第1話 ここは?

『欲しい権能を願え、ただそれだけでいい』

 

「······································」


 ふと、頭の中に直接声が聞こえた、視界はない真っ暗だ、嗅覚もない、聴覚もないと言っていいだろう声は聞こえてくるが鼓膜を震わせずに頭に直接語りかけられてくる、口もなくなにも返答できない、それなのにこいつはいったい何を言おうと


 思考を遮られ声が脳内に直接響く



『これから汝ら二人は異世界に召喚され転生する。誰かに召喚され、ここを通り私が身体を造り変え、送り出す』


「····································」


 聞き流せない単語が何個か聞こえた、そのなか最も気になった単語がある。


 いま確かに『二人』って、それはまさか親友である蛭沼 陽太のことだろうか、あの事故の結末はなにもかもわからないままだ。


 それに、異世界に召喚?転生?身体を造り変える?何をいっているのかわからない。思考がまとまらない。

 考えているうちにふと事故にあった直前のこと考えだす。


 そういえば俺は死んだのか?


 ·····················あの時、俺はまさか盾にされたのか?そうとは思いたくないが、たとえ緊急事態であって、とっさのこととは言え、親友と思っていた相手に身代わりにされたのはあまり気分の良いものでもない。もし、もしまた顔を会わせたとき親友のままでいられるだろうか。


 そんな思考を巡らせてるうちに頭に直接響く声が聞こえた。



『願え 欲しい権能を ただ願うだけでいい』


「···························」


 「願うだけ···それなら俺は···勇者になりたい」



 願った瞬間意識が朦朧しどこか遠くへなくなっていくのを感じて――――――――――――――――

――――――――――――――――――――


 「ーッツ!!」



 目の網膜が光に刺激され覚醒し、跳ね起きる、そして、周りを見渡すと大小の木々が自分を囲うように配置され、そのさらに周りには石塚で高い壁に囲まれ、大小の木々の下には黒いローブを纏った人形の者たちに囲まれている、その顔がよく見えずどことなく気味が悪い感覚を覚える。


「おいっ!大丈夫だったか?」


 突然横から声が聞こえ横を見ると、そこにはよく見知った男性がいた。


「··········陽太?·········なのか?」


「あぁ!そうだよ!療!」


 隣から聞き慣れた声がかけられた。先程の声を思い出す。やっぱり『二人』とは俺と陽太のことだったのか。

 だが、いつもなら安心して笑顔がこぼれながら話せる相手なのに、どうしても頬が強張ってうまく笑えなく、話かける言葉が出てこない。


「この者たちが強力な力をもつ異世人であるのか?」


 そこへ全く知らない声が鼓膜を通り身体が緊張し強張り、視線を向けるとそこには、キラキラな装飾の服と宝石を埋めた冠をしている男前な髭を生やしている男がいた。

 

