第2話 絶望

 「フリュート陛下、二人目の《勇者》だと話される方をお連れ致しました。先ほど広間にて蛭沼 陽太様の方はすでに《勇者》の権能をこの目で確認致しました」


 広間から移動し陛下のいる玉座のある広間に着くと、ここまで案内してくれた陛下の付き人が礼儀を尽くすよう話し始めた。


「うむ、もし本当に勇者がもう一人いるとなれば願ったり叶ったりの話ではないか、ならば、見せてもらおう、朽名 療その力を」


 フリュート陛下が願うように言い、「だが」と続けた。


「だが、勇者の権能を持っていると言ってたが、もし嘘を吹いていた場合いくら異世界人でも我への不敬は見過ごせまい、それなりの処罰を覚悟をするがよい」


 そう言い放ったフリュート陛下からは凄まじい覇気を感じた、自分への不敬はただでは済まさぬと、流石は王様をやってるだけはある、そして流石は異世界らしい展開だ。


 こちらも、それに答えなくてはと、気分が昂る


「わ、わかりました。お見せしましょう勇者の権能を!」


 そう言い、近くに用意されていた鉄製の剣を手に握りしめ、人生初めて手にする剣の重さにこんなに重いのかと、鉄の重さに、剣先の鋭さに唾を飲む。そして陛下のいる場所とは反対側に用意された鉄製の的の方を向き、剣をもつ両腕に力を込め、手に握力を込め


「シィッ!!」


 喉の奥から声を漏らし鉄製の的に向けて剣を斜めに両断するよう思い切り振る。

 剣先が空を切り鉄の的を捉え両断す――――――――――――――――――――――――     

―――――――――――

              『キィィィィン!!』

 突如思いのよらない音が反動が剣を握り絞めてた両腕から頭にまで響き渡り思わず剣を手放す。


 手が痺れる、痺れている、鉄製の的を見る

 

「なっ、何で!」


 思わず声に出る、あり得ない《勇者》の権能を持ってるのにも関わらずこんな鉄の塊すら切れないなんて···········


「····やはり嘘でしたか」


 落胆したような声色で呟く陛下の付き人。


「違っ、嘘じゃないっ!そうだろ陽太っ!」


 そう言いながら陽太を見る、先ほど陽太は俺が怪我をしたときにできた傷が塞がっていくのを一緒にみていた。その証言さえしてくれればまだなんとか権能を使いこなせていないってことで話ができる。


「いやぁ、こいつには何もない、《勇者》の権能も嘘だろう。さっさと処分を下すべきだな、不敬罪とやらを」


「なっ!」


 いったい何を言っているんだ?なぜそんな嘘をつくのだろうか、そのうえ処分まで下せと?蛭沼 陽太は友達だったのでは無いのか?なぜ少しも庇ってくれない。


「ま、まってくれ」


「残念だが、処分を下す他あるまい」


 コイツらはっ!次から次へと人の話を聞かず、怒りがこみ上げてくる、腸が煮えくり返りそうだ。


「勝手に呼び出しておいて使えないとわかると殺すのか!」


 腹のそこから吠える。 


「勘違いするでない、我とて悪魔ではない。勝手に呼び出したのはこちらだそして元の世界に戻す手立てもない、だが城に置いとくこともできない、だから国境の境目の森に追放する」


「森だと?ここの世界は魔物や魔獣などがいるんじゃないのか?」


「あぁ、そうだとも我自らは手を下さないが、魔物や魔獣の事など知らん。運次第だ」


「ッツ!ふざけるな!そんなの死刑と一緒じゃねぇか!」


「かかれ」


 そう、フリュート陛下が言い放った瞬間広間にいた兵士達が一斉にこちらへ向かってくる、逃げようと足に力をいれ踏み出すが、回り込んでいた長い槍を持っていた兵士を見て怖じ気づく、突破不可能だと足が止まる。


「クソがっ」


 そこに、尽かさず兵士が詰め寄り、腕が凄い握力で掴まれる、さすがお城を守ってるだけある、相当鍛えているのだろう。その握力から逃れようと振りほどこうとするが、掴まれていた腕が回され、捻られ、関節の可動域限界までもっていかれ関節技を綺麗に決められ、痛みに耐えれず思わず膝をつく。


