第9話 決着

 森のなか暗く黒い漆黒の巨腕が木々を一振で薙ぎはらい轟音が響き渡っていた。


「······まじか」


 魔獣の巨腕によって薙ぎ払われた木々を見る。

 あまりの破壊力に木々達は薙ぎ倒され、抉られ、爪痕を残されている。

 その圧倒的力に口を開き唖然としていると、そこへ魔獣がもう片方の巨腕を大きく振りかぶる。


「ヤバイッ――!」 


 魔獣に横殴りにされ全身に強烈な衝撃が走る。

 受け身もとれずに地面を一回二回三回転がり意識が吹っ飛び白目を向き気絶する。

 吹っ飛び転がり気絶してる間にも再生の恩恵が身体を脳を修復させていく。



 巨躯な魔獣は獲物に自分の命を刈り取る一振が直撃したのを手に感じとる。

 獲物を仕留めたと確信し、魔獣はゆっくりと足音を立ててよだれを滴しながら獲物へ近寄る。


 そして『ガァッ』と大きく口を開け獲物を捕食しようとよだれを滴しながら横たわっている身体へ獰猛な牙が迫りくる――。


「ッ!あっぶねぇ」


 魔獣の獰猛な牙が身体へ差し掛かる瞬間、恩恵の力で身体の修復がギリギリで間に合い、魔獣の食卓から急いで身を翻し獰猛な牙をよける。


「ガッ?」


 食べるはずだった獲物の噛み応えがなく魔獣は口内を何度か確かめていると、視界の端に先程仕留めたはずの獲物が走り回っているのを捉える。


「悪いなっ!あれぐらいじゃまだ死ねないみたいだ!」


 そう言い魔獣の膝関節に向けて拳を一発二発三発打ち込んでいく――


「ガァァァ!」


 魔獣はそんな微力な打撃に構いもせず魔獣の巨腕が再度リョウの側面から衝撃を与える。

 その衝撃であばら骨が折れ肺が潰れ『ゴボッ』と血反吐を吐きながら転がる。

 だが即座に立つ、立たなければならない、でないと食べられ消化されてしまう。


「ハァ···ハァ···かなり痛いがさっきよりマシだ」


 そしてすぐさま速攻を仕掛ける、魔獣の膝関節へ拳を何度も叩き込み、また吹っ飛ばされては立ち上がり拳を叩き込み吹っ飛ばされては立ち上がる、を繰り返していた。

 時には爪で引き裂かれ、時には腕を食べられ足を食べられ、時には胴に穴を空けられるが、いずれもも立ち上がり拳を叩き込む。


「くらえやあぁぁ!」


「ガァァッ!」


――――巨躯な魔獣は思っていた、あの日からいつもどんなやつ生き物も一撃で獲物を仕留めてきた。

 なのに、何故この矮小な生物は倒しても倒しても立ち上がってくる。

 倒れる度に、否、立ち上がる度にんどん頑丈になり、より速く重い打撃を打ち込んでくる。

 何故だ、なぜ仕留め切れないのだ、圧倒的力の差があったはず、明らかに矮小と呼んでいい獲物だったはずなのに今では―――――――



「らあぁぁっ」


 リョウは吠えながら拳を何度も叩き込む。


 そして魔獣は叩き込まれる打撃に動じず巨腕を振りかぶるが、それを察知し『何度も食らうかよっ』と言い横に転がり破壊を避け、拳を叩き込むと、そこへ少女の声が聞こえた。


「こ、こっちです!はやく!」


 その声に巨躯な魔獣が反応し少女を先に狩ろうと身体を向ける。


「っ!させねぇ!」


「―――ッガアァ―――」


 それに気付き魔獣の膝へ渾身の蹴りを入れる。

 巨躯な魔獣が苦鳴を上げながら膝が折れ地面へ四肢をつく、そこへ間髪入れずに巨躯な魔獣の顔面に乱打を叩き込む、一発一発がより速くより重くより強い打撃を。


「おいおい、嬢ちゃん仲間がピンチだって言うからギルドでも力が上の方の俺が駆けつけて来てやったのにどういうことだ?」


「え、いや······」


 半時ほど前にクロハがギルドへ応援を呼びに行って、それに応え駆けつけて来たと思われるベテランそうな男と美少女のクロハが呆然と見ていた。


「この魔獣見たことは無いが、確実に青ランク以上の変異魔獣だ、これは俺でも倒せるかどうか······」


