第4話 クロハ
「·········あの、その傷は」
少女は先ほどからちらちらと不思議な目で噛み傷があったところを見ていた、相当気になったのだろう。
「え?あぁ、これはよくわからないけど、何故か傷が完治するようになって」
「······」
驚くかと思ったが少女は特に何も言わなかった。
「あぁ、自己紹介をするのを忘れていましたね、僕の名前は朽名 療です」
なんとなく、なるべく怖がらせないよう知ってる限りの丁寧な挨拶をした。
「なんか·······」
「なんか?」
「あやしいよ?」
「えぇ?どこがだよ!丁寧過ぎる挨拶だろ!」
と言いつつも内心、少女には丁寧過ぎて逆に不審者みたいだろうか、と思っていると―――――――
「なんか········」
少女がまた『なんか』と言い始めた。
「なんか?」
「詐欺師っぽいよ」
「俺が詐欺師に見えるのか!?」
この少女は俺が詐欺師に見えるらしい、話し方がいけなかったのかそれとも見た目か?それとも顔なのか?
顔だけはどうにもならないから違っていてほしい。
「嘘だよ······」
「え······」
嘘と聞こえ、両手でそっと目を隠す。そして嘆く。
「少女に弄ばれたぁ!」
「少女じゃないよ、クロハだよ」
「あぁ、ごめん」
おっとりとした間のある独特の話し方で、顔は無表情ではあるが耳と尻尾でちょっと感情が漏れている、そこもまたかわいい。
そんな少女が呼ばれかたを抗議してきて素で謝罪してしまった。
「ところで君はいったいどうしてこんな危険な森に?」
「君じゃないよ、クロハだよ」
「あぁ」
ついつい女の子の名前を呼ぶのを躊躇ってしまう。
「それにお兄さん異世界人でしょ」
少女の口から予想外の指摘をされ戸惑う。
「え······な、なんでわかったの?まさか」
まさか、もうすでに国中に指名手配やら賞金首の貼り紙など配られているのではないかと、最悪な予想をするが、クロハの一言で全くの的外れとわかる。
「だって名前がお母さんとにてから······」
「名前?お母さん?」
「紫 千冬···お母さんは20年前に25歳の時に『この世界に召喚された』と言ってました···そしてさっきクロハを逃がすために······」
黙々と話すクロハは、段々と顔をうつむかせ目に涙を浮かべはじめる、きっと『さっき』とは、ここに至るまでの真相だろう。
聞いて良いのだろうか、だが多分これ以上聞いてしまったら、俺は後へは退けなくなってしまう、そんな気がする、それほどに状況は深刻だと、少女の顔つきか察する。
ならば、クロハにあのか弱そうな少女に、ここで「気をつけて」と言い離れるべきか?俺には成さなくてはいけない復讐がある。
そのためなら困ってる人がいても―――――――
――――――――――――
「それでクロハはどうしたい?」
何があったのかは詳しく聞かなかった、どんなことでもこの少女の助けになろうと思った。
「誰かを助けたい?」
「安全な場所へ行きたい?」
「それとも······復讐?」
ここで、この小さな少女を放っとくなんてできない。
名前も聞いてしまったし、何か大事にも巻き込まれてるのも知ってしまったし、そして何よりも可愛く愛くるしい。
そして少女が顔を上げる
「私はお母さんを···助けたい」
その小さな叫びに『わかった』と1つ返事で頷き、続ける。
「まず、助けるにも何があったか教えて?」
「うん···」
クロハは頷き、ポツポツと話し始めた。
「少し前に、母を訪ねてきたものがいて、その人は勇者と名乗っていました」
クロハの口から『勇者』という単語が聞こえ、嫌な記憶を思いだし頬が強張る。
「王国から戦に参加しろと、ですが母は参加しないって····そしたらいきなり····勇者と名乗った男が剣を抜いて·····戦いに」
話すにつれて、クロハはどんどん悲壮感を強めていく。
「それでこの森に、お父さんは?」
「····」
「いや!話したくないなら話さなくて大丈夫だよ」
「父は亜人で昔、王国兵士に亜人が理由で殺害されました」
「······」
父は亜人、母は日本人だから耳もあるし尻尾もあるのか、そして母の名字が無くなり夫の名字になり『クロハ・ヴェレノー』となるのか。
そして父は王国兵のせいで他界、そして今母が王国の勝手で振り回されているのか。
とても軽々しく「大丈夫」何て言えない········
「いえ、昔の話なんで気に病まなくていいです···」
「あぁ、すまない」
情けない、こういう時なんと声をかければいいのかわからず、言葉が出てこなかった、逆にこんな少女に気を使わせてしまう体たらくだ。
「その王国の勇者の目的が戦への参加ってことは母さんはそれなりに戦えるっていうことなのか?」
「はい、母は召喚者なので、異世界人しか持たない権能と、この世界では誰もが当たり前に持っている恩恵の二つの力を有していて、王国ではそれなりに名を挙げた人でした」
「二つの力······」
「なので、戦力として期待されているなら十分でしょう」
そういうことか、だから俺は勇者の権能を奪われても力が残ってたのか。
つまりは回復か治癒か不死身の恩恵。
これで勇者を持っていたら最強だったな。
「クロハは恩恵と権能二つ持っているのか?」
「いえ、クロハはこの世界で生まれたので権能はありません、恩恵のみです、そして恩恵は便利な力とは限らないんです」
『なぜ?』と首を傾げる
「恩恵は調べようがないから、例えば農家の跡取りが剣士の恩恵を持ってるとすると、その農家が剣を振らない限りその身に秘めた恩恵と言う才能がわからないから」
「なるほど」
確かに、俺の恩恵も怪我をしなければわからないままだった。
ここは思っていた異世界ほど融通の聞く世界では無さそうだ。
「ところで、クロハは自分の恩恵がわかるのか?」
「······まだわかってないよ」
クロハの恩恵がきになり聞くと、ずっと無表情だったクロハが少し怪訝な顔をした気がした。
「······よしわかった、じゃあ急いでお母さんの所へ行こう······もし本当に勇者が来てるとしたら嫌な予感がする」
「助けてくれるの?」
「助けれるかはわからない······一応言っておくけど、もし争い事の場合、安全第一だ」
「誰かが一緒に来てくれるだけで心強いよ」
そう言ったクロハは冷静な顔をしてるが耳がピクピク、尻尾をフリフリしていた。
やばい、本当に
「こいつ、かわいいな」
ボソッとした呟きに反応して。
「こいつじゃない······クロハだよ」
クロハがそう言い『あぁ、悪い』と答え顔を見合せ頷き、足にちからを入れ、クロハの歩幅にあわせて進み始める。
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