第33話「襲撃第二波」

「ふふん、いい気味ですわ♪ わたくしがいるにもかかわらずパッと出の精霊を憑依させて弐式なんて稼働させるからです」

「ふむ……完成には早すぎるとは思ったが未完成だったというわけか。ならば、遠慮なく斬り刻ませてもらう」


 その言葉とともに師匠の手に魔剣が顕現する。

 さすが師匠。容赦がない。

 戦場では非情な心が求められるのだ。


「さあ、楽にしてやろう。この魔剣は物理的攻撃だけでなく精霊に対してもダメージを与えることができる。これで、おまえは終わりだ」


 師匠は魔剣を手にジリジリと詰め寄っていく。


「……ぴんち……」


 スズネは相変わらず無表情で感情のこもってない言葉を口にする。

 少し不憫な気持ちはするが、こいつを破壊するのが世界平和のためだ。


「って、学園長センセイ!? き、斬り刻むなんて、かわいそうですよっ!?」


 尻餅をついていた状態から立ち上がったカナタは、スズネをかばうように割って入った。


「どけ、カナタ・ミツミ。こいつは歩く災厄だ。完全体になる前に破壊しないと人類が滅亡する」

「で、でもっ、かわいそうですっ!」

「かわいそうだと?」

「は、はいっ。きっと話せばわかってくれると思いますっ!」


 さすがカナタ。思考が聖女そのものだ。

 しかし、それはあまりにも平和主義すぎる。

 リリィが半眼でたしなめた。


「カナタ、精霊というものは人間ごときの意見を聞くものではないのですわよ?」


 師匠に脅されて学園に通うようになったリリィが言うと説得力がないが……。

 師匠はスズネに剣を向けたまま、カナタに言い聞かせるように話し始めた。


「カナタ・ミツミ。このジェノサイド・ドール・弐式の戦闘力と虚無の精霊の力は別格だ。完全にシンクロするようになったら、わたしでも倒せるかどうかわからない。今倒さねば、それだけ人類滅亡の危機は強まる。おまえの慈悲深い性格は好ましく思うが、これは仕方ないことなのだ」


「で、でもっ……だけどっ……」


 カナタはオロオロしながら、師匠とスズネの顔を交互に見る。

 俺としては師匠の考えはわかる。敵は潰せるときに潰しておくのは戦場の鉄則。


 情けをかけたことで逆襲される例は、歴史を紐解けば枚挙に暇がない。

 好機を逃すと、必ずあとで何倍にもなって返ってくる。


「……ぜひもなし……」


 スズネは諦めたように瞑目する。


「すまんな。これも世界のためだ」


 師匠が間合いを詰めようとした、そのとき――。

 大気を斬り裂くような音が聞こえてきた。


 方角は――窓の向こう。

 迫り来るのは――これは、砲弾か!?


「――っ!? カナタ・ミツミ! リリィ! 防御魔法を展開しろ!」


 師匠は叫ぶとともに瞬時に魔剣を消して俺の前に移動、防御魔法を展開した。


「えっ!? あ、はい!」

「くっ、これは――!?」


 カナタとリリィも慌てて防御魔法を発動した。

 それと同時に――窓に砲弾が着弾。

 寮全体にあらかじめ張られていた結界が発動したものの爆発が起こる。


「わわわっ!?」

「なんですのよっ!?」


 寮全体が地震にあったかのように震動する。

 カナタとリリィの防御障壁は張れたものの、急速展開なので薄い。


「まだ来るぞ! 防御障壁を重ねがけしろ!」


 師匠に促されて、ふたりは防御障壁を強化した。


 ――ヒュルルルルルル!


 今度の砲撃が本命なのだろう。

 先ほどよりも空気を切り裂く音が甲高い。

 着弾を待つ時間がやけに長く感じられた。


 ――ズドオオオオオオオン!


 第二撃、着弾。

 さっきよりも激しい爆発が起こる。


 砲弾は止めたようだが爆風によって窓が割られ室内にも衝撃が走る。


 大砲はこれまでに戦場で登場したことがあるので珍しくないのだが、今回の砲撃は威力が段違いだ。


「おのれ、まさか街中で大砲を使うとは……!」

「――!? 師匠! 今度は魔力を持った奴が来ます!」


 魔力を上手く使えないとはいえ、相手の魔力や殺気を感知する能力は失われていない。剣術の鍛錬を組んで最前線で戦い続けた俺は、敵を察知する能力が鋭敏だった。


「む。確かに急速接近してきてるな! 砲撃と襲撃の二段構えというわけか」


 まさか寮に入った初日に狙われるとは。

 敵も俺たちをしっかりとマークしているということか。


「真剣物質化(ソード・マテリライズ)」


 師匠は魔法を唱えて剣を生み出した。

 こちらは魔力剣ではなく誰でも使える剣だ。


「ヤナギ! 使え!」

「はい! 師匠!」


 俺が最前線で愛用していたオーソドックスかつ強固な片刃刀。

 これを持てば俺も戦力になれる。


「カナタ・ミツミとリリィは連携して守りに徹しろ!」

「ひゃ、ひゃいっ!」

「晩餐のあとに襲撃だなんて無粋な連中ですわね……」


 師匠の指示を受けて、ふたりも身構える。


 一方で……スズネはぼんやりした表情で立っていた。

 戦意も敵意も悪意も感じられない。

 この様子からすると砲撃と連繋した作戦というわけじゃないのか?


 そう思ったときには、殺意を持った黒い影が窓から侵入してきた。

 よじ登ってきたのか、下から顔を出すという形だ。


「くらえ!」


 窓から入ってくるということは逆に言えば迎撃しやすい。

 師匠は黒装束を纏った侵入者に向けて高収束魔法波を放つ。


 それは見事に直撃したが、さらに別のふたつの影が部屋に入ってきた。

 最初の奴は捨て駒か!? というか、こいつら――?


「ギギギギ」

「ジジジジ」


 黒装束から覗く顔には時計を思わせるデザインの赤い瞳。

 そして、マスク状の口からは不快な機械音が発せられていた。


「ちっ、機械人形の量産型か! 厄介な!」


 師匠は忌々しげに吐き捨てながら、再び魔剣を顕現する。


 室内で強力な魔法波を放ちすぎると寮が滅茶苦茶になるし味方にダメージが及ぶ恐れがある。そうなると剣で戦うのが有効なのだ。


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