「青ランク······リョウより3ランクは上の魔獣······リョウ······凄い」


「ウッウゥゥ――」


 二人が唖然と見ているとそこへ突如魔獣の苦鳴にならない声が鼓膜を打つ。


「そろそろ終わらせるっ」


 そう言い、殴られ過ぎて意識があるのかもわからないほど朦朧としている魔獣へ、拳を固め渾身の一撃を魔獣の下顎へ打ち込む。


「ッ······」


 魔獣が声もあげずものすごい音を上げ土を巻き上げながら轟沈する。


「おいおい、これは大変なことになるな」


 ベテランみたいな冒険者が神妙な顔つきで呟く。


「リョー大丈夫なの?身体怪我は?おかしいところはない?」


 あわてふためいた顔でクロハが近寄り、身体をペタペタ、ペタペタして身体が傷ついていないか四肢はちゃんとついているか入念に調べてくる。


「大丈夫だって、手足も何度かもげたけど恩恵で治るから、大丈夫」


 ペタペタしすぎるクロハに大丈夫だと言う。


「だってだって、本当に心配で心配で」


「ごめんな辛いことさせて、でも助けを呼んでくれて本当に助かったよ」


「うぅ、違うよ違うんだよ、もし···戻ってきてリョウがいなくなってたらって考えると、今でも手から足から身体が震えてくるんだよ」


「あぁ、悪かったごめんな」


「·····」


「これっきりだ!こんな思いさせるのはこれが最後だ」


 そう言いクロハに手を突き出し小指を立てて『約束』と言う。

 クロハはつき出された小指をじっと見つめながら

『破ったら一生許さないから』と言い細い小指を小指に結び力強く結ぶ。


「あぁ」


 クロハの言葉に深く頷き、けもみみのついている頭をそっと『よしよし』となでなでしてると、そこへ太い声が割ってはいる。


「邪魔して悪いが、俺もそんなに暇じゃないんで割って入らせてもらうぜ、俺はロドリゲス・オルソンだ、そこの嬢ちゃんがギルドで助けてって騒いでたから来てやったんだ」


「いえ、ロドリゲスさんこちらこそすいませんでした、まさか討伐してしまうと思わなくて」


「あぁ、俺も最後の方しか見ていないが凄まじい戦いっぷりだった、それにしてもこの当たり一面真っ赤なのは血か?」


 ロドリゲスが辺りを見回し怪訝な顔つきで疑問を問いかける。


「······魔獣の血じゃないでしょうか?自分も今気付きました」


 このおじさんには悪いが信用できないし後々障害になるかもしれない、だから恩恵は知られない方がいいだろうと思いとぼける。

 とっさに嘘をついたのでクロハへ合わせてくれと視線を送ろうと隣を見ると少女は悲壮な顔をして、押し黙っているが言わなくても大丈夫そうだ。


「魔獣の血か、まさに地獄絵図のような光景だな、ところでこの魔獣どうするんだ?」


「そうですね、もしよろしければこの魔獣をギルドまで運ぶの手伝っていただけないでしょうか?」


「でた詐欺師」


 押し黙っていたクロハから『詐欺師』と呟やかれる。

 正直自分でも俺らしくない話し方で気持ち悪いなと思う。


「ふむ、確かにこの大きさでは兄ちゃんと嬢ちゃんじゃむりだな」


「どうでしょう、もちろんそれなりのお礼をさせて頂きます」


「おいおい見くびってもらっちゃぁ困るな、助けてって言われて了承してきたんだその時報酬の話はしてないんだ!見返りなんていらん!そして助けてやる」


 この男、ロドリゲス・オルソンはなんて漢らしいんだろう、生まれてきて初めて人をみて『漢』を連想してしまった。


「「よろしくお願いします」」


 そう言いクロハとリョウは深々と腰を折り礼をする。


「よし!ギルドまで運ぶか!」


「「はい!」」―――――――――――――

――――――――――――――――

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