第12話 復讐
二人のいる部屋は村のなかで勇者を見かけたことにより暗く重い空気が漂っていた。
真剣な顔つきで、淀み滞留していた空気の中、話を切り出す。
「ギルドにいくぞ······」
「ギルドに?」
「あぁ」
「うん?」
クロハが不思議そうに答えるが、何も聞いては来なかった。
そのクロハの気遣いに感謝する。
いまは自分の内側から込み上げてくる怒りと憎悪と高揚で言葉を交わす気にはならなかった。
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「アンシアーノギルドへようこそ!リョウ・クラーク様とその妹さんですね!今日は依頼の受注ですか?それとも依頼の発注ですか?」
ギルドの看板受付嬢が元気よく接客をこなす。
この明るさと生命力溢れる接客をされると、とてもじゃないが目を合わせて話せない。
「あ、いや、今日は依頼の受注じゃなく発注しに来ました」
「えぇ?そうなんですか?珍しいですね、全く無いとことでは無いですが、冒険者の方がご依頼を頼むことは滅多に無いんですが······お困りで?」
クロハと受付嬢が冒険者が依頼を出すのは滅多に無い事例だと驚いているが、全く無い事では無いのだとわかり話を切り出しやすくなる。
「えぇ······とても困っていまして、実はこの間失敗したデビルベアー5体討伐を依頼したくて」
「でも、あれは失敗と言うには余りにもしょうがない事があって······リョウ様ならデビルベアーぐらいであれば楽に討伐出来るのでは?」
そう、この間は変異魔獣タイラントベアーのせいでデビルベアー5体討伐の依頼を達成出来なかったのだ。
「まぁ、確かにデビルベアーなら······だけならどうにか倒せるでしょうけど」
「ど?それ以外になにか?······」
「冒険者として情けない話ですが、この間みたいに変異魔獣みたいな別格の魔獣が出てくるんじゃないのか、と思うと不安で不安で······なので調査を兼ねてのデビルベアー1体の討伐を依頼したいのですが」
押し黙る受付嬢
何を考え、何を思って要るのだろうか、やはり冒険者として情けないと思ってるのだろうか、それとも臆病者だろうか。
「······依頼には依頼料が必要です、これは依頼を達成した方にどれだけ報酬を与えれるかですね。正直これが多ければ多いほど依頼を受けてくれる確率が高くなります」
「てことはいいんですか!」
あぁ、そう言うことなら出し惜しみはしない――
「依頼料はデビルベアー討伐で金貨5枚で勇者に依頼を頼みたいです」
「「えっ」」
クロハと受付嬢の二人が声を重ねて驚く
「えっ?えっ?デビルベアーで金貨5枚?!それに指名ですか?!勇者に!?」
それはそうだ、驚くのも無理はない、普通デビルベアー5体討伐で金貨1枚には遠く及ばないのだ、なのに1体で金貨5枚、約50万だ。
「はい、勇者は今この村にすでに来てますよね?もうギルドにも顔ぐらいは出してるんじゃないんですか?」
「確かに勇者様は来てますが、勇者様は国から来てて、えっと······それで、えっと······」
言いたいことが多すぎて何から片付けたらいいのかわからなくなっている受付嬢。
そこへ透かさず答えを急がせる――。
「できますか?できるんですか?」
「いや、勇者となるとできるかどうか、ちょっと確認してみなくてはわかりませ―――」
突如話していた受付嬢の声が後方から低く貫禄のある声に遮られる。
「おやおや、なんじゃ?面白そうな話をしとるの」
「ギルド長様!」
「なっ!」
「なんじゃ?ギルドにわしがいるのは普通じゃぞ?これでもギルド長だからの」
「ギルド長様、リョウ・クラーク様からご依頼の発注をお伺いしまして、その内容が········」
ギルド長へ依頼の内容を恐る恐る説明しだす。
リョウとクロハがその様子を黙って見ている。
