第45話「究極魔法時間遡行と防衛戦」

「あのバカ教師が! 最後の最後で余計な置き土産を!」


 師匠は焦燥に駆られた表情で吐き捨てるように言う。

 というか――大ピンチだ。どうする!?


「今の話本当ですの!?」

「そんな、そんなっ、スズネちゃんっ!」


 リリィとカナタも駆け寄ってくる。


「……一度始まったカウントダウンは止められない……あと二分四十秒ほどで世界を虚無へと帰する滅亡の爆滅が起動する……だけど」


 スズネは無表情のまま告げる。


「……わたし自身が宇宙の果てに転移してから爆発すれば、この世界が滅ぶことは防げる……」


 突拍子もない内容だが――スズネが嘘を言うようには思えない。

 しかし、


「そんな、ダメだよ、そんなのっ! スズネちゃんとわたしたちと友達になってこれから一緒に学園で青春を送らなきゃっ!」


 カナタはスズネを抱き締めた。


「……でも、そうしないと世界が滅ぶ……」

「だけど、だけどっ! そんなのおかしいよ! 認められないよ!」


 カナタは涙を流しながら、スズネを強く抱きしめる。

 そして、今度はリリィが声を上げた。


「そうですわ! そんなの認めませんわよ! あなたは誇り高き精霊でしょう!? たかがバンパイアごときの眷属にされて思い通りにされるなんて情けないですわよ! 気合いで逆らいなさい!」


 続いて、師匠も口を開く。


「そうだ。諦めるな。運命に抗え。ここにいるみんなは運命に抗い続けた者たちだ」

「……でも……」

「スズネはひとりじゃない。俺たちがいる。なにか手段はないか!? みんなで手助けできることはなんでもやる!」


 俺たちの必死の説得により――わずかにスズネの表情に動きがあった。


「……時間遡行(そこう)……わたしの精霊核に対してひたすら逆カウントダウンを繰り返し続ければ……理論上は永遠にカウントは0にならない……でも……それをするには莫大な魔力がかる上に生涯に渡って行使し続けないといけない……」


 手段はあった。だが、時間遡行は究極魔法に分類される。

 この魔法を使えるものは限られる。俺でも無理だ。


「案ずるな。今のわたしなら使える。魔王になったことが、こんなところでも役に立つとはな」

「時間遡行なら、わたくしも使えますわ。わたくしとしても学園生活というものをもう少し味わいたいですからね。まだ世界は終わらせませんわ」


 幸い、師匠とリリィは使うことはできた。

 これで打つ手がある。希望を失いかけていた俺たちに光が見えてきた。


「わ、わたしもやります! 先生、教えてください!」

「これは最高難易度の魔法だからな。カナタ・ミツミにはまだ難しい」

「カナタ、ここはわたくしたちに任せなさい。まだ暗黒黎明窟急進派との戦いは終わってないはずですわ」


 そうだ。シガヤ先生がここまで派手に動いたということは暗黒黎明窟は残りの戦力も全力投入してくる可能性が高い。


 ――と思ったそばから、量産型機械人形が茂みのほうから続々と現れた。

 その数、三十を超える。


「ヤナギ、頼んだぞ。カナタ・ミツミを――この学園を、世界を守りきれ!」

「了解です、師匠! スズネのことは頼みました! カナタ! 俺から離れるな! ペアを組んでしっかりと対応するぞ!」

「う、うんっ!」


 ペア戦のために鍛練してきたことが、こんなところで役に立つとは。

 俺とカナタは攻め寄せてきた機械人形に対して適確に対処していく。


 以前の襲撃のときと違って、今回は聖魔剣がある。

 なので、魔力の枯渇の心配をする必要がない。


「ええいっ!」


 そして、カナタ自身も相手が機械人形だとわかっているので――積極的に攻撃魔法を行使することができている。

 しかも、前回の襲撃によって弱点がわかっているのは大きい。


 カナタは雷属性の魔力球を生み出すと、次々と機械人形に対して攻撃をヒットさせる。今回の機械人形は対雷属性のバリアを張っていたようだが、カナタの魔力はそれを打ち破っていた。


「いいぞ、カナタ! その調子だ! 守りは任せろ!」


 カナタの魔力球をかいくぐってきた機械人形に対しては、俺が対処する。


 師匠の生成した聖魔剣の威力はすさまじく、前回あれだけ固く感じた装甲を容易く一刀両断することができた。


「ザザザ……」

「ジジジ……」


 俺たちの抜群の連携によって瞬く間に十体が倒されたことで――力攻めは無理と悟ったのだろう。機械人形たちの突撃が止まった。


 その間にも、師匠とリリィはスズネに向かって時間遡行の魔法を行使していた。

 それは外から見ているだけでも凄まじく精緻かつ膨大な術式で組まれた知の結晶。


「す、すごいっ」


 そちらを見たカナタが思わず感嘆の呟きを漏らす。

 俺としても感嘆するというか――呆れるばかりだ。


 力攻めが無理だと判断したのか機械人形たちは一斉に校庭から全力離脱していく。

 引き際が鮮やかすぎる。


 これは……まるで、あらかじめ決められた作戦のように。


「……カナタ、おそらく砲撃が来る。備えてくれ」

「えっ? ほ、砲撃!?」


 俺の戦場勘が告げている。

 敵が一斉に引いたときは、必ずなにか仕掛けてくると。


 はたして――俺の予想は当たった。

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