第13話 復讐劇
森の奥地で一般の冒険者と英雄となる勇者がお互いを睨み付け合い硬直状態になっていた。
お互いがどのように先手を打つか目線、体の方向、足の角度、腰に掛けている武器、あらゆることを想定し後手に回らないように予想する。
「 · · · · · · 」
「 · · · · · · 」
じりじりとゆっくりと勇者との距離が縮まっていく。
「 · · · · · · 」
「 · · · · · シッ!」
空気が張り詰め、息つく瞬間、リョウが勇者より先に行動に移す。
腰を落とし姿勢を低くし腰に掛けている双剣を両手で握り締め引き抜いた直後、勇者の憂鬱で不快な声が聞こえた――。
「はぁ、なんだそれは · · · · · · 」
「――――っ!」
突如手元から鼓膜へと『キィィィッッン!』と甲高い金属音が鳴り響いた。
「なっ!」
確かに勇者より先に抜いたはずなのに、双剣の剣先を勇者へ構えた瞬間に。
否
勇者へと剣先が構え終えるより前に手に構えていた双剣が見えない何かに甲高い音を響かせて頭上へ弾き飛ばされる。
何事かと勇者を見る。
勇者はいつの間にか鞘に納められていた美しく洗煉された銀色の刀身をさらけ出していた。
斬撃だ、剣先が届く間合いにはまだ踏み込んでいない、あの勇者の剣撃が空を切り裂き数メートル先にまで飛んできたのだ。
「くそっ!」
その事実で、たった1つの出来事でわかってしまう、わかってしまった力の差が、才能の差が。
勇者が嘲笑する――。
「おいおい、嘘だろ?まさか終わりじゃないだろ?」
「······」
「はっ!能無しが!今度はちゃんと俺の手で終わらせてやるよぉ」
勇者がそう言い捨て、剣を天に掲げ――。
「慢心は命取りって鉄板だよな」
「あぁ?」
リョウは足元に前もって仕掛けておいた罠を足で弾き作動させる。
すると、剣を天に掲げたままの勇者へ向かって、無数の刃物が命を刈り取りに飛び交う。
「なっ!これが狙いだったのか!だが、こんなもの!」
無数の刃物が勇者へ向かうが、勇者の一振で半数ぐらいの刃物が叩き落とされる。
そして、勇者がもう一振で無数の刃物を叩き落とし封殺しようとした瞬間―――――。
「伊達に勇者は名乗ってないな、たった2振りすればこの無作為に飛び交う刃物を無力化するなんて、だが、それをそのまま見過ごし邪魔しないかは別だ」
「あぁ?なに言ってやがるこのっ」
また別の仕掛けてあったトラップが作動する、1本の黒い刃物が地を這いながら勇者へ飛んでいく。
勇者は足元を刈ろうとしている刃物には気づかず、無数の飛んできた刃物を落とすため2振り目をする。
「これで全部落とし―――は?」
勇者の意識の外から、足首へ『ザクッ』と鈍い音を立てて黒い刃物が突き刺さる。
「―――ぐあぁぁぁ···あ····ハァ」
「こんだけ大量に罠を仕掛けて当たったのはたった1つ、足首の腱ぐらい切れてなくちゃ割に合わねぇな」
そう、リョウは何日も前に来て罠制作を頑張っていたのだ、だが、その行為が報われたのはたった一傷。
「あぁ、慢心なんてしてなかったさ、何かあるとは思ってた、それでも完全に圧倒できると思っていた」
勇者が戯れ言を吐く。
「それは慢心よりも酷く醜く大罪と畏怖される傲慢だ」
「いいや、それはちがうなぁ、事実を言ってるだけさ」
「片足を負傷した状態でも圧倒できると?」
「あぁ、何ら問題ないなぁ」
「······」
「リョウ、何故ならお前は俺を知らなすぎる」
「······」
その瞬間、勇者が剣を振り上げると同時に視界から消えた直後、背後から戸惑う声が囁かれる。
「なっ、何で······わかった······ごふっ、」
突然背後に現れた勇者は、リョウの黒いローブの背中から無数の刃物が勇者をめがけて飛んでいき、血飛沫を上げながら刃物が刺さっていく。
「ぐふぅー、うっ」
背後で無数の刃物が身体に刺さり、大量の血を流しながら、吐血し驚愕の瞳を揺らす勇者がいた。
リョウは、血まみれの勇者の姿を確認し、意気揚々と口を開く。
「俺だって、ただそこら辺に罠を仕掛けるぐらいでいずれ英雄になれる勇者を殺せるなんて思う訳がないだろ?」
「当たり····前だ·····俺ぁ、勇者をも超越する存在になるんだ」
