第6話 選択

 小屋の窓からまぶしい光が差し込み、それによって眠りから覚醒する、目を開け体を起こし手に感じる温もりの方を見る。


 そこにはまるで子犬のようなふわふわの垂れ耳をピクピクさせ、枝のように細い両手で手を握りしめ、子犬のようなふわふわの尻尾をフリフリさせ丸くなっている美少女がいた。それを見て――


「かわいいな」


 想わず口からこぼしてしまうほど隣にいる美少女はとても可愛く、目が離せなかった。

 それに気づいたのか美少女が起き上がる


「んっ」


「おはよう、ごめん起こして」


「いや · · · · · · 身の危険を感じた気が」


「 · · · · · · おはよう」


「おはよ」


 朝の挨拶をちょっと気まずい感じで交わし二人で背伸びをし顔を見合せる。


「クロハ、話をしよう、そして決めよう」


 そうして俺はクロハにどうやってここに来たか、なぜ森にいたのか、これまでの事を全部話した、勇者の権能をとられたことも、一緒に召喚された陽太のことも王国にどんな扱いを受けたかも。

 これらの事を話す間クロハは顔色一つ変えずただ『うん』と頷きながら聞いてくれた。

 そして少女がゆっくりと口を開き――


「ありがとう」


「え?」


 クロハの一言に驚いた、なぜ『ありがとう』なのだと、それにクロハはそれどころの心境じゃないはずだ。お礼を言って貰うために話してたわけではないなのに。

 続けておっとりとした声が聞こえた。

 

「本当に···ありがとう」


「っ!!何がありがとうなんだ、何もできなかったし、何も助けれていない、なのに、なのになんで!」


「一緒にいてくれたから、そばにいてくれて、手を握ってくれた、それが私には何よりの救いだった」


 少女の言葉に息を飲む、喉の奥に、鼻の奥に、目の奥に熱いなにかが込み上げてくるのを感じぐっと上を向く。

 そこへ少女は続ける。


「きっと一人だったら耐えれなかった······」


 思わず目から熱い雫がこぼれ落ちる。

 あぁ、この子はなんて強いのだろう、それに比べ俺は情けない頼りない弱すぎる。

 きっと俺もクロハがいなかったら壊れていた、俺の方が助けらてしまった、救われてしまった。

 この少女は、もうすでに俺よりずっと強いのだろう、だけど次こそは守りたい、もうこんな辛い思いもさせたくない、勝手だがそう思い決意を口にだす。


「ありがとうクロハ、そして弱くてごめん······次頼られた時は絶対頼りになるよ·····」


 そう伝えるとクロハは無言で尻尾をフリフリして答えている、きっと、楽しみにしてる、と言ったところだろう。




 話してるうちに時間がたちお互いが落ち着きを取り戻していた、それを見計らい。


「クロハ俺はこれから旅にでたいと思ってる。その道行きであわよくば王国と勇者に復讐してやろうとか考えてるんだけど」


「うん」


「俺と一緒に来ないか?」


「 · · · · · · 」


「いや別に復讐とか興味ないって言うなら、君を安全な場所まで送り届けるよ!」


 女の子を何かに誘うのは始めてで、少女の無言の間に耐えれず、断られる前に断られたときの保険をかけてしまう。


「復讐は絶対にしなきゃいけないの?どこか遠い所で静かに暮らすとか」


「いや···それは絶対にできない、あいつに、あいつらに復讐しなければ、俺は俺の心は休まらない」


「あんな軽そうに話すのに随分と重いんだね」


「あぁ、これだけは絶対に成し遂げなきゃいけない」


「わかった、クロハもついてく」


「いいのか?」


「クロハがいなきゃ、この世界のこと全然わからないんでしょ?」


「まぁ · · · · · · 」


「だから、これらからよろしくね!」


 今までのクロハの声とは全然違い一瞬誰の声かと錯覚してしまうほどだった。

 そして横に飛び付いてきたクロハはとても愛らしく口に入れたいくらいだ。猫を口に入れたくなるのはこういう気持ちなんだろうか。



「じゃあ、改めて俺は朽名 療好きに呼んで」


「じゃあ、普通にリョウで」


「普通だね · · · · · 」


 あわよくば『お兄ちゃん』とか『お兄さん』とか『お兄様』なんて呼ばれかたされるのでは?と胸を高鳴らせていたが、あまりにも普通だ、普通すぎてちょっと残念していると、名乗りに返すように少女が名乗る。


「ヴェレノー・クロハ、クロハって呼んで」


「ん?始めと名乗り方が違うな」


「母の国ではこう名乗ると教わったよ」


「なるほど、よろしく、クロハ」


 そう言い一息つく、こっちの世界に来てまだ3日くらいなのに1ヶ月くらいたった気分だ、本当にいろいろな事があったが、やっと一息、一段落ついた気がする。

 さて、これからどうしようか、お腹も減ったしお金の持ち合わせもないしこのままだと野宿をする羽目になる。

 もしかしてと思い少女の方をチラッと見る

 少女が『ん?』と首をかしげているのを見て、少女にたかるのはあんまり乗り気はしないが――


「クロハお金って持ってたりする?」


「もってないよ」


「だよね、俺も」


「「 · · · · · · 」」


 二人してこのどうしようもない状況を察し黙り込む。

 

「お金を異世界で稼ぐと言ったら冒険者だよな、この世界は冒険者稼業はあるの?」


「あるよ」


「あるの!?」


 これはテンションが上がる、やっと異世界らしいことができるのでは?と思っているとクロハがため息を吐き――


「まぁ冒険者といってもなんでも屋みたいなもんですよ、ギルドにおカネさえ払えば依頼を頼め、その依頼を達成できたらその報酬をもらえるって感じですよ」


「 · · · · · · 」


「普通の職業よりかなりブラックですよ、王国の出した依頼は絶対だし、命も賭けなくちゃいけないですしね」


 なんか冒険者という職業ブランドが自分の中で崩落していくが、お金は必要だし就職できるきもしない。


「それって誰でも簡単に登録できるの?」


「できますよ、異世界人はまず冒険者をやる傾向があるので指名手配などされていなければ」


「あぁ~ · · · · · · とりあえず行ってみようか」


 気休め程度にフードを深くかぶり顔を隠して指名手配をされていないか確かめることにした。

 指名手配をされていないことを祈りながら近くの村を目指し歩く。

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