第34話「VS量産型機械人形(室内戦闘)」

「師匠! 一体は任せてください! カナタとリリィは次の襲撃に備えて窓に結界を張ってくれ!」


「う、うん、わかった!」

「まったく、なんなんですの! この趣味の悪い機械人形は!」


 カナタとリリィは窓に向かって結界を張る。

 これで量産型機械人形二体は袋のネズミだ。


「ギギギ!」

「ジジジ!」


 量産型機械人形は奇音を発しながら、俺と師匠に襲いかかる。

 よく見ると指が鉤爪状になっていて、登攀(とうはん)・攻撃兼用といった感じだ。


「ふっ!」


 師匠は機械人形の攻撃をかわしながら斬撃を放って見事に直撃させた、が――。


「ぬぐっ!? なんだこの硬さは」


 敵は吹き飛ばされたが、すぐに体勢を立て直す。


 特殊な合金を使っているのか、あるいは魔導コーティングがされているのか機械人形の表面に傷をつけるだけに留まっていた。

 俺が以前戦ったことのある量産型機械人形とは強度が違うようだ。


「くっ!」


 俺も機械人形の攻撃をかわして胴体に斬撃を放つが――手応えがありすぎる。

 案の定、吹っ飛んだ敵はすぐに体勢を立て直してきた。胴体には傷をつけられたが、そこは金属に傷をつけたときのように鈍色に光っていた。


「ガガガ!」

「グググ!」


 そして、窓の向こうには最初に師匠が魔法で吹っ飛ばした機械人形と新手の一体が現れて結界に鉤爪を突っこんで魔導干渉してきた。


「わ、わっ! な、なにこれっ……!」

「これは……アンチ・マジカル・マテリアルで作られた鉤爪ですの!?」

「アンチ・マジカル・マテリアルだと!? ちっ! 実用化されていたのか!」


 師匠は忌々しげに吐き捨てながら、猛進してきた機械人形をかわして魔剣を背部に叩きこむ。衝撃で地面に叩きつけられるも、すぐに体勢を立て直していた。


「ジジジジ!」


 通常攻撃ではキリがない。

 ここは奥義を出すか。


「斬閃抜刀!」


 俺は体の回転力を利用した強烈な斬撃を見舞う。

 先ほどよりも強烈な一撃が決まったが、切断するには至らない。

 というか、こちらの手が痺れるほどの反動があった。


「ガガガガァ!」

「ググググォ!」


 そして、窓のほうでは鉤爪によって結界がこじ開けられた。


「ひゃっ!? う、うそっ!?」

「そんな!? ありえませんわ!」


 カナタ、リリィの魔力を持ってしても抑えきれないのか!!?


「うろたえるな! 結界を張り直せ!」


 師匠が指示を飛ばすが、遅かった。

 こじ開けた部分から、二体の機械人形が室内に侵入してきたのだ。


「ガガガガ!」

「ググググ!」


「ひゃあぁああ!?」

「気色悪いんですのよ!」


 パニックに陥ったカナタは叫ぶだけだったが、リリィは瞬時に迎撃魔法を行使して一体に直撃させる。


 ただ、室内で大規模魔法を使うわけにもいかず威力は限定的だ。

 無傷の一体に続き、リリィが傷つけた一体もスズネに合流してしまう。


「……おんぶ……」

「グググッ」


 意思疎通はできるらしい。

 無傷の一体がスズネをおぶさった。


「って、逃げる気か!?」

「ジジジ!」

「っとぉ!?」


 突っ込んできた機械人形をかわして再び斬撃を放つ。

 しかし、硬い。硬すぎる。剣にヒビが入るのがわかった。


「グググググ!」


 スズネをおぶった機械人形が離脱に入る。

 それが最優先なのだろう。

 ほかの三体は脱出路を確保するように位置をとった。


「おのれ! みすみす逃がすか!」


 師匠の魔力が跳ね上がる。

 これほどの魔力をこめれば、たとえ魔力無効化合金でも断ち切れるかもしれない。 だが――。


「師匠だめです! 寮が巻き添えになります!」


 全力で魔力斬撃を放てば、建物が崩壊しかねない。

 俺たちはなんとかなるかもしれないが、ほかの寮生に死傷が出かねない。


「くっ――!」


 師匠は痛恨の表情を浮かべるも、すぐに魔力を落とした斬撃を一番近い距離にいる機械人形に放った。


「ガガッ!」


 それは縦一文字に見事に決まった吹き飛んだが、そこで異変が起きた。


 ――プシュウゥウウウウウウウーーーーーーーーー!


 機械人形の口から勢いよく黒煙が噴き出したのだ。


「なにっ!?」

「師匠、毒ガスだとマズいです! 退避しましょう!」

「くそっ! 仕方ない、転移するか! リリィはカナタを連れて逃げろ!」


「まったく次から次へとなんなんですの!? この趣味の悪い機械人形は! カナタ、転移しますわよ!」

「わひゃあぁああ!?」


 俺は師匠に腕を掴んでもらって空間転移する。

 場所は寮の前の庭。

 遅れて、リリィに腕を掴まれたカナタも転移してきた。


「ギギギ!」

「ジジジ!」


 だが、すぐに二体が窓から飛び出してきて俺たちを囲むように着地する。

 一方、スズネをおぶった一体はすでに高速スピードで敷地外へ離脱しつつあった。


「くっ……まずは寮生の安全を守らねば。リリィ、拡声魔法で寮生に談話室から遠ざかるように呼びかけろ!」

「人使いが荒いですわね! ……あーもうっ! 『愚民ども! 談話室で謎のガスが発生してますわ! 絶対に近づいてはいけません! あともし変な機械人形と遭遇したら逃げなさい! あなたたちでは対処不可能ですわ!』」


 魔法で大音量になったリリィの声で呼びかけられて、寮の各部屋から生徒たちが動き出した気配がした。


 あの煙を吐いた機械人形が寮内で暴れ回ると厄介だったが――その機械人形も窓から庭へと降りてくる。

 煙は出し切ったのか、もう口からはなにも出ていない。


「貴様ら……よくもわたしに恥をかかせてくれたな」


 師匠の殺気が強まり、魔力が渦巻くように拡がっていく。

 外に出たので室内戦闘時よりも強力な魔力を使うことができる。


 今はとにかく、この機械人形たちを殲滅するしかない。

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