第16話
……そして結局、今度はピンキーがふてくされてしまった。
皆のいる場所から離れた河べりに、ひとり背を向けて座っている。
「ピンキーが見たいというから見せてあげたのに、まさかあんなに怒るとは思わなかったのだ……」
いつもやさしく、そして大好きだったピンキーに怒られてしまったダーツエヴァーはかなりのショックを受けていた。
半べそをかいて、がっくりと落ち込んでいる。
「いったい、どうすればいいのだ……。どうすれば、仲直りできるのだ……」
そこで名乗りをあげたのは、他ならぬミヅルであった。
「ほう……小生もピンキーと一緒にこの賽の河原で暮らして長いですが、あんなに怒った彼女を見たの初めてです。でもこの小生には、彼女の機嫌を直すことができる秘策があります」
「な、なんなのだ!? 教えるのだ、ミズル! いつものピンキーに戻ってくれるなら、わたしはなんでもするのだ!」
「ほう……わかりました。そこまで言うのでしたらお教えしましょう。しかしその秘策を実現するためには、ある方の助力が必要不可欠なのですよ」
ミヅルはもったいぶった口調で、メガネをクイと上げながらヘルロウを見据えた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ピンキー、ちょっといいか?」
しかしにべもなく、プイとそっぽを向かれてしまう。
言葉では取り付く島もなさそうだったので、ヘルロウはその鼻先に回り込んで、あるものを突きつけた。
すると、あれほどキツく細められていた目が、驚きに見開く。
「わぁ……!? これってもしかして……!?」
ピンキーが手にとって広げてみると、それは鮮やかな柄のビキニ、上下セットであった。
「ああ。ビキニが最近キツくなったって、ミヅルに訴えていたらしいな。だから新しいのを創ったんだ」
言いながら、隣に腰掛けるヘルロウ。
ポニーテールを振り乱す勢いで振り向いたピンキーの顔は、ピンクの肌の上からでも分かるほどに赤熱していた。
「わあっ!? あ、あれは訴えてたわけじゃなくて、独り言だったのに……! まさかミヅルが聞いてただなんて……! キモいキモい、キモいっ!」
「まあそう言うなって、キツいのは事実だったんだろ?」
「そ、それはそうだけど……」
「お前のサイズに合わせて創ってあるから、ピッタリのはずだ。よかったら着てみてくれよ」
するとピンキーは、まだジト目に戻った。
「……なんで私のサイズがわかるの?」
「そりゃ、ずっと見てたからな」
「……もしかしてヘルロウ君って、女の子にモテないでしょ」
「わ、悪かったな。なんでわかるんだよ?」
「だって、彼女でもない女の子の胸をジロジロ見てたうえに、ビキニをプレゼントするなんて、正直キモいもん」
「わ……悪かったな! 着ないなら返せっ!」
ようやくヘルロウが赤くなったので、これでおあいこだと言わんばかりにペロリと舌を出すピンキー。
「だーめっ! だってもう貰ったんだもん! それに着ないなんて言ってないでしょ! こんな可愛い柄のビキニ、ちょうど欲しかったんだ!」
彼女はイタズラっぽく笑ったあと、またいつものまぶしい笑顔を取り戻す。
ちなみにではあるが、鬼たちが着ている衣服はすべて地獄から支給されているもの。
水着のようであるがいちおう制服で、必ず虎縞と決まっている。
破損してしまったりサイズが合わなくなった場合は、申請すれば新しいものが貰えるのだが……。
末端の鬼たちの申請はなかなか通らず、そう簡単には交換してもらえないという問題があったりする。
「わぁ……! ヘルロウ君ってなんでも創れるすごい子だと思ってたけど、まさか服まで創れるとは思わなかったわ! ……あれ? でもこれを創るための生地なんて、どこにあったの?」
ピンキーが疑問を抱きつつヘルロウを見ると、ヘルロウのペンキで汚れたキトンの袖が、肩口からごっそりなくなっていることに気付いた。
「……生地は、見てのとおりだよ。糸もそこから取った。縫い合わせるための針は、肋骨を削って創ったんだ。ブラには木のワイヤーが入れてあるから、今着ているヤツよりも着心地がいいはずだぞ」
ヘルロウはあさっての方角を向いたまま答える。
照れ隠しなのか、聞かれてもいないことまで。
近くにある岩陰に引っ込んだピンキーは、さっそくヘルロウの水着に着替えた。
その見た目の華やかさと、着心地の良さに、すっかりご機嫌で飛び出してくる。
「ねぇねぇ! みんな見て見て! これ、すっごく可愛い! それに全然キツくない上に、着心地も抜群なの!」
ブラが変わったおかげでさらに美乳度合いを増した胸を、自慢げに反らすピンキー。
いつものピンキーに戻ってくれたので、ダーツエヴァーも大喜び。
「えばーっ! とっても良く似合っているのだ! わたしもいつか、ピンキーのようなナイスバディになりたいのだ!」
「ダーツエヴァーちゃんもなれるよきっと! そしたら私といっしょに、ヘルロウ君とお揃いの水着を着ようね! 地獄で初めての、鬼どうしのペアルックができるんだよ!」
「ほう……。鬼どうしのペアルックというのであれば、それはすでに達成されていますよ」
そう言いながら、姉妹のような鬼たちの前に、現れたのは……。
パッションな柄のパンツを着こなす、ミヅルの姿が……!
「み、ミヅルっ!? どうしてミヅルまで!? ちょっと! これはどういうことなの、ヘルロウ君!?」
「だーっ! なんてことをしてれたのだヘルロウ! わたしとピンキーが、初めてのペアルックを約束したのだ! なのにそれを、一瞬にして破られてしまったのだ!」
姉妹から責められるヘルロウは、困惑した様子で後ろ頭をボリボリ。
「い、いや……。ピンキーもミヅルも、俺の作業をよく手伝ってくれたから……。そのお礼もかねてと思って……。なんか俺、悪い事したか?」
【ヘル・ビキニ】 道具レベル:5
天使のキトンの生地を使って創られた、上下セットの女性用ビキニ。
【ヘル・パンツ】 道具レベル:5
天使のキトンの生地を使って創られた、男性用のパンツ。
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