 目にした瞬間王様だとわかる。間違いないきっと王様だと確信した。


 そしてもうひとつ確信したことがある、ここは異世界だ、あの声の主に送り込まれたのだ、自分たちのいる世界とは異なる世界にやって来たのだ。



「はい、この者たちがそうでしょう」


「今まで、何千年もの歴史のなかに召喚で二人も召喚されたことがあっただろうか!これでやっと不毛な戦いも魔族も魔王軍との紛争も手打ちにできるであろう!」


 王様らしき人はかなり気分が昂るように吠える、今の話だとこの世界では異世界人を召喚する歴史でもあるようだ、魔王もいて戦争も当たり前のようなとこらしい。


「·······························」


 想像するだけで恐ろしいな、目にするまでは現実逃避をしとこうと考えていると


「なぁ、多分コイツらは、俺ら異世界人の力を貸してもらおうって感じだぞ」 


「た、確かに、聞いてる感じはそうだね」


「それでだ、療は来るときになんの権能を願った?」


 陽太はなんのためらいもなく聞いてきたが、自分の能力を話してしまって大丈夫なのだろうかと考えたが、やはり親友に隠し事はできない事はないが、したくない。


 正直、事故のことは、今すぐにでも真意を確かめたいが、話をしてる間は黙っていることにした。


 そして話す


「勇者を願った」


 ボソッとそう答えた


 それを聞いた陽太は「はっそりゃぁいいじゃねぇか」と言いながら不適な笑みを見せた、それがとても歪だとそう思った。


 その笑みに疑心を抱きながら


「よ、陽太はなにを願ったの?」


「俺はぁ····································」


 聞き耳を立てる、そこへ突然「パンッ!」という音にびっくりし、音のした方へ目を向けると王様の付き人らしき人が手に持っていた本を閉じる音だとすぐにわかった。


「では、言語も通じるようなので、席を用意しているのでさっそく話し合いをしましょう。丁重におもてなしさせていただきます」


 無言で頷くと、続けて


「では移動しましょう。こちらへ」


 一同が立ち上がり、自分も立とうとした瞬間足がガクガクと小刻みに震え立てなかった――――――

―――――――――――――――――――――― 

――――――――――――――――――



 移動を終えると無言で冷たい視線を浴びていた。


「·······························」


「皆さんからの視線がとても冷たい気がするのですが」


「俺ぁ、しょうがねぇと思うね、あんな生まれたての小鹿みたいな足捌きされちゃあぁなぁ···フッ」


 隣の陽太が嘲笑うと、全体もつられてなのか嘲笑いをし始める、中々に精神的ダメージが大きい。


「······」


 前の世界では何年も足が全く動かなく車椅子生活だったのだ、急に歩けと言われても力の入れ方がわからない、多分また足が小鹿になってしまうだろうと、頭のなかで想像した。


 でも、いくら笑われようが今はとても気分がいい。なんせ何年ぶりに障害が失くなったのだから!


 この異世界ではなんの不自由なく生きていけると確信していた。なんせ《勇者》なのだから、先ほどテーブルの上に飾ってあったバラのトゲで指を切ってしまってもすぐ再生してしまった、怪我とも無縁になったのだ、当たり前だ、だって《勇者》なのだから!


 そんな悦に浸っていると、さっきの真面目そうな付き人が話し始めた。


「こんな宴の最中で申し訳ありませんが、本題に入らしていただきます。」


 真剣な顔つきで話し始め、宴の空気が張り詰めた。



 先に喋りだしたのは以外にも陽太の方だった。その喋りだしの歪な笑顔、今まででみたことのない笑みに身体が強張る。 


「俺ぁ、いいと思う」


「まぁ、みんないいって言うなら」


「では、率直に聞きます。異世界人はこちらに来るときに、この世界の者たちがすでに持ってる恩恵の他に《権能》を与えられてくるんですが、あなた方はなんの権能をお持ちで?」


「································」


「································」


「俺の権能はなぁ、《勇者》だ」


 陽太の権能が想像もしてない方向で驚かせられる、それに《勇者》だって?!自分と同じではないか。


「みしてやるよ」


 そう言い陽太は会場の巨大な観音扉の片側を綺麗に鮮やかに切断させて見せた。


「なっ!」


「ほう、《勇者》ですか、これはこれは、期待通り!いえ!実際に《勇者》と聞くと期待以上です!さらにもう一人権能持ちがいるとなれば、それはそれは!っと失礼興奮してしまいました。なんにせよ陛下にはいい報告ができそうですね。」


 話の途中で気づいたのか冷静に喉をならし平常運転にもどり、


「そして、残った朽名 療様の方は一体どんな権能をお持ちで?」


 言葉につまる、まさか陽太が同じ《勇者》だったなんて、まぁお揃いって言うのもいいか親友見たいで。


「自分の権能は《勇者》です」

 

 沈黙がこの場の全体を飲む、まぁ、それもそのはずだ同じ時代に二人の《勇者》そんなの魔王からしたらあってたまるかって話だ、付き人の顔からもわかるまるで天変地異でも起きたかのようだ。


「はっ、いけません」


「驚きのあまりに、固まってしまいました。そうですか《勇者》ですか、残念極まりないです、なぜなら···同じ時代に同じ権能は絶対に現れません。それは何千年も前から決まっていることです。」


 驚きから我を取り戻したと思ったら、いきなり何を言い出すのだろう、人をいきなり妄言者扱いだ、不愉快極まれり!と言ったところだろうか。


「自分は妄言など吐いていませんよ!本当に《勇者》です!」


「ならば、陛下の前でその《勇者》の権能を見してもらいましょう。」


「もし、陛下の前で嘘を吹く場合は、それなりの覚悟をしておくように」


 そう付き人がいい終えたあと無言で会場にいた全員が移動し始め、自分もそれに流されるように移動した。まだ慣れないその足で

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る