第26話
ヘルロウの、等活地獄征服の種明かしを聞きおえた鬼たちは、みな一様に唸っていた。
「わぁ……! すごい……! たったひとつの石で、亡者を脱走に駆り立てるだなんて……!」
「でも、鬼のわたしでも、なんとなく気持ちがわかるのだ!」
「ほう……。小生の予想と、ほぼほぼ合致しておりました」
そしてアローガはというと、
「ああ……ヘルロウ様のお考えの前には……うちみたいなもんでは、及びもつかないどす。はぁぁ……。ほんにすごいお人やわぁ……。うちはますます惚れ直したどす。うちは一生、ヘルロウ様についていくどす」
恋する乙女のような表情で、ヘルロウを見つめていた。
ゴルバは男泣きしていた。
「なっ……! なんという、智略に長けた戦術……! それに鬼武者と呼ばれた拙者を、こうもあっさりと囚縛するとは……! アローガ殿にいたっては、もはや心酔にふけっておるとは……! 亡者のなかにも、これほどの猛者がおるとは、不覚……! 赤面の至りでござる! 決めた! 拙者は決めたでござる! 今日よりゴルバは、ヘルロウ様に伺候するでござる!」
結局、等活地獄の獄吏たちも、あっさりとヘルロウの軍門に下った。
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●
アローガ、ゴルバ
●
ダーツエヴァー
●
ピンキー、ミヅル
○
ヘルロウ
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ヘルロウ、新しい仲間、ゲット……!
ふたりとも『様』づけで呼んでくるのがなんとなく居心地が悪かったが、ヘルロウはさっそく彼らに指示を出す。
「よし、それじゃあお前たちに、さっそくやってもらいたいことがある。まずは今から等活地獄に戻って、普通に獄吏としての仕事を続けるんだ」
「えっ、戻っていいんどすか?」
「ああ。おそらくだが、お前たちの仕事ぶりはエンマ城から監視されてるはずだ。常時ではないだろうが、お前たちが長いこといないと、怪しまれるだろうからな」
「はっ、御意でござる!」
「ただこれからは、仕事をしている間、エンマ城のほうを注意して見てほしいんだ。きっと見張りらしきヤツがいる瞬間があるはずだ。それは一見してランダムのように見えるかもしれないが、きっと何らかの法則性がある。だからお前たちは見張りが出てきた時間を覚えておいて、まとめて俺に報告してほしいんだ」
「ははぁ、わかりましたどす」
「あとついでに、武器である石棒が折れたとかいって、配備申請を出すんだ。新しいのが手に入ったら、古い方を俺にくれ」
「配備申請をしてしまうと、査定がマイナスになってしまうんどすが、わかったどす。うちの査定をするのはもうエンマ様ではなく、ヘルロウ様どすから」
「悪いが頼む。これからのために、石棒はどうしても必要なんだ」
「もちろんどすえ。うちのぜんぶ、ヘルロウ様にあげるどす」
「それは拙者も同じでござる! ヘルロウ様のためなら、笑って天国にも行くでござる!」
ヘルロウはその熱烈アピールには特に応えず、続けて他の鬼たちに指示を出した。
「よし、お前らは亡者の受け入れのための最後の準備をするんだ。壊れた家を直して、芋粥を大量にこしらえろ。これからこの拠点は多くの亡者が出入りすることになるから、しっかりな」
「うん!」「わかったのだ!」「ほう……」
残った鬼たちも、もうすっかり従順になっている。
ヘルロウが石ひとつで等活地獄を征服してしまったので、もう意異議唱える者はいなくなっていた。
それからヘルロウは、ゴルバとアローガが使っていた石棒を手に入れる。
【等活岩の石棒】 武器レベル:3
等活岩でできた石の棒。重く、振り回すにはかなりの力がいる。
鬼の力を引き出す
それを砕いて、木の棒と組み合わせてツルハシを作った。
【等活岩のツルハシ】 道具レベル:2
等活岩でできたツルハシ。同じレベルの石を掘れる。
再利用により込められた
拠点からそびえる壁をツルハシで掘り、人が通れるくらいの穴を開ける。
そしてエンマ城からの見張りのスキをついて、ゴルバとアローガは、亡者たちを外に出した。
といっても全員いなくなると怪しまれてしまうので、500人ほどいる亡者たちの100人ほどを入れ換える形をとる。
残っている400人ほどの亡者には、殺し合いのフリをさせた。
これにより、ヘルロウ軍の拠点には常に100人の亡者がおり、しかもエンマ城から見てもバレないという事になる。
ヘルロウはまず、呼び寄せた亡者たちに芋粥を振る舞う。
失神者が続出するほどの食事で胃袋を掴んだあとは、彼らの前で演説をした。
かつて鬼たちの前で振るった持論を、同じように展開。
鬼たちですら心動かされたその熱弁に、かつて人間であった亡者たちが、動かされないわけがない。
ヘルロウ、亡者たちをガッチリ、ハートキャッチ……!
常時、100人もの労働力をゲット……!
彼らを使ってやったことは、まずは拠点の拡充。
レアアイテムである成長促進の石を使わずとも、常時サツマイモが産出できるだけの体勢を整えた。
そして100人が寝泊まりできるだけの家も創った。
しかも待望の、石の家である……!
等活地獄の石壁をうまく使い、壁沿いに貼り付くように建築した。
【等活岩の家】 建物レベル:3
等活岩を組んで作った家。
雨風を防げ、家としての耐久性もある。
ヘルロウのクラフトはまだ続く。
彼が、次に手がけたものとは……?
これは、ダーツエヴァーの一言が発端となった。
「だーっ! そうなのだ! わたしは三途の川の渡しだったのだ! 楽しくてつい忘れていたのだ! 戻ってお仕事をしないと、エンマ様に叱られてしまうのだ!」
「わぁ、そうだった! よく考えたら私とミヅルもじゃない! 三途の川で、積んだ石を壊さないと!」
「でも三途の川や賽の河原は、エンマ城から見張られているわけじゃないから、少々サボってたって大丈夫だろ」
「そう! それはよくないどすえ! ダーツエバーはんもピンキーはんも、すぐに帰ったほうがいいどす!」
「わあっ!? 押さないでよ、アローガちゃん! そんなに急がなくても……!」
「ほう……。おそらくアローガは、少なくとも女性陣を追い払いたいようですね」
「そ、そんなことはないどすえ! でもさっさと帰るどすえ! ヘルロウ様のことは、おはようからおやすみまで、ぜぇんぶうちが面倒みるどすから!」
「た、助けてヘルロウ君! 私、帰りたくない! ここにいたいよ! だって子供の積んだ石を崩すよりも、ここのほうがずっと楽しいもん!」
「そうなのだ! もうストローとふたりぼっちは嫌なのだ! ヘルロウといっしょに、ここにいたいのだ!」
歯医者を嫌がる子供のように、ヘルロウにしがみつくピンキーとダーツエヴァー。
そのふたりを引っぱって、グイグイと引き剥がそうとするアローガ。
ヘルロウが出した、答えとは……!?
「よし……! じゃあ次は、
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