「と言うご依頼内容で、どう致しましょう?」
受付嬢が説明をし終わりギルドの責任者である長に対応をどうするか伺う。
ギルド長が『ほう』と笑みを見せ、こちらに、リョウへとねっとりとした絡みつくような視線を向ける。
「······」
怪訝な表情を浮かべるギルド長を見て、これは無理そうかと唾を飲み込む。
「なんじゃ?なんか面白そうなこと企んどるのぉ?」
ギルド長から予想外の言葉が発せられる。
「い、いえ······何も企んでなんかいませんよ、ただ、頼むならいずれ英雄になると名高い勇者様に頼みたくて」
いずれ英雄になる?自分で言ってて反吐が出る、英雄になんてさせない。
「······ふむ」
「まぁいいじゃろう、このアンシアーノがギルド長としてこの依頼を許可しよう」
「え!いいんですか?勇者様ですよ?」
受付嬢がギルド長の決定に驚く。
「いいんじゃよ、ギルドの掲示板に貼りはするが、依頼を受諾するかは本人次第じゃ」
「は、はぁ、そう言うことなら」
深々とため息をして、やれやれと押し下がる。
「ギルド長こそ何を企んでいるのか存じませんが、ありがとうございます」
「いいんじゃ、いいんじゃ、タイラントベアーをお主が倒してくれたおかげで犠牲者がでなかった借りもあるからのぉ」
そう言いギルド長は顎から長く揺れている髭を触りながらギルドの奥の扉へ消えていく。
「では、依頼の報酬の金貨5枚をギルドへ先払いをお願い致します」
「先払いですか、じゃあはい」
そう言い、懐から金貨5枚を受付嬢に渡す。
「ちなみに、この依頼が達成されずにリョウ・クラーク様がご依頼を取り下げた場合は先払いされた金貨をお返しします」
「そうですか、ありがとうございます」
依頼の手続きが終わり『では』と言いクロハの手を引き席を立ちギルドを出る。
「ねぇ、どういうことなの?」
理由も聞かされないで手続きを黙って見ていたクロハがそろそろ教えてくれてもと質疑してくる。
「勇者を誘い出す」
「······まさか」
「そのためにはまず下準備だ、森へ行くぞ」
「そうなんだね······わかった······わかったよ」
美少女は何かを悟ったように同じ言葉を繰り返し呟いている。
見方によっては気持ちが昂っているように見え。
「そりゃあ昂るよな」
そう言い、リョウとクロハは森のほうへと一歩二歩と歩いていく―――――――――
2
森の奥タイラントベアーの暴れた痕跡のある、木々の開けた所に二人の人影があった。
「やっと来たかよ」
「―――っ?!」
「待ちくたびれたよ勇者様」
「俺を勇者と知ってて呼び出すとは、お前バカなのか?」
「奪ったに過ぎない勇者の権能だろうがっ!」
「何故それをっ!」
「おいおい、まさか忘れたわけじゃないだろ?俺は一瞬足りとも忘れたことはないぞ······なぁ陽太」
「俺の名前······まさか······」
「憎くて、憎くて、殺したくて、死んでほしくて、惨たらしく殺したくてしょうがなかったよ」
口から憎悪を吐きながら、黒いローブをめくる。
ローブの下の顔が見え、勇者は死人でも見てしまったような驚きの表情を浮かべ――
「リョウ······お前生きてたのか」
「人の事話してていいのか?随分余裕だな」
「ただのポンコツに俺は誘きだされたってことだろ?何の問題もないなぁ」
やっぱりこいつは人のことを見下してしかいない、俺より劣っているのが当たり前だと思っている。
「やっぱり、お前は惨たらしく苦しみながら死ね」
「能無しには無理だ、力がなきゃぁ、なにも変えれない、なにも変わらない、なにも望めない、それが常識だ」
「クズが」
そう言い捨て、ここに二人の殺しあいが幕を開けた―――――――――――――
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