確かに過去の勇者をも越え、この世界の頂点にすら立てる可能性を秘めるほど強力で強大な権能を持ってた、だが――。
「所詮は借り物、使うと知っていれば、お前が瞬間移動した時が俺の好機だと思っていた」
「そうだ、そもそもなぜ、知っている、俺が瞬間移動を奪っていることを、なぜ、しっているんだ!」
「さぁな、お前にそれを教えてやる義理はない、何故か考えながら苦しみ、悶え、死んでいけ」
――数時間前――
なぁ、クロハ聞きたいことがあるんだ、お母さんの権能はどんな力だったか詳しく教えてくれ。
勇者を殺すのにかなり重要な情報になる。
「母の権能ですか、実際に見たことはありませんが、母は瞬間移動と言う権能を使えると言ってました」
「なにっ?瞬間移動?それもう絶望的なんだけど、勇者に瞬間移動って」
勇者をどう殺すか考えてるところに瞬間移動が滑り込んできたことでリョウの考えていた作戦がほぼ水の泡だと苦悶してると――。
「いえ、瞬間移動って言っても、それなりに制限があるみたいです」
「たとえば?」
「母はどこにでも瞬間移動できる訳じゃなくて、目の届く範囲、見えてる所への瞬間移動しかできないって言ってました」
「なるほどな、目に見える範囲での瞬間移動 · · · · · · てことは攻撃に使わせる事ができれば」
「できれば?」
「必ず、懐への瞬間移動か、背後への瞬間移動で剣での両断を狙うのが得策、瞬間移動を持ってると知らない相手であれば背後への方が高いな」
「きまったの?」
「あぁ、勇者には剣山になってもらう」
「クロハはなにしたらいい?」
「クロハはどこか目につかないところで隠れていてくれ、クロハがいるといろいろ勘づかれる」
「わかったよ」
クロハも相当勇者を憎み恨み怨み殺したいと思っているはずなのに、隠れていることに文句も言わず顔色1つ変えない、そんな少女にリョウは――。
「ありがとうな」――――――――――――――
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――
2
「ぐふぅぅっ、なん、で、なんで!」
そこには、地面に四肢をつき勇者にはあるまじき醜態をさらしていた。
「瞬間移動がっ、できな · · · うぅぅ」
「当たり前だろ、知ってるんだから対策するだろう?瞬間移動なんてされたら逃げられるからな」
リョウの目の前には、瞬間移動をさせないために両目を潰され、目から血を流す勇者がうずくまっていた。
「まさか······瞬間移動の発動条件と制限まで理解してたとは」
「お前には惨たらしく死んでもらう、最初は手がいいかな?」
そう言い、勇者の右手にダガーをゆっくりと刃先から1ミリ2ミリと深く深く切り込んでいく。
「ぐあぁぁぁぁっ」
「お前は今までどう思ってきたんだ?なぜ瞬間移動の権能を奪うために殺した?子供がいるのをしってるだろ?」
「ぐっ · · · · · 」
「答える気は無いってことか?おい!答えろよ!勇者!いや、陽太ぁ!」
怒りに任せ、勇者の左手にダガーを刺す。
「ぐっ、······まだだ · · · · まだだぁ!」
右手にダガーを突き立てられたのと同時に勇者が吠える。
すると、勇者の身体が光輝き始める。
その異常に光輝く姿に目を見開き、まだ見知らぬ力が勇者にあるのだと悟り、後ろへ大きく下がる。
「何をしてる!おい!」
「リミットオーバー · · · · · 」
「なに?」
勇者がなにかをボソッと呟く、その間も、勇者の身体は光を増して光っている。
「·····」
「リミットォオーバァァァァァッ―――!!」
勇者がそう言い放ったとたん光が弾け散布する。
その瞬間、勇者が立ち上がり、足に全膂力をのせこの場から逃亡する。
「なっ!足を怪我させて瞬間移動も封じたのにまだ動けるのか?リミットオーバー·····一時的に痛覚を無視して動くとか限界を超えるだとかそんなところだろう、いかにも勇者、いや主人公らしいな」
「あぁ、煩わしい」
そう言い、勇者の逃亡する背中を追いかける。
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