「まってくれ実は!俺はっー」


 弁明を計ろうと、口を開き声をあげるが、そこに布のような物を口にねじ込まれ固定される、猿ぐつわと言うやつだろう、テレビで見たときは声ぐらい出せるだろうと思っていたが、実際されるとかなり苦しい息は出来るが、よだれが止められない、声にならない声しかでない。


「んー、んー、」


「いくぞ」


 兵士がそれだけ言い、無理矢理歩かされながら、扉の方へ連行されていく


「······」


 もう、なるようななればいい、そんな投げやりな覚悟を決めた、そこへ、


「あぁ、ちょっと待ってくれぇ」


 ずっと黙りを決め込んでいた陽太が、こちらへ近寄ってくる。なんだろうか助けてくれるのだろうか、そんな淡い希望を抱き


 その少しの希望も一瞬で崩壊する。

 

「俺が願った権能はなぁ、権能を奪う権能だ」


 隣まで近づいてきた陽太が、顔を耳元まで近づけそう言った。


「·········」


 意味かわからず固まる、思考を巡らせる、「権能を奪う権能」を願った?それがどうしたのだろうか、今この状況で何が関係あるのか。


「はっ、どうせわかってるのにわからないふりか?頭はよかったはずだがなぁ?」


 陽太は耳元に顔を近づけたまま、話を続けようとする、嫌な予感がした耳を塞ぎたいが塞ぐ為の両手がすでに塞がれている。ただ猿ぐつわを噛み締める。


「奪ったんだよ 《勇者》の権能をお前からなぁ、助かったよ最初に奪えた権能が《勇者》で、もしお前が使えない権能だったら俺まで処分されてたかも知れないからなぁ」


「·············」


 親友だと思ってた男から躊躇いもなく絶望を突き付けてくる。

 一体いつからなのだろういや、きっと初めからこいつの腹の底はどす黒かったのだ。問い詰めたい、だが声も出ない出す気もしない。


「あぁ、もういいぜ、時間取って悪かったな!生き延びれればいいな!また会えることを願ってるよ」


 陽太がそう言うと、兵士達が顔を合わせ頷き歩き出した、それと同時に身体が引っ張られる、遅れつつ足を前にだしなんとか歩いていく。きっとこれから魔物やら魔獣やらいる森に向かうのだろう。――――――――――――――――――――――――――――――――


 あれからどれからい時間がたっただろう、ガタガタと揺れる荷台によだれを滴しなから何も考えず、ただ頭を真っ白にして。


 急な衝撃に頭を床にうちつけ気づく、馬車が止まったのだと。


「おい!ついたぞ、ここが国の最南端お前の追放される森だ」


「ぐっ、」


 一人の兵士がそう言い馬車から落とされた、普通両手が縛られた状態で落とすだろうか、地面に手もつけずに顔面を強打する、顔を強打した痛みで呻き声を漏らしながら悶絶する。


「よし、これで仕事も完了だ。さっさと戻るぞ」


「お、おい!まてっ、まだ拘束が」


「なにいってる猿ぐつわはほどいてやったろ」


「いやまだ両手が!」


「うるせぇやつだな、まだわからないのか?国はお前を殺しはしないが死んでくれって事だよ。あとフリュート王国には一生足を踏み入れるなと陛下からのお達しだ。まぁ、この先生き残れたらの話だが·····なっ!」


「がっ?!」


 唖然と口を開け話を聞いていた横っ面に突然衝撃が走り唇が切れ悶える、蹴りだ蹴りを喰らった、顔をあげると足蹴にしてくれた兵士が悪態をつきながら去っていくのが見える。

 それを目に焼き付け


「絶対に許さねぇ、どいつもこいつも俺の人生をなんだと思ってやがる」


 ここの人達は醜悪だ、単純な力しか見ていない、全く自分という一人の人間を見ていない、あいつらは障害だ、俺が生きるうえで取り除かないといけない害悪だ、怒りが憤怒が恨みが殺意が込み上げてくる、許せない、許せない、許さない、許さない、許せない、許せない、許せない·······


「····壊して殺して蹂躙してやる····」


 そう呟き、両手を縛られた状態で手を着けず地面に額をつけ膝をつき立ち上がる、そして森の奥へと歩きだし、唇を舐め気づく切った唇が治ってることに。

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