第11話 準備
「おお、ここが異世界の商店街か凄いな」
「都心に比べればかなり小さいよ」
「都心かぁ」
リョウとクロハは朝一でアンシアーノ村の商店街に足を運びに来ていた。
「ん~······」
どこから店を回ろうかと考えながら、自分とクロハの姿を見る。
その服装は、昨日宿で服がボロボロすぎる姿に見かねた宿屋のお姉さんが白いシャツと黒い長ズボンを無償で譲ってくださったものだ。
だが、その服装は外を出歩くにはあまりにお粗末な格好だった。
「これじゃあ締まらないよな······よし!まずは服を買いに行くか」
クロハもこのあまりに薄くて透けそうな白いシャツをヒラヒラさせ――
「賛成だよ」
そう言い、二人は近くの服屋さんののれんを手で払いくぐるすると甲高い声が響いた――。
「あ!いらっしゃいくださいませ~」
元気がよくスタイルのいい女性店員が出迎えるが、聞き慣れない挨拶に「「ん?」」と固まる二人
それを気にも止めず、すかさず接客営業を畳み掛けてくる。
「あ~!お客様!お二人ともイケメンで美少女ですね!今日は服を選びに?」
「「は、はい······」」
「あぁ!やっぱりそうですよね!お二人とも美形ですから!そんな素朴な服装じゃ際立ちませんよね!」
「「······」」
「この服なんてどうでしょう!こちらの服なんて、そちらの美少女さんにとっても似合うと思いますよ!あー!そちらのイケメンなお兄さんはこんな服がお似合いになりそうですね!」
「「······」」
完全に相手のペースにのせられた。
お姉さんの圧巻の接客に開いた口が塞がらず、されるがままに服を何度も何度も試着させられていく。
「あー!これも似合いますね!これもこれもこれもこれも、全部お似合いですよ!」
「ちょ、ちょっと待って、着せ替え人形じゃないんだから!ちゃんと買うからちょっと落ち着いてください!」
「いえいえ!落ち着いてますよ!だから!この服はどうでしょう!」
リョウの話に全く聞く耳を持たずに接客を果敢に続けようとすると低く重々しい声が耳打つ。
「ねぇ······人の話聞こ?」
クロハの重く低い声に店内の空気が張り詰める。
クロハもこの数分で何度も服を試着させられ、怒りが浸透していた。
地雷を踏んでしまった服屋のお姉さんは顔を真っ青にして汗を額に浮かべながら――
「ご、ごめんなさい、裏にいるんで何かあったら呼んでください!すいませんでしたっ!」
いくら人の話を全く聞かないお姉さんでも、クロハの一言はだいぶ効いたのだろう、慌てて謝りながらレジ裏へ逃げていった。
「ありがとうクロハ、これでやっとゆっくり選べる」
「ううん、私もムカッとしてたから」
「まぁ、そうだよね」
「うん」
何故か微妙な空気になり、リョウとクロハは別々に別れ黙々と服選びをし始める―――――――。
そして服を選び始めてから小一時間ぐらいがすぎたところで、リョウとクロハは服を選び終わり、レジを通し店から出るところだった。
「お買い上げありがとうございました!そしてまた明日にでもご来店お待ちしてます!なぜなら服とは毎日違う服を着て毎日違うお洒落をしたくなるからです!」
「「······」」
まったく最後の最後まで騒々しい店員だ。
服を買っただけなのに凄いどっと疲れた気がする精神的に。
「それにしても結局暗めのに落ち着くよな」
「まぁ、一応目立たない方がいいですから」
二人の格好は暗めの服に黒いフード付きのローブを被ると言う、ファッションもなにもない格好をしていた。
「こんなお洒落もない服装でも、クロハはかわいいなぁ」
「そうですか?」
「うん、かわいい」
クロハは『ふーん』とすましたように流すが、尻尾がブンブン揺れていて、クロハの冷静さが台無しだ。
「じゃあ服装も整ったし次は装備品を買いに行くか!」
「うん」
今日はどっちかと言うと服よりこっちが本命だ。
回りを見渡し、近くの武器屋へ入る――。
「いらっせ~アンシアーノ武器屋店へよーこそ~」
武器屋に入るとアロハシャツみたいな服を着た男の人が歓迎してくれるが、先程の嫌な経験を思いだし深々とため息を吐く――。
「ここら辺の店員はおかしい人が多いのかな?」
「多分ここだけだよ」
「絶対に絡まれたらめんどくさそうな店員だぞあれ、さっさと決めて買おう」
「うん」
