとキレイじゃのう……」
「本当にあの天使様にお任せして、大丈夫なんじゃろうか……」
年寄りたちの心配をよそに、ダメルシアンのために特別な祭りが催され、それは三日三晩続く予定であった。
しかしその祭りも、彼の鶴の一言によって、30分ほどで中止となってしまう。
「ダメだよ、祭りはそのへんにして。僕は地上のものはなにひとつ口にしないし、地上の歌や踊りには興味がないんだ。あ、でも僕の偉業を讃える意味でも、これは行事として続けてほしいな。毎年このくらい盛大に、『ダメルシアン祭り』をやってよね」
ダメルシアンは一方的にそう告げたあと、さっさと橋の建造に取りかかる。
あまりにもな一言であったが、民衆のほどんとどは、やはり天使というのはそういうものなのかなと思っていた。
そしてやはり、年寄り連中の不満は募るばかり。
「ヘルロウ様は、ワシらにはなんにも望まなかった……讃えることも、なにも……。ただいっしょに働くこととだけを望んでおったというのに……」
「ヘルロウ様が橋をかけてくださったあと、ワシらはささやかながらも宴を開いたんじゃ。ヘルロウ様はとても喜んでくださって、焚き火を囲んで、ワシらと肩を組んで歌ってくださった……」
「同じ天使でも、やっぱりヘルロウ様とは大違いじゃ……」
「本当にあの天使様にお任せして、大丈夫なんじゃろうか……」
我慢できなくなった年寄りたちはブリッヂレイカーに直訴をしたが、父親の言葉にすら耳を貸さなかった彼が、庶民の言うことなど聞くわけがない。
「すでにダメルシアン様には、30億
ブリッヂレイカーが依頼したのは、ダメルシアンが降臨した街にある、大きな川のための橋。
長さ50メートル級の、立派な大橋が求められる箇所である。
50メートルクラスの橋を、たったの1日で、3つも架ける……!?
それは人間の力だけでは、到底不可能な芸当である。
人々は誰もが注目した。
いったいどうやって、そんな偉業を成し遂げるのか……!?
たしかにそれをやってのけたのであれば、毎年祭りを催して讃えるだけの価値はあると……!
そして人々は目撃する。
ヘルロウとは真逆の、恐るべき創造、その一部始終を……!
『ヘル・クラフト』と、ある意味比肩するであろう、伝説のクラフト……!
『ダメ・クラフト』をっ……!!
ダメルシアンは作業員に指示して、街の外から針葉樹の大木を運びこませると……。
川の対岸めがけて、
……ズズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーンッ!!
なんと、横倒しにっ……!?
枝打ちもされていない、引っこ抜かれたばかりの木が、3回続けて横たえられた。
しかも、何事もなくうまくいったのは、最初の1回だけ。
次の1回は距離を見誤って届かず、川の中に落っことしてしまった。
そして最後の1回も、同じように距離を間違ってしまう。
今度は距離不足ではなく、距離オーバーとして……。
しかも対岸にあったのが、
……メキメキメキメキメキィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーッ!!!!
巨木にのしかかられた領主の館は、見事なまでに真っ二つになってしまった……!
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