第25話
仲間であるはずのアローガに倒されてしまったゴルバ。
ヘルロウはサツマイモの蔓で作っておいたロープでその巨体をグルグル巻きにした。
【サツマイモのロープ】 道具レベル:2
サツマイモの蔓で編んだロープ。強度と柔軟性はほとんどない。
しばらくして気がついたゴルバは暴れようとしたが、ピンキーとアローガに石棒を突きつけられてしまう。
「ゴメンね、ゴルバ君。ゴルバ君にうらみはないけど、暴れるとまたガツンってやっちゃうよ?」
「ゴルバはん、ここは大人しゅうして、ヘルロウ様に従うどす」
もうすっかりヘルロウ軍に馴染んでいたアローガ。
変わり果てた同僚の姿に、ゴルバは度肝を抜かれてしまう。
「なっ……!? なんと……! ヘルロウというのは、そこにいる亡者のことでござるな!? 亡者に忠誠を誓う鬼が、地獄のどこにいるでござる!? このわずかな間に、いったい何があったというのでござるか、アローガ殿っ!?」
するとアローガは、ポッと頬を赤らめた。
「ヘルロウ様は、うちの(ハダカを見た)初めての
大胆発言に周囲の鬼たちも口をあんぐりさせる。
ちょっといいなと思っていた同僚の衝撃告白に、ワナワナと震えるゴルバ。
これは、同じ会社で同じ部署で、しかも席も隣どうしだった女子社員が、電撃結婚を発表したどころの騒ぎではない。
同じ鬼ならまだしも、相手は亡者だというのだ。
人間に例えるなら「豚と結婚する」と発表されたようなものである。
「ま、まさか……!? 鬼と亡者が通じるなど……!? ましてや、忠義を立てるなど……!? あ、ありえないでござるっ!?」
あぐらをかいて座っていたゴルバの目の前には、その噂の亡者が。
しかも、彼の座高と同じくらいの背丈しかない小さな少年である。
その両脇には、ピンキーとアローガという、地獄のオス鬼たちの間でも人気の高いメス鬼たち。
少年は、ふたりの美少女鬼を従えるように、真ん中に仁王立ちしていたのだ……!
「……なんだかよくわからんが、アローガは俺に協力してくれることになった。だからゴルバ、お前も観念して俺の仲間になれ」
「ぐっ……! 亡者の立場にありがながら、鬼たちを4人も
それで何かを思いだしたのか、脇にいたダーツエヴァーが「だーっ!」と声をあげた。
「そうなのだ、ヘルロウ! いったいどうやって亡者が脱走する気になったのか、教えてほしいのだ!」
すると他の鬼たちも気になっていたのか、続々と賛同する。
「わあっ、そうだった! 私もずーっと知りたかったの! だって数千兆年も脱走者なんてなかったんでしょう!?」
「ほう……。小生はすでにその手法を知っていますが、答え合わせのついでに、お聞かせ願いたいですね」
「ヘルロウ様、うちにもぜひ教えてほしいどす。だってそれでうちはヘルロウ様に、『初めて』を奪われてしまったんどすから……」
寄ってきたダーツエヴァーだけでなく、両脇にいるピンキーとアローガから服の裾をくいくい引っ張られるヘルロウ。
少年はやれやれといった様子で、肩をすくめた。
「そんな大したことはしてないよ。コイツを使っただけだ」
「それは、石なのだ!」
「そういえばヘルロウ君、言ってたね。この石ひとつあれば攻略できるって」
「そんな……たったの石ひとつで、どうやって脱走者を出すんどすか?」
「簡単さ。『等活地獄』の殺し合いのルールを考えれば、すぐにわかるだろう。等活地獄の殺し合いを生き延びるためには、なにが重要かわかるか?」
「えっと……たしか徒党は組めないんだよね? ってことは、身体の強さとか、戦いの腕前……?」
「それもあるが、それは常に戦いの最中にある等活地獄ではどうしようもない要素だな。もっと手っ取り早く強くなれる要素じゃなきゃ」
「わかったのだ! 強い武器を持てばいいのだ!」
「その通り。でも与えられる武器はランダムだし、敵の武器も奪うことはできないルールになっている」
「エンマ様がそうお決めになったんどす。徒党や武器で差がついて、生き残れるようになってしまってはお仕置きにならないどすから」
「そうだ。そんなすがるところのない戦場で、この石が落ちてたら、どうなると思う……?」
少年の手の内で弾む石に、「あっ!?」と驚きの声をあげる鬼たち。
「賽の河原ではそこらじゅうに転がっている、ただの石も……。なにもない等活地獄であれば、喉から手が出るほど欲しい『追加武器』に早変わりだ。しかも近接武器しかない地において、初めての飛び道具だ……!」
なにせ今までは同じ条件の接近戦を強いられていたのに、石ひとつあれば、遠距離からの先制攻撃が可能となる。
それは、棍棒で殴り合っていた原始人たちが、初めて『投石』という武器を知った瞬間にも等しい、一大革命……!
その便利さを知った亡者たちが、我先にとその石を奪い合ったであろうことは、想像に難くない。
そして石という新兵器の奪い合いが起こると、亡者たちはおのずと思うことだろう。
この素晴らしいモノ、いったいどこからやって来たのだろう、と……!
そしてすぐに結論は出るだろう。
この壁の向こうにある、『賽の河原』には、こんな石がたっぷりとあった、と……!
人間というのは、いちど便利なものを知ってしまったら、後には戻れない。
そして人間というのは、いちど便利なものを知ってしまったら、それを独占し、さらに増やそうとする。
いちど二足歩行を覚えてしまったサルが、ふたたび四足歩行に戻ることがないように。
『火』の脅威と利便性を知ってしまった原始人が、火を巡って争いを始めるように。
彼らは絶望と殺戮しかない地獄において、知ってしまったのだ。
石という新たな武器が持つ『希望』と、それをより求める『欲望』に……!
となれば、あとは言うまでもないだろう。
等活地獄内にたったひとつしかない石を、無数の人間たちで奪い合うより……。
外に無数にある石を持ち込めれば……。
壁の向こうにある賽の河原にさえたどり着ければ、たとえ途中で獄吏に殺されたとしても、石のいくつかを懐に忍ばせることができれば……。
圧倒的武力を持って、戦いに舞い戻ることができる、と……!
それはあくまでヘルロウの考えに過ぎなかったが、たしかにムーブメントは起こったのだ。
そして生まれたのだ。
数千兆年ぶりといわれる、脱走者が……!
そうなると後は、言うまでもないだろう。
ヘルロウは仲間の鬼たちを特訓させ、脱走者を追いかけてきた獄吏を捕まえる作戦を展開した。
そして見事に、ふたりの獄吏を掌中に収めてみせたのだ。
獄吏が不在の今、等活地獄はフリーダムになっていることだろう。
そう……!
少年はたったひとつの河原の石を、壁ごしに投げ込んだだけで……!
ひとつの地獄を、制圧してみせたのだ……!
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