第10話 3日目

――「うわーなにこれ」「初めて見た」「あれアイツが倒したのか?」「えっ変異魔獣?」「アイツ何色なんだ?」「いや、たしか新米だぞ」「もしかして隣の美少女が強いのか?」「確かに男の方はパットしないな」「確かにモサッとしてるな」――


 あれからロドリゲスさんの力添えで魔獣をギルドへ運び込みに来ていたところに珍しい魔獣を見に野次馬が集まってきていた。


「全く失礼な奴らだ、な?クロハ?」

 強い奴はみんなイケメンだとでも思っているのだろうか。


「全くです。見た目だけしかみてない」


「え?見た目は否定してくれないの?」


「······」


「まぁいいけど、黙るなよ······」


 クロハに否定してほしかった所を否定してくれなかったことがとても悲しいが黙られると更に辛い。

 きっとツンデレ何だろう、しょうがないとなんだかんだ妄想しているとそこへ低く重い声が響く。


「すいません、お待たせいたしましたな」


 ギルドの扉からお偉いさんのような貫禄を秘めた老人がゆっくりと出てくる。


「私は、アンジアーノギルドの所長アンジアーノ・サマリエルでございます。よろしくリョウ・クラークくん」


「俺の名前を······」


 もうすでにこの魔獣を討伐した功績が偉い人にまで知られるほどの名声が響き渡っているかと思ったがすぐに幻想がぶち壊される。


「いや、今さっき教えられてね、隣の美少女は妹らしいね」


「あっはい、そうです」

 流れるように嘘を吐く。

 クロハはまたかと言うような表情をしながら『妹です』と応えた。

 なんだかんだ付き合ってくれるのがなんとも愛くるしいと、頭をなでなですると尻尾をフリフリさせる美少女がいる。


「ふむふむ、なかむつまじいのう、ところでその魔獣は君が倒したのか?」


「えぇ、まぁ一応」


「まだ登録して初日なのに、元々何かしてたのかな?それともなにか習い事でも?それとも恩恵の力かな?」


 なんか嫌な聞き方だなぁ、探りを入れられてるみたいだ。

「·····いえ、たまたま運がよかっただけですよ」


「それにしては魔獣の急所という急所に正確に打撃が打ち込まれているな」


「っ!」

 そんなこともわかるのかと驚く。

 確かに俺は前の世界で怪我をしてから医術のことをそれなりに学んでいた。頭部と手足が付いている生物はだいたい急所は同じなもんだ。


「ほんとたまたまですよ、恩恵の力があっての勝利でした······あと不毛な探りを入れるのはよしてください」

 リョウは真剣な顔つきで応える。


「おっとすまないね、これは癪に触ってしまったかな?」

 

「いえ、そんなことは」


 まぁまぁ癇癪を起こしそうではあるが隣の美少女に恥をかかせないために押さえる。


「そうそう暗い話をしに来た訳じゃないんじゃよ」


「?」


「このデビルベアーの変異魔獣と思われる魔獣の討伐の報酬をギルド長のわしから直々に与えようと思い来たのじゃ」


 何か素性を疑われているのかと思ったが違うようだ――。


「やっとか、死ぬ思いをして倒したんだ、これで何も貰えなかったら頭がおかしくなってるとこだった」


 ギルド長が『ハハッ』と嘲笑し言葉を続ける。


「よく言うものだな、すでに外れてように」



「ん?」

 老人の言い回しは良くわからないと首をかしげる。


「また話がずれてしまったが、今回の変異魔獣タイラントベアの討伐報酬は金貨10枚と冒険者ランクを青に昇格する」


 ちなみに、この世界で言う金貨1枚は日本円で約10万円相当の価値になるらしい

 

