残念だけど……


《誰かなんか情報ある?》

《うちのサブマスが、お知らせのスクショ撮っててくれた》

《あ、マイちんさんだっけ?》

《ううん。エクエクさんのほう》

《じゃあ、こっちでも流そっか》

《お願い、エロい人》

《お願い、エモい人》


エクエクさんが会話に加わり、さっきギルドで流したのと同じ情報を合同チャットでも流しだした。

ふたたびお知らせをチェックすると、今度は『特別イベント開催』が見つかった。

すぐにタップすると、エクエクさんが流した情報と同じ内容が表示された。

聞いていた通り、四番目は空欄だ。

いま閲覧できるからといって、次も見られるとは限らない。

すぐにスクショで画面を記録する。

昔、ガラケーの無料ブログなどではページの端や空欄、文字の一部に反転機能で現れる隠し文字を使って仲間たちと隠し部屋を使って情報交換をしていた。

それを思い出して一行目からタップして指を横にスライドさせると水色の枠が横に伸びる。

そのまま一番下まで指を持っていって手を離すと選択肢が現れて『コピー』が表示された。

ページ全体を隅々まで指を動かしてみたが、隠し部屋に繋がる文字やスペースは存在しなかった。

そのままコピーできる範囲だけをコピーして、タブレットのメモ機能を新規で開いてペーストする。


「─── え? これって何?」


そこにはお知らせで表示されていたのは違う内容が追加されていた。


特別イベント開催

・集団召喚により転移した異世界に蔓延る闇を退治する

参加条件

・開催時にログインしていること

・参加に課金・無課金は問わない

・特別イベントに参加後はキャンセルできない

・多少でもゲーム知識があること

褒賞

・最後まで生き残った者には『勇者』の称号を与える

罰則

・失敗には死を

・死者に復活はない

特例

魔力測定にて魔力が感じられない、体調や持病などやむを得ない場合のみイベント参加は自由意志

(ただし参加後の不参加は認められない)



異世界に召喚?

それに参加したらキャンセルができない?

そして……って。

そうだよね、ゲームでは死んでも有料アイテムを使って『その場で復活』。

無課金でも数秒後に安全地帯セーフティゾーンからの復活ができる。

それでも現実世界ゲームじゃないから死ねば復活できないということ。


「あ、でも私は特例に該当してる……」


病気による不参加。

これは通院してて薬をのんでいる私にとって、巻き込まれた召喚から逃れる唯一の切り札になる。

今も病気療養中で無職。

そのため貯金を切り崩して生活している。

それが無課金の最大理由だ。


「ほかに何か情報が出たかな……」


今、私はメモ機能を使っているからログアウトになっている。

情報収集をするには危険でもログインをするしかない。

まさか、情報が出回る前に異世界に召喚なんてないだろう。

そう考えた私はタブレットでゲームを起動させた。



《お、戻ってきた》

《おかえり》

《残念だけど……》


「「「特別イベントに参加おめでとう!」」」


はあ……と大きく息を吐き出す。

私の反応に目の前に立つ三人から「あれ?」という声があがった。


「なになに~? 驚きで声が出ないとか?」

「でもさっきのはため息だよね?」

「────── 呆れているだけ」

「え? どゆこと」


目の前の三人に、手にしていたタブレットの画面を見せる。

再ログインにまた表示された【お知らせ】。


『あなたは病気を理由に参加を拒否することができます』


バックには妖精に囲まれた女の子キャラが両手に14個の魔法球を乗せていた。

一番下に3×3個、真ん中に2×2個、そして一番上に1個。

その画面をスクショしていたのだ。


「なっ! なんでこの画面が……!」

「妖精王……、何故……」

「この画面がでないようにしていたのに」


画面を私に戻し、最初のログインでスクショした画面を三人に見せた。


「さ、裁定者……」

「まさか、全部バレていたということなの……?」

「ウソだ……」


驚きからか青ざめている三人。


「なに言ってるのか分からないけど……。まず私は病気を理由に特別イベントには不参加」


私のこの言葉に、ポーンという高くて軽い音が鳴った。

同時にタブレットの画面が切り替わって『不参加を認めます』と表示された。

画面のバックは真っ黒で、白色の文字で表示されている。

─── 目が悪いから、この配慮がありがたい。


その画面をスクショして記録に残す。

そしてタブレットを反転させて三人に見えるようにした。

それを見た彼らは膝から崩れ落ちた。

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