第14話 復讐劇 続

 森のなかをある男の背中を全力で追いかけていた。

「くそっ、手負いの癖にどんだけ早く走るんだよ、全然追い付けねぇ」


 勇者は大切な剣も握れなくなり放り捨て、血を撒き散らしながら走ることだけに全力を注ぎ、目視できない暗闇の森の中を逃走していた。

 その速度は目を見張るもので、ぐんぐん加速していきどんどん距離を離されていく。


「ヤバいっ、そろそろ村が見える」


 もし、村に入られたら仕留めるのは不可能だ、それは作戦の失敗と同じだ。

 いくら勇者の方が悪人だと伝えても信じてくれるはずがない。

 むしろ勇者にそそのかされ村の人達、ギルドの冒険者達から袋叩きにされるのは明白だ。


「あぁ!くそっ!このままじゃっ!」


 どうしても勇者との距離か縮められない現状に作戦の失敗を悟り、苛立ちを口に溢すと――。


「―――――ドォンッ―――――!」


「っ?」


 前方で巨大な爆発から爆炎と爆煙が薄暗い空へと昇るのが見え、後から爆音が鼓膜を身体を心臓を大きく震わせる。


「なんだ?勇者か?」


 爆煙が立ち昇る元へと駆け寄ると、そこには地に這いつくばる勇者がいた。

 それを木々の上から這いつくばる様子を見下ろす人影があった。


 二人の人影を視界に捉え、急いで臨戦態勢をとる、今のこの状況は一目で異常事態だと認識できる。


「誰だお前は、勇者をやったのはお前か?」


 木の上に立つ異質な存在へ言葉を投げ掛ける。


「そんなに、警戒しなくても大丈夫、あんたの、リョウ・クラークさんの仲間だから」


 木々の影から出てきたのは漆黒のローブを羽織った女性だった。


「女?よくわからんが、知らん相手に勝手に仲間呼ばれされて名前を知られてるのは気持ち悪いな」


 女性が漆黒のローブから顔を除かせる、その顔立ちからは相当美人と思われるほどの美形、そして目はとても美しく黄金色に輝く瞳が自分を写している。


「あら、出逢いは最初が大事なのに、最初から嫌われてしまったみたいね」


「出逢いもなにもこの状況とお前は誰だ?」


 女は木から飛び降り『そうね、そうよねぇ』と呟きながら黄金色の長髪をなびかせながら、ねっとりとしたうっとりとした視線を纏わりつけてくる。


「私の名前はシェラーム・ハザ····シェラームギルドの長をやってます、長いので愛称で『シェムハザ』と呼んでね」


「シェムハザ·········」


 彼女の名前か外見か話し方なにかわからないがどこか何かが引っ掛かる、あとちょっとで出てきそうなのだが、出てこない、なのでこのモヤモヤを押さえつける。


「で、目的はなんだ?」


「私の目的は、そこにいる地面にへばりついてる死に損ないの首の回収です。」


「なっなんで?ギルドにとったら大事な戦力であり、勇者は国の兵器じゃないのか?」


 シェムハザが嘲笑し、地面に這いつくばっている勇者を足蹴にする――。

「ぐぅっ········」


「こんなのが国の兵器?こんなのがギルドの戦力?そしたらとんだポンコツですね、まぁ王国からの依頼なんだけどね、勇者の首を持ってこいってね」


「えっ!?」


「なっ·······」


 依頼を頼んだ黒幕がまさかの王国だそれを耳にした勇者はの目は完全に光を失っていた。


「·······」

 復讐の標的が何故か自分と同じく裏切られ切り捨てられた状況に陥っている、その姿を見て――。


「ざまぁねぇな、結局やったことはぜ~んぶ自分の身に帰ってくるんだよ、そろそろ死ぬか?」


「リョウ・クラーク様それは困りますね、勇者の首は私がもっていかなければなりません」


「息の根を止めたら首でもなんでも好きにしていいさ、殺すのはやらせてくれお願いだ」


 死にかけの勇者の前でどっちが自分を殺すのかを言い合いされている、これ以上の恐怖と残酷さがこの世にあるだろうか。



「······っくそ」

  勇者はそう呟き世界を悲観し目を閉じる。


――あぁ、くそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそ――

 なんでこんなことに、いつからだ、いつから道を間違えたんだ。

 この世界に来るときも最高の選択をし勇者の権能も奪い、王国に重宝され、人々には崇められ、頭を下げられてきた、そんな俺が、俺が、俺が―――



   俺が主人公のはずだった。



 「王様、私は強くなるために何をしたらいいですか?」


「あの団長さん強くなるためには何をすれば?」


「あの僧侶さん強くなるためには何をすれば?」


「あの料理長さん強くなるためには何をすれば?」


「冒険者何すれば強くなる?」


 慢心しないように己を鍛え高めようとした、恥を忍んでいろんな人に頼った、だがどいつもこいつも同じことを言う―――

「お主は勇者様じゃぞ?鍛える必要などないぞ」


 ――嘘をつくな 


「おいおい勇者様にそんなこと聞かれてもなぁ!鍛えなくたって最強じゃねえか!」


 ――全然、最強には程遠いじゃないか


「あなたは様はすでに神のご加護を最大に承けていらっしゃる、これ以上することなど」


 ――何が神だ、神なんて味方はしてくれない


「勇者様にそんなこと聞かれても、私どもはあなた様の身体BALANCeを考え最高の料理を作ること、勇者様は、ただ座っていてください」


 ――確かに最高の料理だったよ


「そ、そんな!私冒険者の憧れはあなたです!そんな高みにいる方にお教え出来ることなど」


 ――高み?こんな低いのにか?


 やれることはすべてやり能力を増やすために王国の資料を盗み、異世界召喚者を探し出して目撃者も全員殺して能力も手に入れた。


 冒険者ギルドではギルド長アンジアーノ・サマエル殿に『最初は、簡単で報酬がでかいこの依頼がいいじゃろう、勇者様なら小一時間で帰ってくるかもな』と薦められた依頼を受けた。

 だが、箱を開けてみたらなんだこれは、ただの罠ではないか。


 そして自分よりも確実に力の差があるはずの相手には手玉にとられ、恥を捨て逃走した挙げ句、王国に首をとるように頼まれた刺客に何も解らずやられる。


 一体なんだこれは?夢でも見ているのだろうか?

 夢ならば覚めてくれ、この悪夢を――



「おい!おきろよ!勇者」


「あらあら、傷が深すぎたのかしら」


 目を覚ますとそこには顔見知りと刺客がこちらを見下ろしていた。


 「あぁ、夢じゃ·······ないのか·······」

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