 「と言うことは、報酬は約100万と冒険者ランクを3ランク昇格か、まぁもう少し欲しいが悪い報酬ではないな」


「お気に召して何よりじゃよ、これからの活躍も期待しておるよ」


「はぁ······ところで魔獣の名前ってあったのか?」


「今さっきわしが決めたのじゃよ、いい名前じゃろ?タイラントベアー」


「まぁ確かに様になってますね」


 するとギルド長が『持ってこい』と言うと女の人が両手に袋とペンダントを持って来る――

「今回のタイラントベアーの討伐報酬です」

 そう言い差し出してくる。


「ありがとうございます」

 お礼を言い、ずっしりと金の重みのある小袋と意味不明なマークの青色に輝くペンダントを受け取り深々とリョウとクロハは腰を折り――


「「ありがとうございます」」


 顔をあげ晴れやかな表情で――


「よし!じゃあいくか」


「うん!」


 そう言いギルドに背を向けて歩き出す


――――――――――――――――――――


 ギルドを離れ、リョウとクロハは寝食をするために宿に来ていた。


 「はい!お待ち!ファットピッグの煮付けと生野菜の盛り付けとプリンスブルのミディアムレアです」


 宿屋のお姉さんが美味しそうな料理を次々とテーブルの上に並べていく。


「「おぉ~」」


 と二人の前に並ぶ料理にごくりとよだれを飲み込む。


「2日ぶりのちゃんとした料理だ」


「もう待てない、食べていい?」


 クロハが『もう待てない』と言いながら尻尾をブンブン振っている。


「もう俺も待てない!いただきます!」


「いただきます!」


 無言でガツガツ料理を食べていく二人を見て宿のお姉さんが『いい食べっぷりだね!』と言いもう一品サービスで出してくれる。


「「ありがとうございます!」」


 そう言い二人は黙々と料理を口へ運んでいく


「「モグモグ·····モグモグ······モグモグ·····」」


「「ふぅ~」」 


 リョウとクロハが一息置くと、いつの間にかテーブルの上にあった料理の数々が平らげられていた。


「「ごちそうさまでした!」」


 リョウとクロハはお礼を言い席を後にする。


「あ~疲れた~」


「ん~」


 部屋に戻ってきた二人は疲れをこぼしながらベッドへ腰を降ろし、ここまで辿った道のりをふと思い出す――。


「ここに来てまだ3日目か······」


 この異世界に来てまだ3日しかたっていないのに、壮絶な事がありすぎて心身共に疲労が溜まりに溜まっている。


「······大丈夫だよ、それに明日は朝早くから出掛けるんでしょ?」


 そうだ報酬でお金が入ったため、明日はクロハと装備品を買いに行こうと話してたのだった。

 それにしても本当に良くできた美少女だ、その美少女に甘える


「ありがとう、じゃあ寝よっか」


「うん」


「「おやすみ」」と交わし二人は当たり前のようにシングルベッドに入る。


「······」


「······」


「ちょっと」


「ん?」

 クロハが何故かジト目でじっとり見てくる。


「確かに最初くっついて寝たけど最初だけだから」


「あ、うん、ごめんね、じゃあ俺は床で寝るよ」


 と言い下に降りようとすると呼び止められる


「バカ···そんな遠くなくていいよ」


「え?」


「床じゃ明日に支障きたすでしょ」


「じゃあ隣の部屋のベッドまでいけと?」


 さすがにそれは寂しいので違うと願いたい。


「······隣で寝ていいけど反対向いてよね」


「······」

 ヤバい、愛くるしすぎて思わず固まり、開いた口がふさがらなくよだれが垂れてしまいそうだ。


「ちょっと?なに?」


「いや、本当にお前はかわいいなぁ!」


 そう言いクロハのけもみみを無作為に撫でる。


「うぅ~耳やめてぇ~」

 

 悪い悪いと撫でるのを止め――


「明日早いからもう寝るよ!」


 クロハは寝たくてしょうがないらしい。

 

「じゃあ寝るか、二回目のおやすみ」


「「おやすみ」」


 二人は、本日二度目の眠りの挨拶をし布団に入るとすぐさま寝静まり、夜が深まり、暗くなり、堕ちていく夢の中へと――――――――――――

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