第5話
迫り来る恐怖の軍団に、少年少女たちはパニックになって逃げ惑った。
「キャァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?!?」
しかしそんな中でも、ヘルロウだけは慌てない。
ピラミッドによじ登り、高みの見物を決め込む。
――やっぱり……!
供養塔かそうじゃないかの
作っている者たちの、『意思』……!
何度も塔を壊され、うわべだけは諦めていたとしても……。
完成間近になると、天国に行けるんだという『希望』が生まれる……!
そんな儚い『希望』を嗅ぎつけ、握り潰すために、ヤツらはやって来るんだ……!
だから俺は、作業をせずに現場監督に徹した。
ピラミッドが最終的には供養塔になるというオチを知っている俺が作業に参加したら、鬼に察知されるかもしれないと思ったからだ。
そして生じた『希望』の大きさによって、出現する鬼の数は決まる……!
だからこそ、時間をかけてまで
俺の『クラフト』で……!
荒波のように押し寄せる、赤や青の人ならざる者たちが、ついにヘルロウのクラフトに……。
『ヘル・クラフト』と、ついに激突っ……!!
【ヘル・供養塔】 建物レベル:HELL
ヘル・クラフトによって創られた巨大な供養塔。その霊力は計り知れない。
……ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!
いつもであれば、爆音とともに吹き飛んでいたのは、塔のほうであった。
これほどの猛チャージを受けては、ひとたまりもない……!
逃げ延びた少年少女たちは思った。
もうもうとあがる砂塵の向こうには、蹂躙され、倒壊した石の残骸だけがあるのだろうと……。
そして、あれほど大口を叩いていた少年の、号泣が響いてくるのだろうと……。
誰もがそう思っていた。
しかし、暗雲を吹き飛ばすように鳴り渡ったのは、
「あっはっはっはっはっはっはっはっ!! あーーーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!」
高笑いっ……!?
「み……見ろっ……!」
戦場の外にいた、とある少年が示す方角を見ると、そこには……。
ピラミッドの中腹にふんぞり返るように腰掛け、王のように笑う、少年の姿が……!
王の眼下には、無数の鬼たちがひしめき合い、押す押すなの大騒ぎ……!
ピラミッドを破壊すべく、目を血走らせてパンチやキックの雨を降らせているが、びくともしない……!
「あっはっはっはっはっはっはっ! 無駄だ無駄だ無駄だっ! 天国でもゼウスの城の城壁を組んでいたこの俺、ヘルロウの知識! それに、みんなの汗水と、想いと希望が詰まった石……! この最高の組み合わせの『クラフト』の前には、お前らのような
とはいえ、鬼……!
人間にとっては恐怖の象徴のような存在である。
とはいえ、雑兵……!
ヘルロウにかかれば、ただの滑稽な道化でしかなかった。
周囲の子供たちは、まるで初めてのサーカスを観劇したかのように……。
瞬きをするのも、呼吸をするのも忘れ、その光景に見入っていた。
「す……すげぇ…………!」
「これだけの鬼たちに攻撃されても、ぜんぜん壊れないだなんて…………!」
「石だけで出来ているはずなのに、なんで!? なんでなの!?」
「そういえば、作業のときにヘルロウが言ってた! 『ロックバランシング』っていう技法を使えば、石どうしが強固に結びついて……まるで接着剤でくっついてるみたいに固定できるんだって!」
「私も聞いたわ! でもそれをするためには、ある程度の大きさがないとダメなんだそうよ!」
「じゃ、じゃあ、ヘルロウのヤツは、そこまで見越して……!?」
「すごい! すごすぎるよ、ヘルロウ君! なんであんな子が、この賽の河原にっ!?」
すっかり注目の的となった少年は、余裕たっぷりに指をパチンと鳴らす。
「よぉし、そろそろラストの花火といこうか」
彼が見上げる先には、キャップストーンを手に震えている少女が。
「へ、ヘルロウ君……もしかしてこの石を置くと、供養塔が完成しちゃうんですか?」
「そうだよ。お前は天国に行ってキラキラネームをもらうのが夢だったんだろう? その夢がもうすぐ叶うぞ、よかったな」
「まだ、夢みたいで信じられませんけど……でもその時は、ヘルロウ君もいっしょに天国に行くんですよね?」
「そりゃ無理だな。俺は供養塔を作ってないから天国には行けない。ここに残るさ」
「ええっ!? そ、そんな……! ここにいた子供たちは、みんないなくなっちゃうんですよ!?」
「そうだろうな。よいしょ……っと」
少年は、事もなげに答えながら立ち上がり、少女のそばまで登っていく。
間近で見た少女は、瞳が溺れんばかりに涙を溢れさせていた。
「そうだろうな、って……! こんな何にもないところで、ひとりぼっちになっちゃうなんて……!」
「何にもないことはないだろう。ここにはいろんな
少年は遠い目とともに、河原を見渡す。
「石に、川の水に、そして枯れ木……。これだけたくさんのものがあるから、俺は大丈夫だ。どうとでもやっていけるさ」
少女の頭にぽんと手を置く。
「現に、俺は河原の石だけで、奇跡を起こしてみせた……。違うか? さぁ、そろそろ時間だ。いくらこの供養塔が構造的には頑丈でも、攻撃され続けたら石自体が砕けちまうからな」
彼女の頭に置いた手をすべらせ、頬を撫でる。
そして指先で涙を拭ったあと、手と手を重ねた。
少女のキャップストーンは、導かれるように、あるべき場所へと向かっていく。
「ヘルロウ君……! ありがとう、本当にありがとうございます……! 私、ぜったいに天使になります! ぜったいに天使になって、ヘルロウ君を迎えに来ます! 今度は私に、ヘルロウ君を助けさせてくださいっ!」
「そうか……じゃあ、
「……はいっ!!」
……コトリ。
小鳥のさえずりのような音とともに、それが置かれた瞬間、
……シュバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーッ!!!!
太陽が生まれたような閃光が、ふたりを包んだ。
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