第11話

 ヘルロウの次なるクラフト宣言に、「「ふ……船っ!?」」とハモる鬼たち。



「まさか船を知らないなんて言うんじゃないだろうな?」



「船くらい知ってるよ! だってダーツエヴァーちゃんの所で、乗せてもらったこともあるし!」



 ピンキーが口にしたその名前に、ヘルロウはすぐにピンときた。


 『ダーツエヴァー』というのは三途の川にいる、渡し船を管理している鬼のことだ。

 訪れた亡者を地獄に送る役割をしており、その際に渡し賃を要求する。


 払えない場合はかわりに身ぐるみを剥がされ、ハダカで地獄行きとなってしまう。


 地獄で最初に出会う鬼であり、かつ印象深いキャラクターなので、階級は低いのだが知名度はかなり高い。

 ヘルロウも天使学校の授業で習っていたので、その存在は知っていた。


 今度はミヅルが横やりを入れてくる。



「船とは考えましたね。でも船を使って無断で川を渡ろうとすると、ダーツエヴァーに襲われますよ。我々みたいに条件限定の瞬間移動が可能ですから」



「お前らが子供の希望を察知して瞬間移動するように、船で川を渡ろうとしたらやって来るってわけか。じゃあせっかくだから、川を渡る前にソイツの所に行ってみるとするか。ダーツエヴァーといえば地獄でも有名人だから、一度会ってみたかったんだ」



「ダーツエヴァーちゃんのいる『渡し所』って、たしかかなり遠いよ。歩いて行くのは大変だと思うけど……」



「我々も、子供が手違いで『渡し所』に着いてしまったときに、瞬間移動を使って引き取りに行くくらいですから。もし歩いて行くと、どのくらいかかるか想像もできませんね」



「だろうな。子供だけの『賽の河原』に、『渡し所』の大人が迷い込まないように、かなり離れた場所にあるはずだからな」



 ヘルロウは言いながら、手にしていた枝で地面に線を引っ張り始めた。

 やがでできあがったのは地獄の見取り図で、おおよその現在位置と、『渡し所』までの位置が書かれている。



「わぁ、なにこれっ!? もしかして、地獄の地図!? ヘルロウ君、なんでこんなことまで知ってるの!?」



「いままで勉強してきたことの集大成さ」



 地図については教科書に載っていたものをそのまま写して描き、現在地については上空に出ている月と、遠方にうっすらと見えるエンマ城の角度から、おおよそで割り出した。


 ちなみにではあるが、天国は地獄の上位組織にあたる。

 簡単に言い表すなら、天国が本社なら地獄は子会社のようなものである。


 なので天国では地獄のすべての情報を握っており、その一部は天使学校で教えられていたりする。

 ピンキーやミヅルが到底知らないようなことも、ヘルロウは知っているというわけだ。



「でもこうして見ると、『渡し所』までそんなに遠くないように見えるね」



「ああ。でも地獄は広大だから、これでもかなり距離があるはずだ。しかしこの図を見てもわかるとおり、三途の川は輪になって繋がっている。だから船に乗って流れにそって行けばいつかは『渡し所』にたどり着くはずだ」