「クロハはなんか欲しいのある?例えばちょっと自衛に使えそうな武器とか?」
「ちょっとかじった程度だけど、短剣なら使えそう」
「おお!じゃあクロハには短剣だな、あと俺は · · · · · · その双剣にしようかな」
そう言い飾ってあった双剣を両手に握り、ゲームで見たことのあるカッコいいポーズをとり――。
「どう?」
「いいと思う」
「······じゃあこれにする」
クロハの冷静な切り返しで我に返りポーズをそっと戻し冷静に買い物を決める。
「じゃああと必要なものぱぱっと買うか」
店内を一通り目を通し必要な品だけ買っていく。
「こんなもんだな、いくぞ」
「あ、うん·····」
二人は店を出る。
「ありがとうござした~」
外へ出てクロハの方をじっと見て――。
「な、なに?」
「うん!クロハの綺麗な手ならこれが似合うと思ったんだよね」
「え」
細く綺麗な手首には薄紫色の鉄製のブレスレットが着いていた。
何事かと困惑するクロハ
「似合ってるよ」
「くれるの?」
「あぁ、大事にしろよ?」
「ありがとう!ずっとずっと大切にする!」
ふわふわの尻尾と垂れ耳が揺れ、喜びを表していた。
「そんな喜ぶなよ、適当に取ったやつだから······照れるな」
「それでも嬉しい!」
気まぐれで手に取ったブレスレットがここまで喜ばれると変な勘違いを起こしてしまいそうだ。
実際に胸の奥が締め付けられる感覚がした。
2
「いや~面白いな、見たことないものばっかりで目が疲れてきちゃったよ」
「クロハも······モグモグ······そろそろ······モグモグ······お腹が······モグモグ······限界」
クロハは片っ端から出店の食べ物をモグモグと口いっぱいに頬張りながらモグモグしてる。
と言うかちょっと食べ過ぎじゃないかと思い――
「昨日の宿でも思ったけど小さいのに凄い食べるよな」
クロハはリョウの失礼な指摘に頬を「むっ」と袋ませて――
「女の子に食べ過ぎって言うのは失礼」
「いやぁ、そうだけど逆に言わない方が失礼なんじゃないかと思うぐらい食べるから」
「成長期なの」
「そうかそうか、ごめんな、いっぱい食べていいぞ?」
「まぁ気にしてないけど」
「そうか」
そんな雑談をしながらリョウとクロハは村の商店街を気の赴くままに見たり食べたりしながら周っていると――
クロハが突然歩みを止め固まる。
「クロハ?」
「······」
「どうした?食べ物に毒でも?」
「毒は大丈夫だけど······」
いや、毒は大丈夫じゃないだろとツッコミを入れようとするが、クロハの表情がただ事ではないと。
「あいつがいる」
「え?」
「勇者が······お母さんを殺した勇者がいる」
「なっ!あのクズが?」
そんなバカなと周りを見渡すが人が多すぎて勇者らしき人を見つけれない。
「クロハ!どこにいるんだ?」
クロハがゆっくりと指を指す。
その方向を見ると、そこには明らかに常軌を逸したはずの存在が、勇者と言う名の英雄が凡人達の中に紛れている。
「あぁ、あれは勇者だ見間違える訳がない、あの憎たらしい顔を忘れる訳がない」
「······」
「そうか、今この村に来てるのか」
「でも、確かに異世界から着た人たちは、世界を知るためにもギルドに入るけど余りに早すぎるよ」
「そうなの?」
「大抵は王国の城で一月は権能や恩恵の使い方などを教えられるはずなのに······」
あのクロハが凄い動揺を見せている。
「なのに?」
「つまり勇者は王国の力さえも不要って程に強いってことかも、お母さんに勝つぐらいだし······」
「·····」
「大丈夫だクロハ、こっちには気づいてない、気づかれる前にここを去ろう」
「うん」
そう言い、クロハの空いている手を握りしめ引っ張り走り出す。
「ま、まってどこに」
「ん?あぁ、とりあえず目の届かないところに」
「う、うん」
リョウとクロハは勇者からどんどん離れ続ける。
走りながらリョウはとても歪な笑みを浮かべ――
「あぁ!そうか!そうか!そうかぁ!この村に来てるのかあいつが!」
あぁ、うるさい胸の高鳴りが血の脈打つ音が鼓膜まで響いてとても、とてもうるさい―――。
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