第23話「共闘~世界を救った少年と世界を滅ぼそうとしたお嬢様~」

 変に好戦的かつ短絡的な思考になっているのは、この呪いの剣によるところもあるだろう。さすがに真剣でクラスメイトを授業中に斬ろうとするなんて、いくら上級貴族でも度を越している。


 そして、この剣の厄介なところは周囲にも悪影響を及ぼすことだ。


 リーダーであるロイルが呪いの剣を持つことで、クラスメイトたちも負のオーラに引っ張られているのだ。


「まったく嘆かわしいな。上級貴族の家柄なのに、呪いを見破れないとは」


 いくら剣術の家系とはいえ、魔法について疎すぎる。

 いや、むしろあえてこの呪いの剣の力を使って戦を指揮していた可能性もあるか。

 

 これは戦場で指揮官が持つぶんには、使いようによっては意味がある。

 指揮下にある兵士たちをバーサーカー(狂戦士)化することができるのだ。

 もっとも、罠や策にハマりやすくなるので、使う場面は限られるが。


「俺の先祖は剣を手に最前線で戦う勇敢な貴族だったんだ! おまえのような口先だけの庶民とは違うんだよ!」


 俺が『最前線の羅刹』だと知らないロイルは、そんなことを言いながら次々と剣を振るってくる。


「先祖の話はどうでもいい。そんなことよりも、今のおまえ自身がどう生きて戦うかが大事だろうが」


 呪いによって、多少は斬撃の威力が増している。

 しかし、そんなものは俺にとっては誤差の範囲内。

 1000対5が1000対8になったぐらいの意味しかない。


「ほらほら、どうした? かすりもしないぞ?」

「うるせえ! 叩っ斬ってやる!」


 頭に血が昇ったロイルは、さらに力任せの斬撃を放ってくる。

 だが、脇がしっかりと締められていないので力が剣にしっかりと伝わらない。


 ゆえに、ブレる。

 そうなると、剣の速度も切れ味も格段に鈍るのだ。


「このやろぉおおおお!」


 そして、当然――頭の動きも鈍る。


「ひとつ教えてやる。強者ほど、冷静だ」


 感情が大きく揺れ動くとき、隙ができる。

 神経伝達速度が、落ちる。

 それが――隙に繋がる。


「頭を冷やせ」


 ロイルの上段からの斬撃に対して踏みこむ。

 そして、すれ違いざまに右肘を思いっきり背中に叩きこんだ。


「ごがっ!?」


 剣を正面に振り下ろそうとした力と背中からの打撃が合わさって、ロイルは地面に強(したた)かに叩きつけられた。


 最前線だったら、ここで相手の肘を全力で踏み砕いて二度と剣を持てないようにする。思わず反射的に、その動作に移りそうになってしまったが――途中で止めた。


 ここは、そう。今は平和な学園。

 戦場ではなく校庭なのだ。


「ロイル!? くっ、あんた本当に目障りなんだよぉ! 転校生のくせしてさぁ!」


 ペアを組むロイルがやられたことで、ラビが激昂する。それによって魔力は一時的に上がったが、それこそ魔術行使に必要なのは緻密な計算だ。


「死ねぇえええええええええええええええ!」


 ラビはカナタから俺に標的を変えて、魔力をぶっ放してくる。

 おお、意外と威力がある。さすが上級貴族の家柄というだけはあるか。


 ……と感心してる場合じゃないな。

 かわすのは容易いが、俺がよけたら背後の校舎にまで被害が及ぶ。


「避けなさい! わたくしが校舎のほうをなんとかしますわ!」


 さすが『殲滅の精霊』リリィ。瞬時に戦況を判断して適確な指示を出してきた。

 まさか、命を賭けて戦った相手に助けられる日が来るとは。


「任せたぞ!」


 いっそ肉体で魔法を受けとめようと思っていたが、痛い思いをするのも嫌だ。

 俺はラビの放った大規模魔力波を左横に跳んでかわす。


「これだから愚民は嫌いですのよ。貴族といっても愚かなのは変わりませんわね!」


 リリィは瞬時に対魔法障壁を展開する。

 それは大規模かつ堅牢。


 一瞬で構築したとは思えないほど精緻な術式で、ラビの放った粗雑そのものの攻撃魔法を遮り、吸収していった。


「さすがだな。ただの障壁じゃなくて吸収の効果まで付与させるなんて」


 あれだけの攻撃魔法に対して通常の魔法障壁を張ったら、大爆発が起こる。

 そうなると校舎の窓ガラスは全部割れて教室にいる生徒たちに少なからず怪我が出ただろう。


「意外と人間に優しいじゃないか」

「ふんっ、わたくしはエレガントに魔法を使いたいだけですわ」


 俺の軽口にリリィはそっぽを向いた。素直じゃないな。


「なっ!? うそだろぉ!? あたしの魔法が防がれるなんて、そんなバカな! どんなレアアイテム使ってんだよ! あたしの魔法が消されるわけがねぇだろ!」


 ラビは目を丸くしたものの、すぐに難癖をつけ始めた。

 こいつは悪い意味で、素直じゃないな。


「種も仕掛けもありませんわよ。というか、あなた……わたくしが魔法を消し去らなかったら校舎に被害が出て、それこそ退学になったのではないかしら? 少しは知性を持ってほしいですわね。家柄を誇るなら、それに相応しい品格を持つべきではなくて?」


「うるっせぇんだよ! このニセ貴族! ぶっ殺してやる!」


 逆にますます怒り狂ったラビは続けて魔法を撃とうとしたが――その腕に銀色に輝く糸が絡みついていた。


「魔巣術式・蜘蛛ノ糸。これであなたはわたくしが許すまで魔法を使うことはできなくなりましたわ」

「いつの間に!? くそっ! こんなもの!」


 絡みついた蜘蛛の糸をとろうとするも、それは叶わない。

 それでも無理やり魔法を放とうとするも不発。


「愚かですわね、本当に……。彼我の実力差が、まったくわからないなんて。ここが戦場ならあなたは瞬殺されてますわよ?」


 俺の台詞をとられてしまったな……。

 まあ、無理もないか。ぬるま湯に浸かり続けて学園生活を送っていれば、感覚は研ぎ澄まされないだろう。


「めっちゃムカつく! こうなったら、あの遅刻女だけでもみんなやっちゃえ!」


 俺とリリィには敵わないと見たのか、カナタに攻撃指示を出した。


「わーっ! やめて、やめて、もうやめてぇーーーーっ!」


 標的にされたカナタは懇願する。


 その様子から、カナタならなんとかなると思ったのだろう。クラスメイトたちは再び魔法攻撃をカナタに集中させた。


「わーーーーーーーーーーっ!」


 パニックになって叫ぶカナタ。


 だが、カナタの自動展開している魔法障壁は授業が終わるまですべての魔法攻撃を防ぎ続けるのだった――。

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