「ええっ!? でも船に乗ると、ダーツエヴァーちゃんに怒られちゃうよ!?」



「それはおそらくだが、対岸に渡ろうとしなければ大丈夫だろう。お前らと同じで、対岸に渡りたい気持ちを察知して瞬間移動してくるんだと思う」



「ほう、それはたしかに、一理あるかも知れませんね」



「これで納得がいったか? ならさっさと作業を始めるぞ! 船を作るための木材はもうあるから、お前らは骨を集めてきてくれ! 肋骨を重点的にな!」



 ヘルロウがパンパンと手を打ち鳴らすと、もはや池の鯉のような条件反射で、鬼たちは散っていく。


 ヘルロウは肋骨が到着するまでの間、船のパーツを作ることにした。


 まずは引っこ抜いてきた木を削って、長くて薄い板を10枚ほど創り出す。


 続いて枝を組み合わせたハンドル、そして木を輪切りにして丸く整形したものを6個。

 さらに長骨どうしを繋ぎ合わせ、関節つきの長い棒を2本創る。



【木の板】 素材レベル:2

 長さ2メートル、幅30センチ、厚さ5センチの木の板。



【ハンドル】 素材レベル:2

 木の枝を組み合わせたコの字型のハンドル。



【骨の関節】 素材レベル:3

 長い骨どうしを繋ぎ合わせ、関節状にしたもの。



【木の輪】 素材レベル:3

 木を輪切りにして新円に整えたもの。直径30センチ。



 そうこうしている間に、ピンキーとミヅルが戻ってきた。


 「こんなんでいい?」と大小さまざまな肋骨を身体にまとわせたピンキー。

 そして例によって、ミヅルはまたしても手ぶらだった。



「わあっ!? また何も採ってきてないだなんて! もう、ミヅルったら! 少しは真面目に作業しなさいよ!」



「ほう、小生がただ遊んでいたとお思いですか……?」



 自身たっぷりにクイとメガネを直しながら、ミヅルが広げた握り拳には……。

 緑色の小石が載っていた。



「あっ!? なにそれなにそれ、綺麗な石っ!」



「それは、『促進の石』じゃないか!? よく見つけたな!」



【促進の石】 素材レベル:1

 動植物の成長を促進させられる魔法石。



「石が呼ぶ声が聞こえたのですよ。思った通り、これは一流の素材のようですね。やはり一流のものどうし、惹きあう運命にあったのでしょうね」



 ミヅルの見つけた『促進の石』は欠片であり、素材としてのレベルも高くない。

 一流と呼ぶには程遠いものだったが、しかしロクな素材のない地獄では、とても輝いて見えた。


 そう。普通の食卓に並んだら、ちゃぶ台返しモノの『謎の肉』も……。

 カップラーメンの中に入ったら一転、人気者となるかのように……!


 それはさておき、その石は今のところは使い道はなかったので、ヘルロウはポケットにしまって作業を続ける。


 仲間たちにも手伝わせ、まるごと一本の木の中身をくりぬいた。

 石のナイフしかない状態でそれはかなり大変だったのだが、3人がかりでなんとか仕上げる。



【くりぬかれた木】 素材レベル:1

 枝を落とした丸太の胴体をくりぬいたもの。



 それを船の『本体』とし、ヘルロウは左右に3つずつ、『木の輪』を付けた。

 すると木は、車輪が付いた木となった。



【車輪つきの木】 素材レベル:1

 丸太の胴体に木の輪を付けたもの。



 続けて車輪の外側に『骨の関節』をくっつけ、連動して動くようにする。


 さらに関節のところに、『木の板』をくっつけて……。

 あとは、左右の骨の関節を、船首に付けたハンドルで動かせるようにする。


 ちなみにではるが、これらを作成した際、各パーツを繋ぎ合わせるのに大活躍したのは肋骨の先で創った『釘』だった。



【骨の釘】 素材レベル:1

 肋骨の先を削った釘。



 なんにしても、完成っ……!

 なんだかよくわからないモノが……!



【よくわからないモノ】 道具レベル:1

 くりぬかれた木に、いろいろごちゃごちゃと付いたもの。

 用途は不明。



 出来上がったモノについては、鬼たちが想像していたものとはかけ離れたものだったので、かなりの不評だった。



「わあっ!? これが船……!? って、こんなの船じゃないよ! 横から脚みたいなのが出てて、なんか虫みたい! キモい!」



「ほう……わかりましたよ。この巨大な虫をルアーとして川に放ち、三途魚たちが食いついている間に泳いで進むというわけですね」



「いや、違うよ。ちゃんと船として使うんだ。それじゃさっそく、進水式といくぞ! さぁ、乗った乗った!」



「乗るって、ヘルロウ君、まだ河原の上だよ? 船なんだったら、川の上に浮かべてからじゃないと……」



「ほう……まさかごっこ遊びをするために、これほどの手間をかけたというわけですか?」



「だから違うって、いいから乗ってみろよ、そしたらわかるから」



 ヘルロウはすでに船首でハンドルを握っており、待ちきれない様子でカモンカモンと手招きする。


 鬼たちは気乗りしないかったが、しょうがなく、くりぬかれた木でできた座席に座った。

 しかし彼らの、おままごとに付き合わされているような憂鬱は、すぐに吹き飛ばされる。


 ヘルロウが船首にあるハンドルを前後に動かすと、なんと……!



 ……ゴゴゴゴ……。


 車輪が回り出し、ゆっくりと川に向かって、進み始めたのだ……!



【アウトリガー・リアカヤック(1号機)】 道具レベル:3

 ハンドルを操作することにより、両脇の車輪と、オールを動かすことのできるカヤック。

 オールがアウトリガーの役割も兼任し、船体を安定させたまま、高速航行が可能。



 ヘルロウの船は、まだ陸上にいるというのに、地獄にあるすべての船を、過去のものにしてしまった……!

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