第15話 復讐劇 終
「シェムハザさん、もう夜も更けてきましたので、この無駄な話し合いもそろそろ終わりにしませんか?」
「そうしたいのですが、どうしましょう」
あれから、かれこれ半時ほど、この死にかけの勇者の息の根をどちらが止めるかで口論していた。
その間にも、勇者はこの場から逃げようと動かなくなっていた身体を肘でほふく前進し逃げようとしたが、その度に腕の骨から足の骨を1本ずつ折っていた。
「まぁ、これだけ痛めつけて苦しませれたから正直もう満足なんで、シェムハザさんに譲りますよ」
そう言い、リョウは満足げに微笑む
「あら、最後はあっさりと引き下がってしまうんですね、やり取りが楽しかったのに······」
「まぁ、正直飽きました、それにそいつはもう死んでるのも同然」
「そうですか、なら遠慮なく任務を果たさせていただきます」
「あぁ、どうぞ、」
そう言いリョウとシェムハザは地面にへばりついている勇者を見ると、そこには生気を完全になくし、目はどこを見ているのか視点が合わず、口には閉まりがなく明けっぱなしの勇者がいる。
「みっともない姿になったなぁ、勇者······いや、陽太」
「···········あ」
勇者の本当の名前を口に出すと、少し反応するが、今ではどうでもいいことだ。
「じゃあそろそろやっちやいますね勇者さん」
そう言いシェムハザは腰に掛けてある細い剣を鞘から抜き、そのまま勇者のお腹へ剣を突き立てる。
「―――ぐぁぁぁっ――ハァハァ」
「さようなら、勇者様」
シェムハザが別れの言葉を吐き、細い剣を振り上げた瞬間、死んでるはずの声が聞こえた。
「まっ、まってくれ······」
「まだ、生きていたのか?」
「あらあら、何かしら?命乞いてもしてくれるのでしょうか?」
「助けてくれ、いや見逃してくれ」
あの勇者が命乞いをし始めるとは予想外だ。
たが、いくら命乞いをされてもこいつにはいきる価値もいかす価値もない。
「········」
「ですってよ?リョウ・クラーク様、まぁ、私は関係なく問答無用で首を取りますが」
シェムハザの容赦のない言葉に希望を失う勇者
「なっ!」
「では、次こそさようなら」
勇者の首もとへ剣先を突きつける、あとちょっと力を入れれば首の頸動脈が切れ大量の血が流れる。
その危機にどうにかして状況を打破しようと勇者はひたすら口を開き様々な事を語りかけてくる。
「ま、まってくれ、そうだ!リョウ助けてくれ」
勇者の口から、あまりにもあり得なくおぞましい言葉が発せられ、全身に寒気が走った。
「ありえない、なんで俺に······俺が、俺がお前を助けると思うか?本気で思ってるのか?」
「あぁ!もちろんだなんたって俺たちは親友じゃないか!ずっとずっと一緒に頑張ってきたじゃないか!最高の友よ!助けてくれ!」
「·················」
あぁ、腸が煮えくり返る、沸点などとうの昔に越えている、頭に血が昇ってくるのがわかる、血圧が上昇する、心臓の音がうるさい、全身から音がする、まるで血が、血液が沸騰してるかのように、頭のなかが真っ赤になる、何も考えれない、何を考えているのか自分でもわからなくなって――――。
「――――死ね―――――」
ボソッと深く暗く重い声が響く次の瞬間
「あ――――――」
突如、勇者が苦鳴する間も無く、胴体と頭が切り離され、勇者の首が転がる。
リョウが勇者の首を切り捨てた姿を見て、シェムハザが顔を火照らせながら――。
「あらあら、結局あなた様がやってしまうんですね、本当に素敵」
「――――あ」
シェムハザに言われて気づく、いつの間にか自分の手に細い剣を握っていたことに、そして勇者の首が転がっていることに。
「ちっ、最後の最後まで胸糞悪い奴だ、シェムハザ悪いな、結局俺がやってしまった」
勇者の息の根を止めるのをシェムハザに譲ったのにやってしまった罪悪感が募り胸がムカムカする、否、初めて人を殺めてしまったからかもしれない。
