第26話

 ヘルロウの、等活地獄征服の種明かしを聞きおえた鬼たちは、みな一様に唸っていた。



「わぁ……! すごい……! たったひとつの石で、亡者を脱走に駆り立てるだなんて……!」



「でも、鬼のわたしでも、なんとなく気持ちがわかるのだ!」



「ほう……。小生の予想と、ほぼほぼ合致しておりました」



 そしてアローガはというと、



「ああ……ヘルロウ様のお考えの前には……うちみたいなもんでは、及びもつかないどす。はぁぁ……。ほんにすごいお人やわぁ……。うちはますます惚れ直したどす。うちは一生、ヘルロウ様についていくどす」



 恋する乙女のような表情で、ヘルロウを見つめていた。

 ゴルバは男泣きしていた。



「なっ……! なんという、智略に長けた戦術……! それに鬼武者と呼ばれた拙者を、こうもあっさりと囚縛するとは……! アローガ殿にいたっては、もはや心酔にふけっておるとは……! 亡者のなかにも、これほどの猛者がおるとは、不覚……! 赤面の至りでござる! 決めた! 拙者は決めたでござる! 今日よりゴルバは、ヘルロウ様に伺候するでござる!」



 結局、等活地獄の獄吏たちも、あっさりとヘルロウの軍門に下った。


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権獄けんごく

 アローガ、ゴルバ


大獄たいごく

 ダーツエヴァー


小獄しょうごく

 ピンキー、ミヅル


堕天だてん

 ヘルロウ


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 ヘルロウ、新しい仲間、ゲット……!


 ふたりとも『様』づけで呼んでくるのがなんとなく居心地が悪かったが、ヘルロウはさっそく彼らに指示を出す。



「よし、それじゃあお前たちに、さっそくやってもらいたいことがある。まずは今から等活地獄に戻って、普通に獄吏としての仕事を続けるんだ」



「えっ、戻っていいんどすか?」



「ああ。おそらくだが、お前たちの仕事ぶりはエンマ城から監視されてるはずだ。常時ではないだろうが、お前たちが長いこといないと、怪しまれるだろうからな」



「はっ、御意でござる!」



「ただこれからは、仕事をしている間、エンマ城のほうを注意して見てほしいんだ。きっと見張りらしきヤツがいる瞬間があるはずだ。それは一見してランダムのように見えるかもしれないが、きっと何らかの法則性がある。だからお前たちは見張りが出てきた時間を覚えておいて、まとめて俺に報告してほしいんだ」



「ははぁ、わかりましたどす」



「あとついでに、武器である石棒が折れたとかいって、配備申請を出すんだ。新しいのが手に入ったら、古い方を俺にくれ」



「配備申請をしてしまうと、査定がマイナスになってしまうんどすが、わかったどす。うちの査定をするのはもうエンマ様ではなく、ヘルロウ様どすから」



「悪いが頼む。これからのために、石棒はどうしても必要なんだ」



「もちろんどすえ。うちのぜんぶ、ヘルロウ様にあげるどす」



「それは拙者も同じでござる! ヘルロウ様のためなら、笑って天国にも行くでござる!」



 ヘルロウはその熱烈アピールには特に応えず、続けて他の鬼たちに指示を出した。



「よし、お前らは亡者の受け入れのための最後の準備をするんだ。壊れた家を直して、芋粥を大量にこしらえろ。これからこの拠点は多くの亡者が出入りすることになるから、しっかりな」



「うん!」「わかったのだ!」「ほう……」



 残った鬼たちも、もうすっかり従順になっている。

 ヘルロウが石ひとつで等活地獄を征服してしまったので、もう意異議唱える者はいなくなっていた。


 それからヘルロウは、ゴルバとアローガが使っていた石棒を手に入れる。



【等活岩の石棒】 武器レベル:3

 等活岩でできた石の棒。重く、振り回すにはかなりの力がいる。

 鬼の力を引き出す獄技インフルが込められている。



 それを砕いて、木の棒と組み合わせてツルハシを作った。



【等活岩のツルハシ】 道具レベル:2

 等活岩でできたツルハシ。同じレベルの石を掘れる。



 再利用により込められた獄技インフルはなくなり、モノとしてのレベルは下がってしまったが、これでようやく、等活地獄の壁が掘れるようになった。


 拠点からそびえる壁をツルハシで掘り、人が通れるくらいの穴を開ける。

 そしてエンマ城からの見張りのスキをついて、ゴルバとアローガは、亡者たちを外に出した。


 といっても全員いなくなると怪しまれてしまうので、500人ほどいる亡者たちの100人ほどを入れ換える形をとる。

 残っている400人ほどの亡者には、殺し合いのフリをさせた。


 これにより、ヘルロウ軍の拠点には常に100人の亡者がおり、しかもエンマ城から見てもバレないという事になる。


 ヘルロウはまず、呼び寄せた亡者たちに芋粥を振る舞う。

 失神者が続出するほどの食事で胃袋を掴んだあとは、彼らの前で演説をした。


 かつて鬼たちの前で振るった持論を、同じように展開。

 鬼たちですら心動かされたその熱弁に、かつて人間であった亡者たちが、動かされないわけがない。


 ヘルロウ、亡者たちをガッチリ、ハートキャッチ……!

 常時、100人もの労働力をゲット……!


 彼らを使ってやったことは、まずは拠点の拡充。


 レアアイテムである成長促進の石を使わずとも、常時サツマイモが産出できるだけの体勢を整えた。

 そして100人が寝泊まりできるだけの家も創った。


 しかも待望の、石の家である……!

 等活地獄の石壁をうまく使い、壁沿いに貼り付くように建築した。



【等活岩の家】 建物レベル:3

 等活岩を組んで作った家。

 雨風を防げ、家としての耐久性もある。



 ヘルロウのクラフトはまだ続く。

 彼が、次に手がけたものとは……?


 これは、ダーツエヴァーの一言が発端となった。



「だーっ! そうなのだ! わたしは三途の川の渡しだったのだ! 楽しくてつい忘れていたのだ! 戻ってお仕事をしないと、エンマ様に叱られてしまうのだ!」



「わぁ、そうだった! よく考えたら私とミヅルもじゃない! 三途の川で、積んだ石を壊さないと!」



「でも三途の川や賽の河原は、エンマ城から見張られているわけじゃないから、少々サボってたって大丈夫だろ」



「そう! それはよくないどすえ! ダーツエバーはんもピンキーはんも、すぐに帰ったほうがいいどす!」



「わあっ!? 押さないでよ、アローガちゃん! そんなに急がなくても……!」



「ほう……。おそらくアローガは、少なくとも女性陣を追い払いたいようですね」



「そ、そんなことはないどすえ! でもさっさと帰るどすえ! ヘルロウ様のことは、おはようからおやすみまで、ぜぇんぶうちが面倒みるどすから!」



「た、助けてヘルロウ君! 私、帰りたくない! ここにいたいよ! だって子供の積んだ石を崩すよりも、ここのほうがずっと楽しいもん!」



「そうなのだ! もうストローとふたりぼっちは嫌なのだ! ヘルロウといっしょに、ここにいたいのだ!」



 歯医者を嫌がる子供のように、ヘルロウにしがみつくピンキーとダーツエヴァー。

 そのふたりを引っぱって、グイグイと引き剥がそうとするアローガ。


 ヘルロウが出した、答えとは……!?



「よし……! じゃあ次は、アレ●●を創るぞっ!」

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