第8話 初クエスト

「これで三匹目だっ!」


 初任務を受けてから依頼目的である三匹目のデビルベアーにトドメの一撃を食らわせ、クロハに向かってすまし顔をする。


「あと二匹だよ」

 

 冷静に残りの数を報告する美少女がいる。

 ちなみにデビルベアーと接戦を繰り広げてる最中クロハはずっと体育座りで観戦をしていた。


「ねぇ、クロハもう少し褒めてくれてもいいよ?、もうちょっとくらい声援を送ってくれていいんだよ?」


「うん、まぁ、とりあえずあと二匹だよ」


「お、おう」


 それにしても冷たいな、かれこれ戦いながらもう手足の二本や三本すでに千切られているのに、クロハのあまりの塩対応に落ち込む。

 そして落ち込んでいるところへ――


「次来るよ?」


「オオオオォォォーーーーッ!」


「なっ!もうかよ」


 森の奥から魔獣がこちらに雄叫びをあげながら突貫してくるが、とっさに手に拾った砂利を魔獣にめがけて投げつける。


「ガァァァッ」


 目に砂が入り視覚を失った魔獣は足元を崩し顔から地面に突っ込む。

 そこへ足を高く振り上げたかかとを魔獣の脳天に落とす。


 魔獣の頭部から『ぐちゃっ』っとスイカを割るような音がし頭蓋が割れ赤い脳みそがこぼれる。


「ふぅ、あと一匹か、案外楽に勝てるようになってきたな」


「うん、やっぱりそうだよ」


「なにが?」


 ずっと神妙な顔つきをしていたクロハが何かを感づいたかのように話す。


「その強くなる速さがおかしい理由」


「そんなに強くなる?そんなに強くってる?」


「なってるよ、確実に、多分だけどその恩恵の力で怪我した部位や千切れた筋肉が再生するときに、より強くより固く再生されていってる、他の人達とは比べ物にならない速度で」


「そういうことなの?······」


 と言うことは怪我をしまくれば強くなれると言うことなのだろうか?

 この再生の恩恵には感謝さまさまだな。

 だがこれでやっと、やっと復讐への足掛かりを見つけた気がする。

 あぁ気分が昂る


「さぁ、つぎだ!次探すぞクロハ!最後の一匹だ」


「わかったよ」


 そう意気込み二人はさらに森の奥へとぐんぐん足を踏み入れていく。

 この時の俺は完全に調子にのり油断していたことをすぐに思い知る。


 黙々と森の奥へと進んでいると、突然クロハがしゃがみこみそれを目にして自分もゆっくりとしゃがむ。


「クロハ?」


 しゃがみこんだクロハは垂れた耳をピクピクさせ音を慎重に拾っていて、ふわふわの尻尾は毛が逆立ってさらにもふもふになってる姿を見てただ事ではないと悟った。


「どうしたんだ?」


「······ヤバいよ」


「なにが?!」


「前方からさっきのデビルベアーとは一回りも二周りもでかいデビルベアーがこっちに来てるよ·····」


 クロハが怯え萎縮しながら危険を教えてくれる。    

 俺はゆっくりと茂みから顔をだし前方を見るとそこには――


「なっ!なんだよあの大きさデビルベアーなのか?」


「特徴は全部同じだけど······」


「これは退くしかないな」


「うん」


 二人はゆっくり音を立てないように慎重に後退りしていく。


「ガァァァァァーーーーー」


 ゆっくり後退りしていると背面から大きな咆哮が鼓膜を打つ。

 魔獣の声が背面から聞こえ、後ろを振り返る。


「おいおい、マジかよ」


「あ······」


 目前には突貫してくる魔獣、後ろには規格外の大きさの魔獣、前にも後ろにも引けない状況で、思わず二人の絶望の声が漏れる。


 さらに魔獣が雄叫びをあげながら、もの凄い勢いで突貫してくる。


「くそっ!」


 二人はすぐさま腰を低くあげ臨戦態勢をとると突貫してきていた魔獣が目の前で巨大な岩みたいな影に軽々しく吹っ飛んでいった。


「「あ······」」


 情けない二人の声が漏れる。

 一瞬ほんの一瞬、理解が追いつかなかった、魔獣が何によって吹っ飛んだのか。

 だが今、目の前にいる巨大な漆黒の毛皮に覆われた魔獣が成したことなのだとすぐさま理解する。


「助けてくれた訳じゃないよな?」


「当たり前······」


「逃げれると思うか?」


「······無理」


「だよな」


 二人で逃げるのを提案してみたが、自分でも無理だと思っていた、魔獣を軽々吹っ飛ばす筋力だ当然脚力も凄いはずだ、

 ならばどうする、考えろ、考えろ、考えるんだ。


 時間がない、巨大な魔獣はこちらを警戒するように睨み付けゆっくりと距離を縮めて来ている。

 今にも飛びかかって来そうだ。


「クロハ」


 隣の美少女を見ると、酷く怯えていた、表情には出さないものの尻尾を凄い巻いている。


「耳は元から垂れてるからわかりずらいな」


「え?なに?今そんなこといってる場合じゃ······」


「クロハ······逃げてくれ」


「えっ?リョウは?」


「こいつをどうにかする、二人で逃げるのは危険すぎる」


「やだよ······絶対いや!もし···もしリョウまでいなくなったらクロハは耐えれない······」


 めったに表情を変えないあのクロハがこんな悲痛な表情を浮かべるなんて、こんな表情を見たら――


「やるしかないよな」


「リョウ······」


「大丈夫だ!絶対死なない、だから逃げるんじゃなくて誰か助けを読んできてくれ」


「え、でもあんなデカイの相手に」


「大丈夫、絶対に死なないから」


 『絶対に死なない』これだけは、ここ数日ずっと一緒にいたクロハが一番わかっている。


「時間がない!いってくれ!」


「う、うぅ」


「信じてくれ」


 クロハはその指示に息を呑み込み『わかった』と頷きギルドへ助けを呼ぶために走り出す。


「ガァァァッオォォォォォォーーーーーン!!」


 魔獣が走り出す少女を視界にとらえ吠える。

 獲物を逃がすまいと、少女を追いかけようと二足から四足に切り替える。


「おっと、相手になるかわからないが、手間とらせるぜ」


 そう言い巨躯な魔獣の前に飛び出る。


「ガウゥ?」


 こうして巨大デビルベアーとの戦いが幕を開く。

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