第24話「ピュアすぎるボッチ美少女」
☆ ☆ ☆
「はぁ~……今日は、びっくりしたよぉ……昨日もヤナギくんと出会ったし二日連続ですごいことが起こりすぎだよ……」
放課後の帰り道。俺の左隣を歩きながら、カナタは嘆息した。
そして、カナタの右隣のリリィは肩を竦めて口を開く。
「まったく、あなたという人は……クラスメイトたちに一発強烈な魔法を食らわせてこれまでの鬱憤を晴らしたらよかったのではなくて?」
だが、カナタは顔をブンブン振った。
俺たちがクラスメイトを攻撃しようとしたら、カナタは止めてきたのだ。
なので、結局、ひたすらカナタは魔法で防御し続けるはめになった。
「と、とんでもないよ! それで怪我させちゃったら悪いし!」
さすがカナタだった。これまでさんざんクラスメイトたちからいじめられて、さっきの授業中も罵詈雑言の嵐だったのに一切攻撃をしないだなんて……。
「魔法は攻撃するためじゃなくて動物さんたちを癒すために使いたいし……」
そうか。今日はバイトの日だったんだな。
「……本当に、あなたって人は……ここまで善人だと呆れますわね……いえ、だからこそ救世の巫女として選ばれたのでしょうけど……」
本当に純粋すぎて心配になるレベルだ。
「でも、これだけの魔法を使えるようになったんだから動物さんたちをみんな元気にすることができるよ!」
カナタはニッコリ笑う。自分のことなんて二の次。動物たちのことを優先だ。
ここまでくると聖女と言っていいレベルだと思う。
「ここまでのピュアっぷりを見せられると殲滅の精霊であるわたくしもちょっと調子が狂いますわね。でも、やはり人類は滅ぶべきですわ」
「まぁ、人間にはどうしようもなく愚かな奴らもいるだろうが……いきなり殲滅するのは、ちょっと違うんじゃないか?」
「あなた、わたくしのアイデンティティを揺るがさないでくださる?」
うちのクラスメイトみたいにどうしようもない連中もいるが、人類はそれだけじゃない。俺が最前線で共に戦ってきた奴らは、どいつもこいつも性格が最高だった。
「貴族はいけ好かない奴ばかりだろうけど庶民にはいい人はいるぞ。むしろ、庶民のほうにこそいい人はいる気がするな」
戦地になったエリアの村人たちは、みんな危険を顧みず俺たちに協力してくれた。
食事の提供だけではない。率先して負傷した兵士を看護してくれる者もいた。
「多少の例外はあるでしょうけれど、人類は滅ぶべきという意見は変わりませんわ。増えすぎてしまった人類は星の力を消耗しすぎている。もう一度やり直すべきなのよ、あなたとカナタから。……というわけで。さっさとあなたたちはつきあうべきだわ。ほら、時間がないのですから今すぐここで告白してキスしなさいな」
「ふえぇ!? こ、告白っ!? キスぅ!?」
「だから、急ぎすぎだっての!」
本当にこの精霊はやたらと色々な過程をすっ飛ばすから困る。
師匠の強引さに慣れていた俺だが、それとはまた次元が違う。
「あなたは純粋すぎるというか奥手すぎて心配ですわ。わたくしが人類を滅ぼしたあとにふたりがいつまで経っても結ばれずに子孫ができなかったら意味がありません」
「だ、ダメだよ、人類を滅ぼすなんてっ! って、子孫!? ヤナギくんと!?」
「そうですわ。あなたたちは新たなる人類の始祖なのですから、どんどん子孫を作ってもらわないといけませんわね」
「……ぷしゅうぅううう~~~」
顔を真っ赤にしたカナタは、そのまま気絶してしまう。
「ちょ、なんてこと言ってるんだ!」
地面に顔面から激突しそうになったカナタを瞬時に抱きとめつつリリィに文句を言う。純粋なカナタを弄びすぎだ。
「そういうあなたも顔が真っ赤ですわね? ふふっ、まあ、お似合いのカップルといったところでしょうか。悔しいですがソノンが選んだ人物だけありますわね。強さと純粋さを兼ね備える――それがこの計画に選ばれる資格ですから」
暗黒黎明窟というのは本当に傍迷惑な組織だ。というか、師匠がそんなカルトっぽいものに所属していたことは微妙にショックなのだが。
本来は合理主義の塊のような人だし。
「ともかく『滅びの祝祭』を迎える日まで、せいぜい学園生活というものを楽しんでくださいね♪ わたくしとしては計画実行開始とともにゲオルア学園の連中――特にクラスメイトたちは真っ先に殲滅しようと思っています――惨たらしい方法で♪」
そういうことをニッコリ笑いながら言うから怖いんだ。俺と最後に戦ったときも実に楽しそうに凶悪な魔法を行使しまくってたからな……。生粋のサディストなのだ。
「……うぅ」
そんなやりとりをしている間に、カナタの眉毛が震えた。
意識を取り戻したようだ。
「大丈夫か?」
「ふぇ……? っひゃうぅううううっ!? ヤナギくん、まだ早いよ、こういうことは! そういうことはキチンと段階を踏んでからぁーーーーー!」
……思いっきり誤解されていた。
「いや、違うからな! 俺は気絶して地面に顔面から激突しそうになったカナタを抱きとめただけだから!」
「……えっ? あっ、そ、そうだよね、そうだったんだ! ご、ごめんねっ! わたし、変な勘違いして!」
よかった。幸い、誤解はすぐに解けた……。
というか、ここ往来のど真ん中だからな……。
「ふぅ……先が思いやられますわね」
そんな俺たちを見てリリィは嘆息するのだった。
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