第46話「守る~みんなを世界を青春を~」
――ヒュウゥウウゥウウ……!
やがて、空気を切り裂く嫌な音とともに砲弾が空の向こうから飛来してきた。
かなり離れた場所からの超遠距離射撃――。
……かなり巨大な砲弾だ。
おそらく守り切れねば――学園ごと消滅する。
「ひぃいっ――!?」
「落ち着け、カナタ! おまえならできる!」
今、大規模防御魔法障壁を張れるのはカナタだけだ。
師匠とリリィは開始した時間遡行魔法を中断することはできない。
つまり、俺たちと学園のみんなの命は――カナタにかかっている。
「学園を守るために――いや、これからもっともっと楽しい学園生活をみんなと送るために! 守ってくれ、カナタ!」
「う、うんっ! そうだよね! 守る! 守らなきゃ! わたしたちの青春をっ! この世界を! みんなを――!」
カナタは超広範囲防御魔法障壁を展開していく。
シンプルな防御魔法だが――それがベスト。
そう。いつだって答えは簡単なはずだ。
守る。そのために俺たちは戦っている。
奪うためでなく。誰かを生かすために命を賭けている。
「……すごい……」
展開されていく淡いピンク色の防御障壁を見上げてスズネが呟いた。
「……ああ、すごいな」
俺も、その言葉に応える。
思わず見惚れてしまいそうな魔力の障壁――というよりはカーテン。
それはオーロラのような輝きを放っていた。
どこまでも美しいピンク色の魔力障壁に対して――殺戮だけを目的とした黒一色の砲弾が着弾した。
――ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォオオ……!
激突の衝撃とともに大爆発が起こる――。
耳を劈(つんざ)く轟音。立っているのも困難なほどの震動。
天地が破壊されてしまったかと錯覚するほどの膨大なエネルギー。
今ここで世界が終わると言われても納得してしまいそうなほどだ。
だが、それでも――カナタは両手を空へ突き出して立ち続ける。
「みんな守るって決めたんだからぁ!」
ピンク色の輝きは――健在。
それどころか爆発も煙を吹き飛ばす勢いで押し返していた。
カナタは見事に防ぎきっていた。
「……不完全だったとはいえ核を使うのも驚いたけど……それを防ぐなんて……」
スズネがポツリと呟く。
……核? 今のは神話にあった【核爆弾】の一種なのか?
「……カナタ、よくやってくれましたわ。汚染物質は、わたくしが防ぎます。時間遡行は頼みましたわよ」
「ああ、任せろ。そちらは頼んだ」
リリィは時間遡行の魔法行使を師匠に託すと、別の術式を組み始めた。
「……これは失われた古代文明の中でも最強にして最悪の遺物。爆発を防ぎぎっても天地を汚染する物質を拡散するのですわ。……わたくしの浄化魔法でどこまでやれるかわかりませんがカナタがここまでやってくれたのですから、やってやりますわ!」
リリィはカナタの横に立つと、俺が見たことのない術式を組んでいく。
時間遡行もすごかったが、今回も人知を超えるレベルだ。
「り、リリィちゃん」
「カナタ、あなたが守った世界を汚染させませんわ!」
リリィの瞳が赤く輝き――真紅の粒子が両手から大気へ向けて放たれた。
それはまるでキラキラと煌めく微小な宝石のようだ。
「……まったく、暗黒黎明窟急進派はどこまでも汚いですわね。滅びの美学があるのならば滅ぼしの美学というものもありましてよ! こんな滅ぼし方は穢らわしいだけですわ!」
リリィは憤りながら、大気を浄化していく。
あまりにも高度な術式なので、理解するだけでも至難だ。
汚染物質は目視できないものの、空が言いようのない不快な毒物めいたものに覆われていることは感覚でわかった。
しかし、一度は俺と戦い世界を滅ぼそうとした『殲滅の精霊』リリィが、人類を救うために魔法を使ってくれる日が来るとはな……。感慨深いものがある。
俺たちが見守る間にも、大気に真紅の粒子が拡がり続けていく。
術式は、まるで夜空を彩る星座のように空に描かれていた。
そして――。
「………………なんとか、人体に影響のないレベルまでは浄化しましたわ。ヤナギ、最後にきっと来ますわよ。暗黒黎明窟急進派の黒幕が。……決着は頼みましたわ」
魔力を使いきったリリィは、その場に膝をついた。
それでも、俺に対して意志のこもった瞳で後を託してくる。
「ああ! 任せろ!」
それに力強く答えた。
みんな、がんばってくれたんだ。あとは、俺が為すべきことをする。
カナタ、師匠、そして――リリィが振り絞るように魔力を使ってくれたのだ。
俺がすべてを終わらせる。
やがて――校庭に新たな機械人形たちともうひとり――謎の老人が現れた。
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