「いえいえ、全く気にしてませんよ、首だけ頂いて行きますね」
「えぇ、どうぞ、では俺はこれで」
「そうですね!あなた様とはきっとまた会うことがあるでしょう」
「えぇ?あぁ、また会えるといいですね!」
そう言い、一連の騒動が起きた場所を離れた
「はぁ、つかれたな······あれ?そういえばクロハが·····」
一息つき、辺りを見回しいつも隣にいるクロハがいないことに気づく。
そういえば勇者と対峙する前にクロハには森のなかで勇者から見つからないところに隠れてろと言ってずっとそのままなのを思い出し、全身の血の気が一気に下がり変な汗をかく。
「ヤバい!忘れてた!」
そう言い、全力疾走で元の場所へ戻る――。
「クロハ!クロハー!どこだー?クロハ!クロハー!どこにいるんだー!」
暗闇の森のなか、彼女の名前を大声で叫びながら走りながら探し回る。
走り、走り、走り、走り駆け回る。
リョウは異変に徐々に気付きはじめて、異変を呟く――。
「――おかしい――」
おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、おかしい、なぜ――。
「なぜ、どこにもいないんだ?なぜ返事がないんだ?隠れてろとクロハに言ってクロハと別れてからまだそんなに時間はたっていないはずなのに、魔獣避けになるアイテムも持たせたのに、なぜいないんだ?いったいどこへ」
一心不乱になりクロハが隠れてると思われるところの周辺を探し周り――
「もしかして先に宿に帰ってるってことはないよな?」
まさかな、と思いつつも本気でそれをしそうな所のあるクロハなので、最後にもう一回りしたら宿を見に行こうと考えた途端、踏みしめた足の裏に明らかに石や木の枝ではないものの感触が伝わる。
「ん?いまなにか――――」
変なものを踏んでしまった、と思いすぐに足をどけ足元を見るとそこには金属の輪っかが落ちており、それを手につかみ目に近づける―――。
「ん?·········なっ!········これは!」
地面に落ちてて踏んでしまい、手に拾った物はよく見ると、その金属の輪っかには見覚えがあった、それは、先日、商店街の武器屋でクロハに贈った金属質の薄紫色のブレスレットだった。
「どういうことだ?落としたのか?」
ブレスレットをよく見るが、血痕がついてるわけでもないし、なにか衝撃が与えられて取れた訳でもない、ましてや簡単にとれるような仕組みでもない、ただ落としたとは考えられない。
「なぜだ、何があるんだ」
ブレスレットをじーっと凝視していると、暗闇のなか月光に何かが光った。
「ん?なんだこれ、髪の毛?」
よく見ると、細い薄紫色の髪の毛が結びつけられていた。
「なんだ?これは、明らかに絡まって付いてる感じじゃない、人の手によってしっかり結ばれている」
しかも、これをやったのはクロハだ、きっと何らかの意味があって意味を伝えたくてやったに違いない。
「クロハ、いったい何があったんだ、いったい何を伝えようとしてるんだ?」
いくら何度見てもわからない、結び方なのか髪の毛の本数なのか、それとも髪の毛の長さなのか、実は偶然結ばれただけなのか、考えれば考えるほどアホらしい考えが浮かんでくる。
「だめだ、じっとしていてもわからん、もしかしたらこっちの世界の人ならわかるかもしれないな」
そう言い、足に力を込め地面蹴る
「急いでクロハを探さなきゃ、まずは村に言ってこのブレスレットの意味があるか聞かなくちゃ、一応宿にも顔をだすか」
村へギルドへ宿へ行くために森のなかを駆け抜け、勇者との争いがあった戦場を横断する。
「くそっ、やっと勇者を殺せたのに、次は一体なんだってんだよ、くそっ」
「クロハ、やっとお前の母の敵をやっと打てたのにどこにいったんだよ、どこにいるんだよ、クロハ」
少女の名前を呼びながら森のなかへと消えていく
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